「こんなに素晴らしいことをどうしてみんなはやらないのだろう⁉」
たいらさんはその強く熱い思いとは裏腹に、なかなか人がコンポストでの堆肥作りを始めないことが不思議で仕方ありませんでした。怒りさえ湧いたそうです。
が、やがてその原因は自分の側にあると気づいたたいらさんが、新たなステージに立って完成させたのが、この活動の象徴のようなトートバッグ型のコンポスト。
何かをやろうとして、思い通りに人がついてこないときはまず自分を省みるーこれもよく生きるために必要なスキルだな……そう気づかせてくれるお話です。
撮影/原 幹和

みなさん、こんにちは。たいら由以子です。
前回は、NPO活動のなかで「わたし」という言葉を消し続けてきたわたしが、一人称で語ることを自分に許すまでの話をしました。今回は、その「わたし」が最初につくったもの——LFCコンポストバッグが生まれるまでの話です。
やらない理由を、聞き続けた
NPO活動を続けていたころ、わたしは講座を300回、500回と重ねて、年間2万人ほどの人と直接会ってきました。そのたびに、コンポストをやらない理由を、わたしは人々に訊ね続けました。
「臭いが出そう。」「虫が来るんじゃないの。」「マンションに置く場所がない。」「堆肥をつくっても、使い道がわからない。」
おおむね、そんな意見が多かったのです。
活動を始めたころは、全員が絶対コンポストをやる! って思い込んでいたんです。
だからこそ、多くの人はなぜやらないのか、なぜわからないのか、と腹が立ちました。
じつは、その考え方が間違っていたことに気づくまでに、何年もかかりました。
問題は、相手ではなく自分の側にある——そう気づいてから、行動心理学を学んだり、人が行動に移すしくみを考えたりするようになりました。やらない理由を一つひとつ丁寧に聞き、記録し、研究を重ねる。そうしたら見えてきたのです——言われてきた「やらない理由」を全部ひっくり返したら、「じゃあこれだったらやるよね」が見えてくる、と。
こうして、生まれた
生ごみは、捨てればごみ。でも循環させれば、栄養になる。
都市には、その生ごみがあふれている。それに価値を与えたい——ずっとそう思ってきました。
「虫が来る」「臭う」「場所がない」——そんなコンポストのイメージを根こそぎ変えなければ、都市に暮らす人たちを動かすことはできない。その答えが、バッグ型のコンポストでした。
デザインには妥協しませんでした。自分が買いたいか。お金を出したいか。かっこいいか。マンションのベランダに置いてあっても、絵になるか。
わたしは子どものころから妄想家で、頭の中で想像することが、大体動画で見えてくるんです。
バッグの形も、使っている場面も、最初からくっきり見えていました。水や虫の侵入を防ぐファスナーをつけたことは、当時としては画期的でした。バッグの生地も、呼吸できる部分と呼吸しない部分を使い分けています。
やらない理由に、一つひとつ、形で答えていきました。

素材を探して、縫製先を探して
形が決まって、次は素材です。
コンポストを広める活動をしながら、素材そのものが環境への負荷になるのでは本末転倒——そう思っていました。ちょうどその頃、中国がペットボトルの引き取りをやめて、国内にリサイクル素材が余りはじめていた。——これしかない、と思いました。
リサイクル素材を扱う分野で一番有名な会社の社長に電話をかけ続けました。最初はなかなかつないでもらえなかったけれど、諦めずに連絡し続けて、ようやくつないでもらい、素材を調達できるようになりました。
素材が決まった、でもその次は縫ってくれるところが見つかりませんでした。
毎日、車であちこちを走り回りました。断られて、紹介してもらって、また断られて。真っ暗になってから飛び込んだ先で、「妹を紹介してあげる」と言ってくれた人がいた。
帰り道、わたしは泣いていました。
使いやすさを、とことん追う
バッグの中に入れて生ごみの分解を助ける基材の開発にも、こだわりがありました。
ピートモスのような枯渇資源は使わない。茶殻や落ち葉、海藻、炭など40種類以上の素材で組み合わせを試しました。快適性、環境への負荷、堆肥としての質を評価軸に、実験を重ねました。
バッグのサイズも、感覚では決めませんでした。1日あたりの生ごみの量と、1〜3ヶ月分の使用量を計算して、基材がちょうど収まる容量から逆算しています。
起業の際に創業支援をしてくれたボーダレス・ジャパンの田口さんと一緒に、細部を何度も確認しながら形にしていきました。発売後も、ユーザーが使いにくいと感じたポイントをヒアリングして、改良を重ねています。
人がコンポストをやめてしまう理由を一つひとつ潰していく。それがわたしの仕事でした。

「これがコンポストなの?」
このバッグが初めて『オレンジページ』に掲載されたとき、それは小さな写真一枚でした。後から聞いた話ですが、読者アンケートで、その小さなコンポストの写真への自由回答が十数件もあったそうです。
「何これかわいい。」「これがコンポストなの?」
料理や暮らしのテーマが並ぶ誌面のなかで、これほど自由回答が集まるのはなかなかないことだと。
その話を聞いて、わたしはとても嬉しかった。
嬉しかったけれど、同時にこう思いました。今までのわたしの、何が悪かったんだろう、と。
同じわたしがやっているのに、ダンボールコンポストのときとは全く反応が違う。形が変わっただけで、こんなにも人の反応が変わる。
デザインの力が、これまでコンポストに縁のなかった人たちを呼び寄せました。ユーザーの9割が初心者だったのです。これまで生ごみを捨てていた人が、コンポストを始めてくれるようになった。
後から考えれば、発明だったんだと、今は思っています。

●次回予告 vol.6は、食の循環が様々な人々の自分事になるコミュニティガーデンのお話。人が集まればそこには常に新しい何かが生まれるようです。
●著者紹介
たいら由以子(たいら ゆいこ)さん
福岡市生まれ。大学で栄養学を学んだ後、証券会社に入社。結婚後に地元の福岡に戻り、父親との別れをきっかけに「栄養循環」を半径2㎞単位で作ることで持続可能な食の仕組みを構築することを決意。1997年よりコンポストの普及とコンポストの人材育成事業を展開する。ローカルフードサイクリング株式会社代表、LFCコンポスト代表を務める。
●たいらさんの新刊「おいしい循環」をご紹介しています。ぜひご覧ください。
●「地球にいいことの始め方-台所から始める、循環させる暮らし」記事一覧
vol.1 父の命が教えてくれた、食べものの本当のちから
vol.2【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「ずっとそこにあった母の堆肥」】
vol.3【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「半径2キロの魔法〜主婦の生活圏で完結する循環のかたち~」】vol.4【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「わたし」、という言葉】
vol.5【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「全部、ひっくり返す」】














