【たいら由以子 地球にいいことの始め方 コミュニティーガーデン 「数字に表せない価値」】

たいら由以子さんの「循環する暮らし」を広めるお話し、今回はコミュニティーガーデンの力について。
自分で野菜や花を育てると、土にも触れるし、肥料も水も与えて、その段取りもしなければいけないし、虫ともおつきあいしなければならない。
結構大変だけど、そうこうするうち自分が育てたものが育って、おいしく食べられるようになる。
自分の行動の成果が目の前で見られる、食べられる。
これ、すごい手ごたえです。
この手ごたえが人に与えるものは……?
今、都市に増えつつある「コミュニティーガーデン」についてのお話です。

イラスト、タイトル文字/たいら由以子
撮影/原 幹和

ビルの屋上に広がる菜園。EdibleKAYABAEN―つまり「食べられる茅場園」です。 ここにはたくさんの虫も住み、小さな循環世界を作り上げています。  

 

みなさん、こんにちは。たいら由以子です。
前回は、コミュニティガーデンで「農」に触れた人たちに実際に起きている変化——学校に来られなかった子どもが積極的に農業を学び始めた話、農作業で絆を深めたおばあちゃんたちが手をつないで帰った話、などをしました。 今回は、そうした個人に起きた変化が、組織や社会にどう広がっていくかという話をしようと思います。

この大きなコンポストで常時堆肥が作られている。  

農や有機物から一番遠い場所が

東京は日本橋、茅場町のビルの屋上に、コミュニティガーデンがあります。
証券会社が集まるビジネス街の、高層ビルの屋上に。 農業、有機物から一番遠いような場所を持つ企業が、コミュニティガーデンの場を提供してくれたのです。
わたしは、都市の中にコミュニティガーデンができること、企業がそれをバックアップしてくれることが、とても重要だと思っています。

そのコミュニティーガーデンは、すぐにお金にはつながらないかもしれない。
でも、都会の仕事に疲れ、病んでいる人の気持ちが、土と植物に触れて楽になる、公園では得られない休息が得られる、ひいては、その人の属する企業のウェルビーイングにつながる——そういう目に見えない価値がある。
都心で働くサラリーマンがパソコンを離れて、土日こういうところで過ごすと、会社でいい提案ができそうじゃないですか。 なんかそういう気がするんですよね。

循環についてのワークショップなども行われる。

これが、わたしたちの宿題

土を作り、種を植えて水をやって野菜や花を育てる農作業には、目に見えない、人に与えるよい効果がいっぱいあるんですよね。
でも、その価値は数字では表せない。
だから、社会に農作業が人に与える効果がなかなかアピールされない。
この目に見えないものの価値を、どう体現、表現していくか。 これがわたしたちの宿題です。
いくら口で、農作業や、人が集まるコミュニティガーデンが素晴らしいかを語っても、 「うんうん、そうね、素晴らしいわね」という反応だけで終わってしまう。
だから、たくさんの、多様な人たちが集まる仕組みを作るしかない。
集まった人たちがそこでの体験を誰かに話したくなるようにするしかない。
だから、できるだけ多くの場所にコミュニティガーデンを作って、そこに触れる人を増やしていくことが、その仕組みの基礎になるんじゃないかと思っています。
そして、そこが起点となって、人の意識が変わる。

上から「こうですよ、こうしなさい」と教育するんじゃなくて、 自然と人々が作業を通じて様々なことを学べるようになる場所。
今、どんどん増えている都市部のコミュニティガーデンが、個人から社会を変えていける場所になればいいなと思っています。
だからこそ、こういった都市の菜園、コミュニティガーデンをもっと知ってもらい、スポンサードしてくださる企業が増えるとよいなと思っています。

コミュニティガーデンという健康経営の施策

では、コミュニティーガーデンを企業がスポンサードすると生まれる効果とは何か?
コミュニティガーデンと相性がよく、相乗効果が期待できる企業の業種は、健康―ヘルスやウェルネスに関係する企業だと思っています。
生命保険会社とか、健康経営に取り組んでいる会社など。
でも、ここは 病気を治すところではなく、病気にならないようにする場所。
予防医学の考え方に近い健康経営を目指す企業にはとても良いのではないでしょうか。

他にも、その会社の業態では、直接CO2削減には貢献できないけれど、
グリーントランスフォーメーション(GX)※に関心のあるという企業にとっては、
コミュニティガーデンのスポンサーになることは大変大きな意味のある選択だと思います。
たとえば、社員の中で少し心が疲れてしまった人には、コミュニティガーデンで2年間ぐらい働いてもらう——そういう活用の仕方もできるのです。

※グリーントランスフォーメーション(GX)ー企業や社会の仕組みを、環境負荷の少ない方向へ転換していく取り組みのこと。 再生可能エネルギーの活用、省エネ、循環型のものづくりなどを通じて、 「環境に配慮しながら成長する」ための変革を指します。

ここでしか生まれない発想

土に触れ、水をやり、株を分ける。
コミュニティガーデンに来ると、自分の手でしたことが目に見える変化につながる。
数字と向き合う仕事をしている人ほど、そのリアルな手応えが、何かを取り戻させてくれるんじゃないかと思っています。

AIには身体がない。
デジタルが発達すればするほど、生身の身体を通じた自然とのふれあいがもっと必要になってくる。
コミュニティガーデンは、そういう、人と自然の接点になる場所なんだと思います。

次回は、コミュニティガーデンを社会全体に広げていくために何が必要か、という話をしようと思います。  

●著者紹介 たいら由以子(たいら ゆいこ)さん 福岡市生まれ。大学で栄養学を学んだ後、証券会社に入社。結婚後に地元の福岡に戻り、父親との別れをきっかけに「栄養循環」を半径2㎞単位で作ることで持続可能な食の仕組みを構築することを決意。1997年よりコンポストの普及とコンポストの人材育成事業を展開する。ローカルフードサイクリング株式会社代表、LFCコンポスト代表を務める。

ローカルフードサイクリング株式会社
循環型コミュニティガーデン協会

●たいらさんの新刊「おいしい循環」をご紹介しています。ぜひご覧ください。

 

【コラム】コミュニティガーデンを訪ねて② EdibleKAYABAEN(炎) 所在地:東京都中央区茅場町(東京証券会館ビル屋上)/2022年オープン

堀口博子(ほりぐち ひろこ)さん
編集者として活躍した後、2006年、エディブル・スクールヤードを日本に初めて紹介する『食育菜園 エディブル・スクールヤード』(家の光協会)を出版。アリス・ウォータース著『アート・オブ・シンプルフード』(小学館)などの翻訳編集も手がける。東京都多摩市立愛和小学校での教科連携によるエディブル授業に取り組み、2014年、一般社団法人エディブル・スクールヤード・ジャパンを設立。

 

証券会社が集まるビジネス街・茅場町の東京証券会館屋上に広がるコミュニティガーデン。
ここは「誰もが”居場所”を持てる場へ」をコンセプトに、2022年4月にスタートしました。
立ち上げから携わる一般社団法人エディブル・スクールヤード・ジャパン代表理事の堀口博子さんにお話を伺いました。

「ここ、Edible KAYABAENは、ある日平和不動産からいただいたメールがきっかけで始まりました。
減る一方だった子どもの数が徐々に増えている中央区で、地域のコミュニティ再生に繋がる子どもたちの教育、それも私たちがやっている「食農教育」ができる屋上菜園を作りたい、ということでした。
最初は少し戸惑いましたが、金融業や一流企業のビルが立ち並ぶこの場所だからこそ、子どもたちの未来を変える教育ができるのではないかと思い、ここを開いたのです。
今、平日は周辺で働くビジネスパーソンが土に触れる場として、週末は子どもたちの活動の場として活用されています。企業のスポンサーシップが子どもたちの活動を支える仕組みも生まれています。
オープンから5年半、今ではスポンサーである平和不動産など、企業の従業員が「自分たちのガーデン」として自発的に活用するようになりました。
1日中パソコンや数字と向き合って働く人たちが、土に触れ、植物を育て、みんなで食べる——ビジネス街の屋上に、そんな「土のある暮らしの時間」が生まれています。
子どもたちのために、と思った場所が、企業で働く大人たちを変えて、そしてその人たちがとても楽しんでいる 。
子どもも大人も、そして社会もゆっくりと、でも確実に育っていく。 コミュニティガーデンの成果とはそういうものです」(堀口さん談)

 パーマ・カルチャーの思想でガーデンの設計をしたフィル・キャッシュマンさんと。

 

●「地球にいいことの始め方-台所から始める、循環させる暮らし」記事一覧
vol.1 父の命が教えてくれた、食べものの本当のちから
vol.2【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「ずっとそこにあった母の堆肥」】
vol.3【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「半径2キロの魔法〜主婦の生活圏で完結する循環のかたち~」】
vol.4【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「わたし」、という言葉】
vol.5【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「全部、ひっくり返す」】
vol.6【たいら由以子 地球にいいことの始め方―地域で循環を起こす・コミュニティガーデン】
vol.7【たいら由以子 地球にいいことの始め方ー人を良く変えてくれる場所】
vol.8【たいら由以子 地球にいいことの始め方―数字に表せない価値】