食べ残しや皮などの生ごみはごみではなく、堆肥にして野菜を育て、循環させればまた私たちの命を守る食べ物として帰ってくる。「半径2キロの栄養循環」という言葉を初めて聞いた時、なんて素敵な言葉だろう!と、理屈抜きにたいらさんが作ろうとしている全体像がイメージできたことを思い出します。さて、今回はそのお話です。
撮影/原 幹和
イラスト・タイトル文字/たいら由以子

みなさん、こんにちは。たいら由以子です。
前回は、母がずっと継続していたたい肥の“発見”についてお話ししました。
ごみだったものが食べものになって返ってくる。その循環のイメージが、スッとつながった日のこと。
今回は、その循環を、どう広げていこうと考えたのか。なぜ「半径2キロ」なのか。お話ししたいと思います。
「食卓」がスタート地点
循環生活研究所を立ち上げるとき、仲間たちとこんな話をしました。
「地域の中で生ごみと食材を循環させたら、みんなが幸せになれるんじゃないかな」
「じゃあ、どうしたらみんなが面白がってくれるだろう」発想の始まりは、いつも食卓でした。
この目の前のテーブルのサイズが出発点で、家族から、地域へ。
そういうふうに広がっていったんです。
たとえば、自分には必要がなくなったものや衣類を、地域内でフリーマーケットをして、次の人に渡していくことができる。家の近くで安心な食べものが手に入る。そういう暮らしが実現したら、本当に幸せだよね、半径2キロで安心して暮らせるよね、って。
この「半径2キロ」という言葉にたどり着いたのは、活動を始めて5年くらいしてからでした。でも最初から、主婦の生活圏内でできることを始めないと、と考えてはいたんです。バス停でいうと2〜3つ。駅まで2キロとか、そのくらいの距離感です。
社会の仕組みを変えないと
よく言われるんです。「自分の子どものためだけなら、社会的活動をしなくてもよかったんじゃないか」って。
でも、違うんです。
保育園以降は、子どもは他人に預けることになります。自分の家の食卓だけ気をつけても、社会の仕組みが変わらなければ、子どもの口に入るものは変わらない。どこに行っても、安全なものが食べられるようにしたい。だから、社会的な活動が必要だったんです。

やりたいことを、やり抜くために
やがて私はNPO活動を始め、そこで組織作りの大変さを学びました。
会社と違って、NPOは個々人が自由です。
「共に活動します!」という意思表示があるだけで、会社のように毎日そのために働く義務はない。そして、割と個性的な気質の人の集まり。
だから、ビジョン・ミッションがしっかりしていないと駄目なのだと気づきました。
やりたいことを、目標達成までやり抜くには、母体となる組織体がしっかりしていないといけない。そこがぐらぐらしていると、目標の輪郭さえ見えにくくなってくる。だから、とにかく組織の力を強くしよう、私はそう決心し、強い組織作りの勉強に没頭しました。福岡県の環境NPO視察の一行の一人としてアメリカへ行き、環境活動の組織や仕組みを学び、帰国後、福岡市と一緒にNPO法人を立ち上げたのです。
食べる人と、作る人と
組織が育っていく中で、見えてきたことがあります。
当たり前のことですが、生物は食べないと生命が維持できません。人も同じです。
だから今、「食べる」側の人は世界中にいます。でも、「循環を作る」側の人の比率は、すごく少ない。
「循環を作る」側の人とは、例えば安心・安全な食材を作る生産者、たい肥を作る人、家族の健康を考えて安心な食材を買い、調理する人。これらの人たちの比率は「循環」を考えずに、ただ「食べる」側の人に比べて、あまりにも少ないんです。
だから、「循環を作る側の人」を増やしたい。参加しやすくて、楽しくて、継続できる仕組みを作って。
そうすれば、小さな循環が、小さな農業が、少しずつ成長していく。
半径2キロ内で手に入らないものは、もう少し遠くから買ってきてもいいけれど、できるだけ近所から買おう。
より良い作り方で育ったものを選ぼう。そういう感覚は、半径2キロの循環の中でこそ、磨かれていくものだと思っています。


にわとりの時代
半径2キロの循環の中で、野菜が自給自足できるようになってくると、次に気になるのはたんぱく質です。
ニューヨークなどの大都市の一部で始められているように、私は日本でも都会でにわとりを飼う時代が、きっと来ると思います。だから、ローカルフードサイクリングのマークの真ん中は、にわとりにしているんです。
みんなが自分たちが住む地域でにわとりを飼い、当番制で生ごみを食べさせて、順番で卵をもらう。ちいさな農が、食卓を支えていく。そんな時代が来ると思っています。

人を育てるということ
前回もお話ししましたが、私がスーパーマンになって全国を飛び回る必要はない。そう気づいてから、考え方が変わりました。私のように考えている人や、堆肥づくりを支援する人が、全国にたくさんいる方がよっぽどいい。
人材育成というのは、その人が活躍する「場」を作るだけのことだと思っています。
たい肥を作る人、場所を提供する人、作物を育てる人、料理する人、それを売る人。
いろいろな立場の人と、ビジョンを共にしながらつながっていきたいんです。
山と川と海
コンポスト、組織作り、人材育成。いろんなことを同時に走らせる中で、頭がごちゃごちゃしていた時期がありました。
山と川と海は繋がっている。その考え方が整理できたとき、はっきりし始めたんです。地球は、全部繋がっている。なのに都会のわたしたちは、環境に負担をかけながら搾取している。でも、生ごみの部分はコンポスト一つで解決できると気づいたのです。
都会では、食べ残しや野菜などの捨てる部分に価値がないんです。あれは「生ごみ」、それは捨てるもの、厄介なもの。でも、コンポストを通せば、それはたい肥となり、土に還って作物をはぐくむ「資源」になる。
生ごみに、価値を与えたい。私はそう思っています。

半径2キロから
食卓から始まった小さな循環のアイディアが、半径2キロの中で、少しずつ形になってきました。
堆肥を作る人、野菜を育てる人、料理する人、食べる人、そしてまた堆肥を作って土に還す人。
その輪が、みなさんの暮らしの中にも生まれていく。
半径2キローこれが、「私たちの足元から始まる循環」を表す象徴的な数字なのです。
●著者紹介
たいら由以子(たいら ゆいこ)さん
福岡市生まれ。大学で栄養学を学んだ後、証券会社に入社。結婚後に地元の福岡に戻り、父親との別れをきっかけに「栄養循環」を半径2㎞単位で作ることで持続可能な食の仕組みを構築することを決意。1997年よりコンポストの普及とコンポストの人材育成事業を展開する。ローカルフードサイクリング株式会社代表、LFCコンポスト代表を務める。
●たいらさんの新刊「おいしい循環」をご紹介しています。ぜひご覧ください。
●「地球にいいことの始め方-台所から始める、循環させる暮らし」記事一覧
vol.1 父の命が教えてくれた、食べものの本当のちから
vol.2ずっとそこにあった母のたい肥














