食べ物は捨てればゴミだけどコンポストにすれば堆肥となり、また食べ物を育てる。そんな「半径2キロの栄養循環」、その活動に長年取り組むたいら由以子さんの連載です。
前回はたいらさんの「ローカルフードサイクリング」(LFC)の代名詞ともいえるトート型のコンポストバッグができるまでのたいらさんの奮闘のお話でした。
今回は「コミュニティガーデン」について。そして、「平和」についてのお話です。
イラスト、タイトル文字/たいら由以子
撮影/原 幹和

農林水産省のモデル拠点として2024年に始動しました。ガーデンではコンポスト講座や農作業体験などのイベントも随時開催。自然やコンポスト、循環型の暮らしに関心のある人なら地域住民でなくても、誰でも参加できます。
参加情報はInstagram:@satoyamabase_jindaiji_and_lfcで発信されています。
みなさん、こんにちは。たいら由以子です。
前回は、LFCコンポストバッグが生まれるまでの話をしました。
「コンポストはいいことばかりなのに!なぜみんな始めないのだろう」——私は「やらない」という人にその理由を聞き、やらない理由を全部ひっくり返し、やっと「虫が入りにくい、臭いがしない、狭いベランダでも置ける」トート型のコンポストバッグを完成させたのです。そして、そのバッグが、これまでコンポストに縁のなかった人たちを呼び寄せていった。
そう、コンポストー堆肥づくりから始まったわたしの活動は、バッグという形になって、やっと都市に広がっていき始めたんです。
でも、わたしが目指しているのは、その先にある「循環」です。
生ごみが堆肥になり、食べものになり、また食卓へ——その循環を地域で起こす起点となる場所が、「コミュニティガーデン」なのです。
今回は、その話をしようと思います。
市民農園とコミュニティガーデンは全然違うもの
「コミュニティガーデン」という言葉を聞いたことがありますか?
日本で一般の人が「農」に関わる場といえば、市民農園が思い浮かぶかもしれません。でも、コミュニティガーデンの概念は、市民農園とは全く違うんです。
市民農園は区画を借りて自分で育て、自分が収穫して食べる。それに対し、コミュニティガーデンは、みんなで野菜を育てて、みんなで収穫して食べる。
栽培を計画して収量を上げることが目的じゃない。作って食べること、楽しむことを中心に置いた場所、それがコミュニティガーデンです。
たくさん収穫して、売って儲けようということではない。みんなで野菜を育てて収穫して、自分の分を持ち帰って家族とともに食べる、そのプロセスそのものをみんなで楽しむ。
そして、できれば循環型であること。地域の循環拠点になって、自給自足の技術や季節のことをこの場で学んで、家に帰ってそれを活用する——そんな場を、わたしはずっとつくりたいと思ってきました。


言葉が変わると、行動が変わる
10年ほど前、マンハッタンを訪れたとき、都会の真ん中に100を超えるコミュニティガーデンがありました。日本人は農耕民族で、みんなで何かを協力してやる精神は持っているはずなのに、なぜ日本にはないのだろうと、悔しかった。
でも、振り返れば、わたしもずっとやっていたんです。
福岡で海が見える山のふもとに庭をつくって、子供たちや若者とみんなで野菜を一緒に作って食べる。引きこもりの子も、非行少年もみんな一緒に。そんな農園をやってはいたんです。
ただ、それを「教育農園」という位置づけにしていたんですね。教育農園って、ちょっと“上から”なんですよね。「教えてやろう」みたいなニュアンスがあった。
そうじゃないんです。
マンハッタンで見て、ああ、これだ! と。
わたしがやりたかったのは「コミュニティガーデン」だったんだ、とちゃんと認識したことで、「教育農園」が「コミュニティガーデン」へと、私の頭の中で“言葉”が変わりました。
言葉が変わると、意識が変わる。意識が変わると、行動が変わる。モノの置き方も、伝え方も、関わり方も。そしたら、同じ農園にもっと人が来るようになりました。

自分の行為が実を結ぶ体験
コミュニティガーデンには、いろんな人が来ます。高校生、大学生、高齢者、メンタルが不調な人。最近オープンしたコミュニティガーデンには、54人が集まってくれました。
私はみんなに、植物を育てるのは、子育てと同じだとよく言います。つまずいたり、虫にやられたり、天気に左右されたり。その成長をサポートしていくなかで、相手(野菜)が元気になると、こっちも元気になる。自分の行為が実を結ぶ体験は、何ものにも代えられません。
ここで起きる変化は、目に見えるものばかりではありません。でも、確かにあるんです。

平和って、こういうことなのかな
最近、コミュニティガーデンについて話すとき、「平和」という言葉をよく使うようになりました。
戦争は、資源の奪い合いから起きる。だったら、分け合えばいい。
みんなで土を耕し、堆肥をやり、育て、収穫したら、「これは私が植えたんだから、取らないでね」なんてことにはならない。
「食べる」という生物の基本の行為を目的に、じゃあそのためにみんなで何をするかを一緒に考える。どう生きたらよいかを考え、実行する。それが資源の分け合いにつながっていく。
コミュニティガーデンに来ると、作業を通して、誰でも最初から自然と仲良くなれる。
たぶん、心理的に「ここは安全な場所」と感じられるのだと思うのです。
「斜めの関係」とでも言うのかな、そんなに深く仲良くしなくてもいいけど、とりあえず畑に行ったら誰かいて、同じ目的にむかって、みんなが自分ができること、得意なことをやる。助け合う。
そういう場が半径2キロに一つあれば、居場所がないと感じる人でも孤独が和らいで、みんなと分け合うことの楽しさや自分の変化を実感する。それが、ひいては平和につながっていくと、わたしは本気で思っています。


半径2キロに、1か所ずつ
わたしの目標は、全国の政令都市で1500カ所のコミュニティガーデンをつくること。
2024年に「循環型コミュニティガーデン協会」を設立しました。2026年の今、登録団体はすでに210を超え、ガーデンの数も100カ所以上になってきています。
生ごみが堆肥になり、食べものになり、また食卓へ上り、栄養は循環していく——そのグリーンのインフラをつなぐ仕事を新たに始める人が、少しずつ増えてきています。
私はこれを国策にしてほしいと、本気で思っています。
耕作放棄地、空き家、廃校——日本中にある「使われていない場所」が、コミュニティガーデンになったらいい。
今、孤独を感じる人が増えていると聞きました。「居場所」がない、と。
一度、コミュニティガーデンに来てほしい。コミュニティガーデンに通ううちに孤独を感じる人が減ればいいなと思うんです。
なんでもスマホで、AIで検索して知識を得てしまう世の中で明らかに減ったのは「尊敬できる大人」との直接の出会いなのではないでしょうか。
でも、ここでは、一緒に堆肥作りや農作業をしながら、自分のできないことをどんどんやり、知らないことをどんどん教えてくれる「尊敬できる大人」と出会える。そして、いつかは自分もそうなれる。
わたしはコミュニティガーデンとはそういう癒しと出会いの場だとも思っています。
「食べて捨てる側の人」よりも「食べて循環させる人」が多くいる。
そんな社会を、半径2キロから始めたいのです。
ローカルフードサイクリング株式会社
循環型コミュニティガーデン協会
●次回予告 vol.7は、コミュニティガーデンで実際に起きている変化の話をしようと思います。
●著者紹介
たいら由以子(たいら ゆいこ)さん
福岡市生まれ。大学で栄養学を学んだ後、証券会社に入社。結婚後に地元の福岡に戻り、父親との別れをきっかけに「栄養循環」を半径2㎞単位で作ることで持続可能な食の仕組みを構築することを決意。1997年よりコンポストの普及とコンポストの人材育成事業を展開する。ローカルフードサイクリング株式会社代表、LFCコンポスト代表を務める。
●たいらさんの新刊「おいしい循環」をご紹介しています。ぜひご覧ください。
●「地球にいいことの始め方-台所から始める、循環させる暮らし」記事一覧
vol.1 父の命が教えてくれた、食べものの本当のちから
vol.2【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「ずっとそこにあった母の堆肥」】
vol.3【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「半径2キロの魔法〜主婦の生活圏で完結する循環のかたち~」】vol.4【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「わたし」、という言葉】
vol.5【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「全部、ひっくり返す」】
vol.6【たいら由以子 地球にいいことの始め方―地域で循環を起こす・コミュニティガーデン】














