たいら由以子さんの「コンポストから始まる循環する暮らし」のお話です。 今回は都市のコミュニティガーデンにどんなことができるか、どんな効果が生まれるかの考察から、インフラとしてのコミュニティガーデンの可能性について。 今年のように災害級の雨が降ることは、もはや特別ではなくなっています。 いざというときに、コミュニティガーデンは安心の場所としても機能するのです。 イラスト、タイトル文字/たいら由以子 撮影/原 幹和

みなさん、こんにちは。たいら由以子です。 前回は、コミュニティガーデンが生み出す「目に見えない価値」の話をしました。今回は、その価値を社会全体に広げていくために、わたしが今取り組んでいることをお話ししようと思います。
グリーンのインフラをつなぐ仕事
コミュニティガーデンには、「育てて食べる」という体験があります。 ニューヨーク・マンハッタンを訪れたとき目にしたのは、都市化が進むほど子どもたちが新鮮な食べ物から遠のいていくという問題がある中、コミュニティガーデンが、「自分で育てて食べる場」をつくっている光景。 自分で野菜を育てて食べる、という体験。
自分たちが食べる食材に対して自主的な関わり方ができる場所づくり、それを日本でもやりたいと思ったんです。

マンハッタンでは、コミュニティガーデンなど食の循環に関わるボランティアから始まって、それを仕事にする人も出てきていました。
生ごみが堆肥になって、食べものになって、また食卓へ——このグリーンのインフラをつなぐ仕事が経済の一部として機能している。
わたしは日本でもそういう仕組みをつくりたいと思っています。
コンポストから始まる「循環型コミュニティガーデン」が、グリーンジョブを創出していける拠点になっていく。そのためには、ガーデンを支える人材が必要です。
今年7月から「コンポスト&ガーデンクルー初級養成講座」をスタートしました。その人たちが各地域に根づいていくことが、循環のインフラを広げることになると思っています。

「いざというとき」人とのつながりの安心を醸成する場
コミュニティガーデンという「場」があれば、コミュニティや学びが勝手に育っていく——それがわたしの実感です。 それだけではなく、災害列島と呼ばれる日本に住む私たちにとって、とても大切なものもここで培われます。
コミュニティガーデンでの活動を通して人とのつながりが増えると、いざというときに助け合える。
防災用のリュックを揃えることも大事だけれど、助け合える仲間がいる、その仲間がいる場があることは大きな安心になります。
何しろそこには食べ物を育ててくれる土がある。
災害のとき、電気などのインフラが止まっても、ここで育てたものがある、さらには、自分にもみんなのためにできることがある——そう思えることが、本当の意味での備えだと思っています。
コミュニティガーデンが増えることで、環境そのものも変わっていく。
焼却するごみが減る、荒れた場所が少し整っていく。
一番自然から遠い生活をする人たちの多い都市部からコミュニティガーデンの考え方が広まって食の循環の活動が仕事に繋がっていけば、その流れが地方にも届き、この食料自給率の低い日本全体が整ってくるんじゃないかな……わたしはそう思っているのです。
ART FARM IKEJIRIではソイルメイトがコンポスト(堆肥)から電気を収穫し、イルミネーションの光をともしています。ソイルメイトインスタグラム
さらに令和の今、「開発」の考え方を変える必要があります。
いまだにうちの近所でも、とっておきたい自然がある場所に住宅が建ったりする。
自然や循環を大切にする考え方を持つ人が企業や行政の中枢にいれば、そんなことはしないはずなんです。
今ある自然を生かした開発・地域振興とは何か、という考え方になるはずだから。
土と太陽と水さえあれば
コミュニティガーデンという「場」には様々な効用がある。
そこでいろいろな人と話したり作業したりして過ごすうちに、 「何かあっても、ここに来れば何とかなるかな」と思えるようになる。
今までは買っていた里芋も、自分で育てられることがわかる。
買わなくてもいろいろできるんだということが、ここで学べる。
つまり、お金に頼りすぎない暮らしへの自信がつく。
土と太陽と水さえあれば、なんとかなる。そう思える場所が、日本全国、半径2キロにひとつづつ、1500か所以上ある。 それが、わたしの目指す、この国のかたちなのです。
●著者紹介 たいら由以子(たいら ゆいこ)さん 福岡市生まれ。大学で栄養学を学んだ後、証券会社に入社。結婚後に地元の福岡に戻り、父親との別れをきっかけに「栄養循環」を半径2㎞単位で作ることで持続可能な食の仕組みを構築することを決意。1997年よりコンポストの普及とコンポストの人材育成事業を展開する。ローカルフードサイクリング株式会社代表、LFCコンポスト代表を務める。
ローカルフードサイクリング株式会社 循環型コミュニティガーデン協会
●たいらさんの新刊「おいしい循環」をご紹介しています。ぜひご覧ください。

【コラム】コミュニティガーデンを訪ねて③ ART FARM IKEJIRI 所在地:東京都世田谷区池尻2丁目4-5 HOME/WORK VILLAGE屋上(旧池尻中学校跡地) 旧池尻中学校の跡地に誕生した複合施設「HOME/WORK VILLAGE」。その屋上に広がるのが、ART FARM IKEJIRIです。「都会の屋上にみんなでつくる新しい”里山”」をコンセプトに、野菜や果物、お茶、水田、都市養蜂まで、年間を通じて多彩な農の営みが息づいています。LFCコンポストの堆肥も活用しながら、豊かな土づくりが行われています。

会員がシェアファームとして農作業に参加するほか、Wi-Fi完備でリモートワークに使う人、子ども連れでゆっくり過ごす人も。農園で採れたものをその場でいただくファームツーテーブルも実践しています。

池尻のビルの屋上で育つぶどうの木。このブドウからワインも作られるのでしょう。 共同代表の一人、石田紀佳さんは「ブドウは何千年もの間、人間の糧になってきた植物。気候変動が進む今、この屋上という新しい環境でブドウを育てながら、植物と人間の関係を学んでいます」と話します。また「「国籍も宗教も違うけれど、ここに来るとみんな”平和の大切さ”を実感する」と、この場所が持つ力を語ります。 固定種のルッコラを育て、種を採り、また植える。 あと3年で「池尻ルッコラ」になる——この土地に根づいた種を育てる試みも続いています。 ART FARM IKEJIRI
●「地球にいいことの始め方-台所から始める、循環させる暮らし」記事一覧
vol.1 父の命が教えてくれた、食べものの本当のちから
vol.2【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「ずっとそこにあった母の堆肥」】
vol.3【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「半径2キロの魔法〜主婦の生活圏で完結する循環のかたち~」】
vol.4【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「わたし」、という言葉】
vol.5【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「全部、ひっくり返す」】
vol.6【たいら由以子 地球にいいことの始め方―地域で循環を起こす・コミュニティガーデン】
vol.7【たいら由以子 地球にいいことの始め方ー人を良く変えてくれる場所】
vol.8【たいら由以子 地球にいいことの始め方―数字に表せない価値】
vol.9【たいら由以子地球にいいことの始め方ーコミュニティガーデンというインフラ】














