「自立した男」とは?「自分で自分の世話ができる男」とは?
コミュニケーション・ディレクター佐藤尚之さんがそれを世に問う連載です。生活面で自立した男=ジリメンの家事を考え、そして、その道のプロに料理から掃除洗濯まで教わりましたが、洗濯の次の「アイロンかけ」プロセスの継続は難問です。そこで今回は洗濯という家事の継続、という視点から、洋服、ファッションについて、スタイリングカウンセラーの澤木祐子さんに教えていただきます。佐藤さんも自身のために基本のカウンセリングをしていただいたという澤木さんとの対談は、今を、未来を生きるジリメンにとって、大きな意識改革にまで及んだのでした。
●前回の【vol.10「家事えもん」こと松橋周太呂×佐藤尚之対談「ジリメンの掃除洗濯」は極限までシンプルに!】はこちらから。
●今回初めてこの連載を読んでくださっている皆さん! ぜひ、vol.1の「宣言編」をご一読ください。
【vol.1 もしかしてオレ、自立してなかった⁉】
佐藤尚之(さとう なおゆき)さん
コミュニケーション・ディレクター。
1961年東京生まれ。著書に「ファンベース」(ちくま新書)、「明日の広告」(アスキー新書)など。また“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(光文社文庫)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)などがある。
2018年にアニサキスアレルギーになって外食や旅に行けなくなり生活がガラリと変わる。一汁一菜を毎日作ってインスタグラムにアップもしている。
facebook:http://www.facebook.com/satonao
instagram:https://www.instagram.com/satonao310/
一汁一菜instagram:https://www.instagram.com/enjoy_ichiju_issai
note:https://note.com/satonao310/

澤木祐子(さわき ゆうこ)さん
スタイリスト/一般社団法人国際スタイリングカウンセラー協会代表理事。
パーソナルスタイリング検定振興協会、試験作成・教本著者
三笠書房「自分史上最高の私になるおしゃれの法則」著者
日本メンタルヘルス協会公認カウンセラー。
「メディアスタイリスト」として45年にわたり、テレビ、雑誌、舞台などを中心に芸能人・文化人のスタイリングを行ない、数多くの作品を残す。そのキャリアの中で、「心」と「装い」の関係の重要性を強く認識。心理学を学び、心理カウンセラーとして、個人個人が「なりたい自分」を実現するアドバイスを行う「パーソナルスタイリスト」としても活躍の場を広げている。多くの女性をはじめ、男女さまざまな階層のビジネスマンのほか、企業研修、企業イメージアップセミナーなどの活動を通して幅広い顧客から支持を得ている。次世代のスタイリスト育成にも尽力する。
パーソナルスタイリスト養成講座スタイリングカウンセラー®ホームページ | iscablog
撮影/原 幹和

撮影/原 幹和
さて、今回のテーマは「ジリメンのファッション」である。
入口は「洗濯」だ。
前回、「掃除と洗濯」を取り上げたのだが、その際の「洗濯」の項でこんなことを書いた。
【洗濯の原則①】
前提として「アイロンがいらない服を着る」。ジリメンはそれでよし!
洗濯の面倒の半分は「アイロン」と「たたみ」だ。そこをまず簡略化しよう。アイロン無用のシャツを着る。それだけで洗濯関係の苦痛が大幅に減る。え?オシャレじゃない? 大丈夫、次回、ファッションコーディネーターに「アイロンがいらない服でのオシャレ」をお訊きする。
ここで書いた「次回」が今回なわけですね。
有名なスタイリストである澤木祐子さんにご登場いただき、お話を伺うことにしたのであった。
ボクは「そういう素材でもオシャレはできますよ」という「妥協」のお話かと予想して対談に臨んだのだけど、予想は大きく外れ、妥協どころか「そっちの方がトレンドだ」みたいな話になっていったのであった。
いやぁ目鱗だったなぁ。。。いまってそうなんですね。
ちなみに、「ファッション? まったく興味ない」という男性もいると思う。
別に自分を着飾る必要はないと思うが、でも、「自立した男性」として自分の格好に無関心なのはよくないと思う。
なぜなら、今日の対談のラストの方にも出てくるが、ファッションとは「自分を大切にすること/自分をケアすること」とイコールだからだ。
つまり料理や掃除・洗濯と一緒なのだ。自分を大切に日々を営む。その根本的な部分が共通することが、今回の対談でわかっていただけると思う。
ということで、ぜひ、お読みください。
へー、いまのファッションってそうなんだなぁ、って、ちょっと意識が変わると思います。
「安物買いの銭失い、みたいなこと、意外とみなさん思ってますよね。でも今は違うんです」(澤木さん)
佐藤尚之さん(以下、さとなお):今日はよろしくお願いします。
ジリメンの連載は読んでいただいていると思いますが、今回のひとつ前の回が「掃除・洗濯」の回だったんですね。「家事えもん」こと松橋周太呂さんと対談しました。
で、洗濯の部分で、アイロンという高い壁にぶち当たりました。アイロンって大変じゃないですか。道具の出し入れもそうですが、立体的な服を細部まできれいに伸ばすスキルだとか、生地に合わせて温度調節するだとか、アイロンはジリメン初心者にはかなりハードルが高いんですよね。服を買うにしても「アイロンというハードル」を乗り越えないといけない。だったらいっそ「アイロンをかけなくていい服」を着ればいい、という発想に辿り着きました。
澤木祐子さん(以下、澤木):本日はよろしくお願いします。ジリメン、いいですね。とても共感して読ませていただきました。
そしてアイロンの話、本当にそうですね。普段の服にクリーニング店を毎回利用するのも現実的ではないですしね。だったらアイロンをかけなくていい服、つまり「シワになりにくい素材の服」を着る、という考え方、とてもいいと思います。女性にもアイロンは苦手だという人が多いですから。
さとなお:ありがとうございます。シワになりにくい服でもオシャレ、できますかね?(笑)オシャレというか、ジリメンの場合、すごくファッショナブルとかでなくてもいいので、こざっぱりした清潔な格好になればいいんですけど。
澤木:できますできます。ジリメン予備軍の方々は、もしかしたらファッション・ブランドのお店とかにあまり行かないかもしれませんけど、今「シワになりにくい素材の服」ってたくさん出てるんですよ。だからアイロンかけなくたってオシャレはできます! アイロンをかけなくてもいい化学繊維がたくさん登場しているんです。
さとなお:よかった(笑)
でも、化繊と聞くと、僕たちが若いころは安っぽいような粗悪品のようなイメージがあって…。それに、昭和男子って、もちろんおシャレな人も一定数いるんですが、どこかで「自分を着飾るのは格好悪い」みたいに思っている人もそれなりにいるんですよね。だから服に無頓着で、なんなら妻や母親に任せっきり、なんて人もいるんです。
澤木:そうですよね。オシャレであることをあまり考えたことがない人も多い気がします。自称オシャレな人でも、アルマーニとかヨージとかギャルソンとか「高いブランドを着ることがオシャレ」だと思い込んでいる人もいる。まぁそれはそれで確かにオシャレだし否定はしないんですけど、そんな高い服を着なくても、高い素材を使わなくても、オシャレはちゃんとできるんです!
さとなお:高い服=オシャレ、って、バブル世代の人は頭にこびりついているかもしれません。今でも単なるTシャツなのに高いブランドを選んだりしています。こっちのほうが素材がいいから、きっと長持ちするから結局得なんだ、くらいにも思ってる。
澤木:安物買いの銭失い、みたいなこと、意外とみなさん思ってますよね。でも今は違うんですよ。その「長持ち」という考えをいったん捨ててください。安い素材の服を着て、くたびれたらリサイクルに出す、という考え方に変えて欲しいと思います。
さとなお:安いのを買ってリサイクル?
澤木:はい、そうです。そこを意識改革してほしいんです。
ただその前に、まず、「洗濯」という家事を継続させるため、素材に対する思い込みを変えるところから行きましょうか。
さとなお:はい、お願いします。

「“天然素材信仰”はいったん置いといて、最先端素材のあるユニクロに行ってみてください」(澤木さん)
澤木:ジリメン世代の男性は、麻のジャケットだのコットンのシャツだの、天然素材こそ一流だというこだわりがありますけど、まずはそういう固定概念を捨てましょう。20年も30年も前のイメージで化学繊維を否定しないで、今の現実をちゃんと見てほしいですね。
たとえば、皆さんがお好きなデニム。コットン100%だとゴワゴワするし、なかなか乾かないしで扱いづらいですよね。それが今は、ポリエステルなどの化繊を混ぜた素材→コットンリヨセル(再生繊維セルロース)が出ていて、軽くてやわらかくてストレッチ性があって、しかも洗濯しても乾きやすいし夏は涼しいと、いいこと尽くめなんですよ。シャツだって、ノーアイロンをうたったシャツがちゃんとありますよ。
さとなお:ありますよね。
澤木:はい、シャツでもTシャツでも、洗濯機で洗ってそのまま干して、しわにならずにすぐ乾いてくれます。ハンガーに干して乾かせば、そのままクローゼットにしまえてラクチンですよ。
さとなお:干してそのまましまえるのはいいなぁ。
澤木:そうですよね。パンツでも、正面に縦に一本ピシッとセンターラインが入っているスラックスがありますでしょう? あれ、本来はアイロンでラインをつけるんですけど、自宅で洗濯ができて、しかもセンターラインが消えない商品もあります。アイロンいらずできちんと感が出せて、便利ですよね。
さとなお:なるほど、不要なしわはつかない、必要なしわはついたまま、と、適材適所な素材が開発されているわけですね。
澤木:そうです。本当にいい世の中になりました(笑)
さとなお:どれがノーアイロンなのかって、どうやって分かるんですか?
澤木:タグを見ればコットン100%でないことは分かりますし、店員さんに「こういうシャツを探している」と聞いてもいいですね。シャツなら「形状記憶」なんて呼ばれているケースもありますし、デニムなら「ストレッチ」とか「速乾」なんてポップが目印になると思います。
さとなお:それはどこのお店でも?
澤木:カジュアルなお店なら、そういう商品が多いと思います。心配ならユニクロに行くといいですよ。ユニクロは特に素材の開発で最先端をいっていますから。
さとなお:そうなんですね。でも、ジリメン世代の男って「安い服を着ると自分自身も安っぽくなるような気がする」とか思ってユニクロを避ける人もいますよね。
澤木:それこそ偏見ですね。今や世界のユニクロですから(笑) 最先端の素材をよく研究しているので、服を着ることがこんなにラクなのかと驚くと思いますよ。
たとえば、今日の私のジャケットもユニクロの「感動ジャケット」なんですけど、どうですか?
さとなお:え、そうなんですか? いやぁ、ユニクロには見えないな、なんて思わず言ってしまいますが(笑)
澤木:でしょう? 私もね、最初は何が「感動」なんだろうって半信半疑だったんですよ。でも実際に着てみてびっくり。すごく軽くてストレッチが効いていて涼しくて、着ていてとにかくラクなんですよ。洗濯機でジャブジャブ洗えてすぐ乾いて、もちろんノーアイロン。お手入れもストレスゼロです。

「“大量生産→廃棄の時代からリサイクルへ”の流れに自分も参加する意識で」(澤木さん)
さとなお:この世代はバブル前後に青春時代を送ったからでしょうか、どうしても高級ブランドのほうが上だと思っちゃうんですよね。このプライドだか見栄だかを消さないとダメなんだろうなぁ。
澤木:そんなことはないですよ。 デザイナーズのものも素敵な魅力がありますよ。ただね、この年齢になってもまだ洋服にお金をかけたいですか? ということなんです。
さとなお:ああ、そうか、そうですね。
澤木:私たちが若い頃はブランド物が人気で、お洋服にお金をかけていましたけど、年齢を経た今では、自分のスタイルができているし人格もできている。だから、ユニクロを着てもちゃんとその人なりに見えるんですよ。逆に若い人は、ユニクロだとイメージが薄くなってしまうから、ファッションにお金を遣えばいいと思うんです。
さとなお:若い人は、まだ自分のスタイルや人格ができ上っていないから。
澤木:そうそう。鎧じゃないですけど、ちょっと大きく見せるとか自分の趣味嗜好を示したいとか。でも私たちは、もうリラックスしている世代ですから、長く着るための高価なものを求めるのではなく、今を楽しめばいいんじゃないかなと思っているんです。
さとなお:とても納得します。なんで昭和世代って安いブランドとか工場で大量生産とか、なんとなく抵抗があるんだろうなぁ。
澤木:たぶんジリメンの皆さんは、大量生産→大量「廃棄」の時代だったので抵抗があるんだと思います。いいものを長く着るのがカッコいいというね。
でも今は「大量生産→リサイクル」の時代なんですよ。ユニクロの古着をお店に持っていくと、リサイクル素材になって新たな服として生まれ変わるんです。
高い服を長く着ると言っても、若い頃に買って今もタンスの肥しにしているハイブランドの服、結局何回着ましたか? もったいなくて着れないなんて言いながら出番がなかったら、それこそもったいない。そもそも、ジリメン世代でこれから買って長く着るって、あと何年?ってなりますよね(笑)
それよりも、ちょっとのトレンド感もありながら安くて買い替えしやすい服を、清潔に着るほうがいい。気軽にガンガン着られれば、コスパもいいですしね。色褪せてきたら捨てるんじゃなくて、リサイクルして新しい服に生まれ変わらせるんです。
布は腐らないから土に返らず、燃やすしかないんですね。それは環境に悪い。だから、リサイクル。ユニクロを着ることでSDGsに貢献すればいいんです。ユニクロで服を買うのは実はカッコいいことなんだって。
さとなお:おおお、なんかすごく説得されました! そこの意識を変えなくちゃいけないんですね。
澤木:そうそう。工業製品を否定する時代ではないですね。ユニクロは3Dニットの機械で有名な島精機製作所とコラボしていて、糸からそのまま服の形に仕上げているものもあります。だから、生地の切れ端などの無駄が一切出ない。企業として、環境への取り組みが素晴らしいですよね。
別に私、ユニクロの回し者じゃないですよ!(笑) ファッション業界全体がそういう流れになっているんです。ステラ・マッカートニーなど、リサイクル素材やサステナブルに注力する世界的なブランドはたくさんありますから。
さとなお:そのサステナブルな流れに参加することが、カッコいいんだと。
澤木:そうです、そうです。だからはじめの一歩は、堂々とユニクロへ(笑)

「アイテムと色選びの基本は“シンプル”。そして、試着は自分をよく見せるために大事ですよ」(澤木さん)
「オシャレって『自分を大切にする』ということですよね」(さとなおさん)
さとなお:では、ジリメンの皆さんはさっそくユニクロへ(笑) それは納得いったんですが、では、そういう素材の服をおしゃれに見せるにはどうすればいいか教えてください。
澤木:はい、ではここからジリメンの皆さんをこざっぱりと、しかもカッコよく見せる服選びの話に行きましょう!
ジリメンのみなさんは、まずシンプルなものを選ぶこと。
アイテムは無地のTシャツ、パンツはデニムかチノパン。色は全体を3色までに収めると、初心者さんでもスッキリまとまると思います。基本は、黒や白、ネイビー、ブラウンやグレーといったベーシックカラー。そこに、ポイントになるようなアクセントカラーの小物をプラスするとおしゃれです。
さとなお:ボクはすでに澤木さんに個人で見てもらったことがあるんですが(注:澤木さんはファッションのパーソナル・コーティネーターもされている)、そのとき黒Tが似合うと言われたんですよね。だから今は、クローゼットの中はほぼ黒Tばかりです。
澤木:黒はいいですよね。男性をカッコよく見せてくれますし、夏は汗が一番目立たない色でもありますから。今日のさとなおさん、黒い無地のTシャツとデニムのブルー、この2色で8割を占めていて、残りの2割はメガネや腕時計の赤い小物。うん、完璧ですね、とてもかっこいいですよ(笑)
さとなお:ありがとうございます(笑) Tシャツが苦手な人はどうしたら? 衿がないと落ち着かないとか。
澤木:そういう方は、ポロシャツがおすすめです。これも無地ですよ。胸にブランドマークのワンポイントは避けた方がいいです。休日のお父さんのゴルフウェアになってしまいますから(笑)
さとなお:それは確かに避けたい(笑) サイズ感はどうですか。最近の若い人は、ダボっとした服だったりピチッと体にフィットした服だったりいろいろ着てますよね。
澤木:サイズ感はすごく大事ですよね。ジリメン世代の方は、ぴったりよりも、ややゆとりがあるフィット感がいいと思います。
ただね、どの服でもたとえば自分はMサイズだとか思い込まないでほしいんです。服はメーカーやデザインによって、同じMサイズでも丈が短かったりオーバーサイズだったりと、いろいろあるんです。試着してみて、Lサイズのほうがゆとりがあっていいとか、Sサイズのほうが丈がちょうどいいとか、自分の体形に合うサイズを選んでください。
さとなお:試着かぁ。これがまた面倒なんだよなぁ。
澤木:気持ちは分かりますけど、でも試着は大事ですよ。ちゃんと似合う服を着て、自分を引き立ててあげましょうよ。全身鏡で自分の全体像をしっかり見るチャンスでもありますし。
ジリメン世代の男性は、きっとこれまで自分のことなんておざなりだったでしょうから、そろそろ自分自身を大切にしてあげてもいいのでは?
さとなお:そうですよねえ。ファッションって自分を大切にすることにつながりますよねぇ。
ジリメン世代は「24時間働けますか」の世代でもあって、自分のことは後回しで仕事仕事だったから、自分を大切にする、という意識が低い人がわりと多いんです。なんなら無頼派や破滅型に憧れたくらいで(笑)。その辺の意識も変えないと、ですね。
澤木:そうです、そうです。服選びも家事の一端、つまり自分を大切にすることなんですよ。ファッションを変えると生活が変わります。ぜひその意識で服選びに臨んでいただきたいと思います。

→次回に続く【近日公開予定】
【宣言篇】Vol.1「もしかしてオレ、「自立」していなかった!?
【社会問題篇1】vol.2浜田敬子×佐藤尚之対談「ジリメン」は社会問題を解決する(前編)
【社会問題篇2】vol.3浜田敬子×佐藤尚之対談「ジリメン」は社会問題を解決する(後編)
【料理篇4】vol.8 自炊料理家/山口祐加×佐藤尚之対談「おいしさ」を求めるとジリメン料理は続かない!
【料理篇5】vol9.順天堂大学医学部教授/小林弘幸×佐藤尚之対談 先生、一汁一菜で栄養は足りてますか?