【たいら由以子 地球にいいことの始め方ーコミュニティガーデン 「人を良く変えてくれる場所」】

「半径2キロの栄養循環」を掲げ、循環社会をつくるための活動をするローカルフードサイクリング社代表、たいら由以子さんの連載です。 先月から始まった「コミュニティガーデン」編の第二回は、ここに集まる人たちの変化について。コミュニティガーデンという場所は、野菜だけでなく人を育てる力もあるんですね。  

イラスト、タイトル文字/たいら由以子 撮影/原 幹和

「SATOYAMA BASE 深大寺」の入り口にある看板。この絵も文字もたいらさん作。

みなさん、こんにちは。たいら由以子です。
コミュニティガーデンに来ると、その人が変わる——そう言うと、大げさに聞こえるかもしれません。でも、コミュニティーガーデンという「場」での活動や農作業を通じて、時間をかけて人の意識も表情も変わっていく瞬間を、わたしはこれまで何度も目の当たりにしてきました。
今回は、実際に起きたことをお話ししようと思います。

入学式以来、来ていなかった子が

以前、ある高校で農業の授業をしていたことがあります。
あるクラスに、入学式以来、一度も学校に来ていなかった子がいました。

ところが、農業の授業が始まるとともに畑だけに来るようになった。最初はうつむいて目が合わない。

自宅でも生き物のお世話をしたり、植物や土いじりにはには興味関心があり、授業中も栽培のタスクを上手にこなしていく。本を読むのが好きで、農に関しても本を読み始めた。

やがて教室にも入って授業を聞きはじめ、さらには農業大学を目指すようになって、勉強を積み上げていった。
教えていた私はもう、眼をみはるものがあり感動で胸がいっぱいでした。

そして、職員室でその話が広まって、「謎が知りたい」という先生たちが増えました。当事者であるその子だけではなく、先生たちにも大きな意識の変化をもたらしていたんです。

他の授業には興味を持てず、学校にも来なかった子がなぜ農業に惹かれたのかはわかりません。でも、その子が農作業とその学習で自分を変えられたのは、みんなでする作業と、土、水、太陽などの自然の力のおかげだと思います。
決してわたしが、その子だけに特別な何かを教えたわけじゃない。でも、自分を変える、開くきっかけとなる「場」を与えることはできた。
そう、わたしがこの活動を通じて得た大きな学びの一つが「人を育てることは、場を与えること」というものなのです。

皆が持ち寄った堆肥をこの木枠に貯蔵して使う。

手をつないで帰るおばあちゃんたち

5月にオープンしたコミュニティガーデンには、多くの世代の方々が参加してくれました。
その中の80代のおばあちゃんたちは、別のコミュニティガーデン活動で出会い、「キャンディーズ」って呼ばれています。
今回の新しいガーデンではスタッフになって夕方までお手伝いをしてくれたんです。そのおばあちゃんたちが仲良く、わいわい話しながら手をつないで帰っている姿をみて、心がぎゅーっとなりました。
彼女たちは、何から何までよく目が行き届くし、気働きも素晴らしいし、何より動きが機敏で。
そして、道で出会うとニコニコしながら近寄ってきてくれる。
しみじみ、「こんなことが起こるんだ」って心温まりました。
こういう場が広がっていったら、絶対「平和」になりますよね。

「尊敬できる大人」がいる場所

コミュニティガーデンに来ると、「尊敬できる大人」がいるんです。
今の時代、なかなかそういう場所が無くなったと思いませんか?
昔は、なんでも「じいさんに聞いとけ」みたいに、わからないことは年長者に聞く文化があった。他人の子でも、いけないこと、危ないことをしたら叱ってくれるおじいちゃんやおばあちゃんがいたし、子どももその親もそれがありがたかった。今はそういう人がほとんどいません。 でも、コミュニティガーデンに来ると、おじいちゃん、おばあちゃんの技術や知恵が生かされる。若い人や子どもは自分ができないことをサクサクできる大人から、様々な「実践できる技術や考え方」を学べる。そしてそういう大人や年長者はちゃんと尊敬される。若い子たちも、やがて「尊敬できる大人」になれる。
コミュニティガーデンは、今や少なくなった、そういう場所だと思っています。

植物を育てるのは、子育てと同じだとよく言います。 上手く育てられなくてつまずいたり、虫にやられたり、天気に左右されたり。でも、それらの問題をひとつひとつ解決して成長をサポートしていく。 作物が元気になると、こっちも元気になる。 文字通り自分の行為が実を結ぶ体験は、何ものにも代えられない喜びです。

次回は、コミュニティガーデンが生み出す、目に見えない価値の話をしようと思います。  

 

【コラム】コミュニティガーデンを訪ねて① SATOYAMA BASE 深大寺

所在地:東京都調布市深大寺南町1丁目(面積:約600㎡)

「都心から一番近い里山」と呼ばれる、東京都・調布市深大寺の自然豊かなエリア。その一角に、ローカルフードサイクリング株式会社(以下LFC)が運営に関わるコミュニティガーデンがあります。ガーデンを主宰する相田さんと利用者が一緒に、間伐材を使って手づくりしました。 月に一度、LFCコンポストの堆肥回収会やミニ講座を実施。回収した堆肥は木枠の共同コンポストでさらに熟成させ、できた土でハーブや野菜を育てています。 このガーデンを担当するLFCコンポストアドバイザーの神山靖子さんは、「家庭の生ごみからできた堆肥が地域で循環し、土と植物を豊かにする喜びを知りました。人と自然がつながる場所が広がっています」と話します。手を動かし、ときに大変でも、収穫を仲間と笑顔で味わう体験は人間の原点だと感じる瞬間。一人ではなく、みんなで育てるからこそ味わえる喜びがあると話します。
●参加情報はInstagram:satoyamabase_jindaiji_and_lfcで発信されています。

ローカルフードサイクリング株式会社
循環型コミュニティガーデン協会

 

●著者紹介 たいら由以子(たいら ゆいこ)さん 福岡市生まれ。大学で栄養学を学んだ後、証券会社に入社。結婚後に地元の福岡に戻り、父親との別れをきっかけに「栄養循環」を半径2㎞単位で作ることで持続可能な食の仕組みを構築することを決意。1997年よりコンポストの普及とコンポストの人材育成事業を展開する。ローカルフードサイクリング株式会社代表、LFCコンポスト代表を務める。

●たいらさんの新刊「おいしい循環」をご紹介しています。ぜひご覧ください。

●「地球にいいことの始め方-台所から始める、循環させる暮らし」記事一覧
vol.1 父の命が教えてくれた、食べものの本当のちから
vol.2【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「ずっとそこにあった母の堆肥」】
vol.3【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「半径2キロの魔法〜主婦の生活圏で完結する循環のかたち~」】
vol.4【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「わたし」、という言葉】
vol.5【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「全部、ひっくり返す」】
vol.6【たいら由以子 地球にいいことの始め方―地域で循環を起こす・コミュニティガーデン】
vol.7【たいら由以子 地球にいいことの始め方ー人を良く変えてくれる場所】