最低限の料理と掃除などの家事ができる“生活面で自立した男=ジリメン“。コミュニケーション・ディレクター佐藤尚之さんのこの連載では、「自立のための、継続できる料理」として一汁一菜をすすめています。具だくさんの味噌汁にごはん、それにゆで卵などの簡単な副菜の一汁一菜は、著者である佐藤さんがすでに3年以上継続している食事の形です。佐藤さん自身、体重減にも成功し、健康診断の結果もすべて好転、ただし、これを人にすすめるときに気になるのが「栄養」でした。そこで佐藤さんがお話を伺ったのが順天堂大学医学部の小林弘幸教授。知らなかった、興味深い話が盛りだくさんの対談です。
●前回の記事をご一読ください。
【vol.7自炊料理家/山口祐加×佐藤尚之対談 「おいしさ」を求めるとジリメン料理は続かない!】
●今回初めてこの連載を読んでくださっている皆さん! ぜひ、vol.1の「宣言編」をご一読ください。
【vol.1 もしかしてオレ、自立してなかった⁉】
佐藤尚之(さとう なおゆき)さん
コミュニケーション・ディレクター。
1961年東京生まれ。著書に「ファンベース」(ちくま新書)、「明日の広告」(アスキー新書)など。また“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(光文社文庫)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)などがある。
2018年にアニサキスアレルギーになって外食や旅に行けなくなり生活がガラリと変わる。一汁一菜を毎日作ってインスタグラムにアップもしている。
facebook:http://www.facebook.com/satonao
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小林弘幸(こばやし ひろゆき)さん
1960年生まれ。順天堂大学大学院医学研究科・医学部教授。
1987年順天堂大学医学部卒業。1992 年に同大学医学研究科修了後、ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、2003年に順天堂大学医学部小児外科講師・助教授を歴任する。
2006年、同大医学部病院管理学研究室教授に就任、総合診療科学講座教授を併任している。専門は小児外科学、肝胆道疾患、便秘、Hirschsprung’s病、泌尿生殖器疾患、外科免疫学。日本スポーツ協会公認スポーツドクターでもある。
国内で初の便秘外来を開設した腸のスペシャリストであり、腸内環境を整える食材の紹介や、腸内環境を整えるストレッチの考案など、様々な形で健康な心と体の作り方を提案している。また同時に自律神経研究の第一人者として、スポーツ選手、アーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導に関わる。
『医者が考案した「長生きみそ汁」』、『医者が考案した「ラクやせみそ汁」』(アスコム刊)などのベストセラー著書のほか、『世界一受けたい授業』(日本テレビ)や『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』(TBSテレビ) 『徹子の部屋』(テレビ朝日)などメディア出演多数。YouTubeチャンネル「ドクター小林弘幸の健康のカルテ」で健康情報を発信している。
撮影/原 幹和 対談原稿/小林みどり

ジリメンになるには、まず「一汁一菜」がオススメである、ということは、前回までで何度か書いた。
理由は「継続が主な目的」だからである。
世に簡単・時短料理はたくさんあるが、その中でも一番「飽きが来ない」のが一汁一菜だとボクは思ってる。ご飯に味噌汁、そして一菜。シンプルかつ食べ飽きないのが一汁一菜なのだ。だから続く。
ただ、昭和男子たちは、ひとつ疑問に思うのではないだろうか。
「味噌汁が主菜である一汁一菜って、栄養的にどうなの? 足りてるの?」
結論から言うと、充分に足りている。
というか、最強、と言ってもいいくらいである。
だからこそ「継続」にもぴったりなのである。継続すればするほど健康になっていく。
そのことをちゃんと専門家にお聞きしたいと思って、『医者が考案したがん・病気をよせつけない 最強の一汁一菜』(SBクリエイティブ)というご著書もある小林弘幸先生に対談をお願いした。
お話はなかなか衝撃的で、目から鱗が何枚も剥がれた。
まずは読んでみていただきたい。
健康は腸を整えるところから
佐藤尚之さん(以下、さとなお):40歳を超えている昭和男子に向けて、自分で料理して生活的に自立しようと提案する中で、僕がおすすめしているのが一汁一菜なんです。
これなら簡単で習慣化しやすいだろうし、僕自身、もう何年もずっとこれでやってきて体調も数値もよくなった。そのうえ痩せました。
ただ、一汁一菜だと栄養が足りないんじゃないか、とか、白飯を食べると糖質が気になる、とか、そういう声もよく聞くんですね。で、実際のところ、医学的にはどうなのかと思って今回「最強の一汁一菜」というご著書のある小林先生にお話を伺おうと思いました。
小林弘幸先生(以下、小林):一汁一菜の「一」というのはおそらく、「一食」という意味合いもあると思うんですね。つまり、三食のうち一食を一汁一菜にして腸を休めるということ。
さとなお:ああ、腸ですか。栄養が足りている云々よりもまず、腸を主体に考えると?
小林:そうですね。まず、健康は、腸から考えないといけないんです。世の中には脳のない生物はいても腸がない生物はいないんですよ。発生学的に生物はすべて腸が先にできて、そこから脳や肝臓や心臓ができていきますからね。
それに、自律神経だけでなく腸には独自の神経があり、ふたつの神経の支配を受けている臓器は腸だけなんですよ。「腸脳相関」という言葉がありますが、腸が自分で考えて脳に指令を送っているんじゃないかとも言われているくらい、腸は相当複雑で精密な臓器なんです。だから、まずは腸。腸がうまく働けば、ほかもうまくいくということです。
実は今、認知症でも糖尿病でも、さまざまな病気が腸に関係していると言われています。その極めつけがコロナ。あれで腸がいかに重要かが分かった。コロナ対策で高齢者、肥満、糖尿病の人は気を付けてと言われましたが、この三者に共通しているのは腸内環境があまりよくないこと。免疫系統の司令塔である制御性T細胞(Tレグ)は腸にたくさんいて、腸内環境が悪いとTレグが減っているので重症化してしまうんですね。
さとなお:そんなにいろいろな病気に腸が関係しているとは。年をとると誰でも腸内環境は悪化するんですか?
小林:いや佐藤さん、40歳を超えるともう悲惨でね(笑) ビフィズス菌なんて一匹もいないんじゃないかというくらい激減ですよ(笑) 腸内環境もダメ、自律神経もダメ。この場合、自律神経とは血流のコントロールですね。若い子には脳梗塞とか心筋梗塞とかないじゃないですか。年をとってそういう症状が出てくるのは、自律神経の活性度が落ちて血流が悪くなるからですね。
とはいえ、40歳を超えても、人はがんばって生きていかなくちゃいけない。だから、腸内環境をよくしたり自律神経を整えたりしましょう、という話なんですよ。40歳超えたらもう、あがきながら生きる状態。

腸にいい一汁一菜。4つのメリット
【 1. 腸を休ませる】
さとなお:あがくために、一汁一菜はちょうどいい、ということでしょうか?
小林:腸のためには食事、運動、睡眠が重要ですが、食事で言えばそうですね。腸を休ませることがとても大切なんです。たとえば外科手術の前後は食事を抜くでしょう。あれ、腸を休ませることがやはり基本なんですよ。その意味合いが、一汁一菜の本質じゃないかな。
皆さん一日三食、なんとなく5~6時間あけて食べていますね。科学的なことなんて何も知らない昔からの習慣ですが、これ、すごいことなんです。口から摂り入れた食べ物が小腸の末端まで行って消化吸収が終わるのに、だいたい5~6時間。つまり、腸がカラになって次の食べ物を受け入れる準備が整う時間とぴったり一致するんですよ。就寝前に何も食べないのだって、朝まで腸を休めるためですよね。
さとなお:なるほど。一汁一菜なら暴飲暴食にもならないですし、腸をいたわるのにうってつけかもしれませんね。
【2.食物繊維】
小林:そうですね。で、一菜の「菜」は、食物繊維のことですね。先ほど栄養が心配とおっしゃったけれど、正直に言えば、食物繊維さえ摂っていればあとはもういいんですね。食物繊維がすべてなんですよ。
さとなお:おお、食物繊維ですか。高齢者はタンパク質を摂れとかなんとかいいますが、食物繊維だけでいいんですか?。
小林:食物繊維だけ意識していればいいんですよ(笑)。魚や肉は意識しなくても食べるでしょう? 意識すべきは食物繊維の摂取。
おもしろいデータがありましてね。第二次世界大戦の頃の日本兵の便は300gもあった。ふつうの西洋人は約150~200g。つまり便がとても多かったんです。どういうことかというと、食物繊維をたくさん摂っていた、ということです。あれだけ貧しい中でも、当時の日本人は食物繊維を30g以上は摂っていたと思いますよ。
ところがその後、西洋から肉食が入ってきて食物繊維の摂取量が10gほどに減ってしまった。それで何が起きたかというと、生活習慣病が問題になり、女性の死因の第一位が大腸がん。男性もそのうちになりますよ。だから食物繊維ありきで考えなくちゃいけないんです。
さとなお:そこまで食物繊維が重要とは、はじめて聞きました。
小林:かつては腸といえば発酵食品を取ることが大事と言われましたよね。でも、いくら腸内細菌がいっぱいいても餌がなければダメらしいというのが分かってきましてね。腸内で免疫や代謝をコントロールしているのが短鎖脂肪酸という物質で、菌が食物繊維を食べないとこれが産生されないようだと。それで、食物繊維がいかに重要かが裏付けられたんですね。
さとなお:僕の一汁一菜は、味噌汁にいろんな野菜やきのこをたっぷり入れるんです。食物繊維を意識していたわけじゃないけれど、お通じは快調だし、体重が減り健康診断の数値もよくなって。もしかしたら食物繊維の摂取量が増えたからかもしれませんね。

【3.発酵食品】
小林:そうですね。とはいえ、食物繊維は善玉菌と悪玉菌、両方の餌になってしまう。善玉菌の割合を多くしておかなくちゃいけないから、発酵食品も大事ですね。
さとなお:発酵食品の菌は胃酸を通過してもちゃんと生きて腸まで届くんですか?
小林:死んでいても生きていても大丈夫です。発酵食品に含まれる乳酸菌や納豆菌、麹菌などは、生きて腸に届けば善玉菌のような働きをしますし、悪玉菌の増殖も抑えます。仮に胃酸等で死菌になったとしても、もともと腸管内にいる菌(善玉、悪玉)に刺激を与え、又、その菌たちの餌にもなり、悪玉菌と善玉菌のバランスを良好に保って、腸内環境をよくする方向へ働きます。よい腸内環境には悪玉菌も必要なのです。
日本には味噌、しょうゆ、納豆、いろいろな発酵食品がある環境なんで摂りやすいですよね。特に納豆菌は、短鎖脂肪酸の産生にも活躍してくれますよ。嫌いじゃなければぜひ積極的に食べていただきたい。
さとなお:ということは、生野菜のサラダよりも、具沢山の味噌汁に納豆ですね。これで一汁一菜ができあがる(笑)
小林:それがいいと思いますね。あとビフィズス菌ですね。
さとなお:先生、さきほど40歳を過ぎるとビフィズス菌は一匹もいない、と。(笑)
小林:そうです、そうです(笑) だから、高齢のかたはビフィズス菌入りのヨーグルトを食べるとか、サプリでも摂れますしね。

【4.ストレスフリー】
さとなお:食物繊維と発酵食品をメインに一汁一菜ですね。「一汁」に食物繊維をたくさん入れたら、「一菜」はやはりタンパク質のほうがいいですか?
小林:いやもう、何でもいいですよ。
さとなお:野菜はサラダのほうがいいなんてことは? 熱を加えるとビタミンCが壊れると聞きますし。
小林:いやいや、そんなこと気にしない方がいい。“○○しなきゃいけないとか、××しちゃダメ”とか、そういう感覚は捨てたほうがいいですよ。そういうの気にしていたら、自律神経が乱れるんで。楽しく自分の好きなものを食べる。ただ、ちょっと食物繊維を多めに意識して食べる、というだけ。シンプルにそれだけでいいんですよ。まず、楽しむ。それがベースにあったうえでの、一汁一菜ですから。
さとなお:ストレスは腸によくないということですね。その点、一汁一菜は、毎日同じことの繰り返しと言えるほど習慣化しているのでストレスはないですし、味噌汁に入れる具材にもルールなし。トマトでもピーマンでも何でも放り込んでます(笑) でも、肉とかタンパク質はどうなのかな、足りてないのかなと気になって。
小林:何でも好きなように食べればいいんですよ。腸内環境がよくなれば、腸は必要なものだけ取り入れて不要なものは排泄します。腸内環境が悪ければ、いくらいいものを食べても吸収されないんですよ。
さとなお:極端な話、腸内環境さえよければ添加物など食べても何とかなる?
小林:まあ、何とかなりますね。解毒作用もしっかりして働くし、代謝もうまくできるようになるので。何しろ腸は生き物で、優秀な脳を持っていますから、何が重要で何がダメか判断してくれる。ところが腸内環境が悪ければ、その判断を誤ってしまう。逆に悪いものだけを取り入れたりね。その結果が、生活習慣病であり大腸がんであり、という話なんです。

一汁一菜、やるなら朝。そして食前に歯磨きを
さとなお:なんだか一汁一菜を胸を張っておすすめできる気分になってきました(笑)
小林:それはよかった(笑) あとは、一汁一菜をいつ食べたらいいかという問題が出てきますが、これはもうね、朝。100%朝がいいですね。朝にしっかり食べておけば、あとは好きにしていいです(笑)
さとなお:朝ですか。一食だけやるなら夜という人もいますが。
小林:夜は腸を休める時間なんで、なるべく長く休ませたほうがいい。どうしてもというなら、できるだけ時間を早めるといいでしょうね。
さとなお:朝は忙しいので、パン1枚と卵だけなんて人も多そうです。
小林:それならお昼を一汁一菜にすればいい。とにかく、朝何かを食べることが大切なんです。朝起きて1時間半以内に食べないと、体内の時計遺伝子のスイッチが入らないですからね。
さとなお:時計遺伝子、聞いたことがあります。
小林:この遺伝子は細胞のひとつひとつにちゃんとあるんですよ。それとね、今どこの学会でも一番の関心といえば歯磨きですよ。
さとなお:え、歯磨きですか。そういえば歯周病菌がどうのと聞きますね。
小林:そうです、それです。歯周病菌が腸に入るといろんな悪さをすることが分かってきたんですね。だから歯磨きを徹底的にやるのが重要。朝起きていきなりご飯を食べるんじゃなくて、まずうがいをよくして、それから歯磨きをしてからご飯を食べるといいですね。
さとなお:長時間寝ていたから口の中に菌が増えているということですよね。夕食のときも歯磨きが先ですか?
小林:夕食のときも、本当は食べる前に磨いておいて、食べた後にも磨ければ一番いいです。
さとなお:殺菌剤入りのうがい薬とか使ったほうがいいのかな。
小林:いや、そこまで神経質にしなくてもいいと思いますけどね。ストレスになったら本末転倒ですから。普通にうがいや歯磨き。歯周病菌は胃酸でも死なないんです。やっぱり悪いヤツっていうのは強いんですよ(笑)

健康法とは、細胞のひとつひとつに質のいい血液を十分に届けること
さとなお:なるほど。腸は奥が深いですね。習慣化しやすいからと思って気軽に始めた一汁一菜ですが、こんなに腸の役に立っていたとは(笑)
小林:皆さん、あれもこれもではなく、何か軸を持たれたほうがいいですね。「健康法」というのは全身に約37兆個あるという細胞のひとつひとつに、どれだけ“質のいい血液”を“十分に届けることができるか”、なんですよ。その「血液の質」を決めているのが腸内環境で、「十分に」を決めているのが自律神経。だから、腸内環境と自律神経が2本の軸になるんです。これが徹底できれば、だいぶ健康になると思いますよ。
さとなお:60歳を過ぎて、多かれ少なかれ体調不良や病気に悩む人も出てきますが。
小林:60代はちょうど難しい時期でね。定年退職で生活も人間関係も変われば、腸内細菌にも自律神経にも裏切られる(笑) でもね、だからこそ、ここで手を打たないと。
僕の感覚では、60歳を過ぎたら人生の第4コーナーではなくて、60から80歳の20年間は第3コーナーだと思っているんですよ。確かにいろいろな病気を抱える年代で、半分の人はガンになりますし、心臓病と共存する、認知症と共存する、神経系の病気とも共存して生きていかなくちゃいけない。第2コーナーの輝かしい時期にすがっていたら、あっという間にどん底ですよ。
少しでもそんな不幸な時代が早まらないように、体のベースを作っておかないと。だからね、よく言われる「心技体」じゃなくて、「体技心」。まずは体をしっかりさせればメンタルもついてくる。第3コーナーはあがきの年代、そんなイメージですね。
さとなお:その発想で全体を乱暴に整理すると、結局は腸。そして食物繊維が大事だということですね。
小林:そうです。あれもこれもはできないですよ。僕にとっては、腸をどうやっていたわるかというのが健康の定義ですし、パフォーマンスの定義、生きていくための定義でもある。世の中には情報が氾濫しているけれど、そうやって何かひとつ軸を決めて、体づくりをもう一回やり直す。そうすると、この先にちょっと希望が見えてくる。
さとなお:その手段のひとつが、一汁一菜。
小林:そういうことです。
→次回に続く【近日公開予定】