麻生要一郎さんは日記の人、です。
インスタグラムに日々の料理や、麻生さんが会った人、考えたことをやわらかなトーンの写真と文章で記録して、それにそれぞれいろいろ感じ入った人たちがフォローし、拡散し、人気に火がつき、今の麻生さんが生まれました。
日記という形式は自己開示の術であり、その自己開示がうまくできる人はなかなかいないものです。感動させようとか、すごいだろうなどと思って書いたわけではない麻生さんの日記はなぜこれほど人の共感を呼んだのでしょうか。
そう、麻生さんは日記名人。常にオープンでいられることは、その芯にゆるぎないものがあるからこそで、それが私的な記録から普遍性のあるメッセージを生むのです。
今月から始まる連載は、その日記名人麻生要一郎さん初の、水彩画日記です。著者初めての水彩画は、言葉とともに補い合って、言外の思いを読む人に伝えることになるでしょう。
其の一は、麻生さんが”娘”と呼ぶ、家族のような友人の一人、ミュージシャンの坂本美雨さんの娘さん、愛称”なまこちゃん”と一緒にラーメンを作った日のことです。
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●麻生要一郎「僕が食べてきた思い出、忘れられない味 私的名店案内22」
絵・文/麻生要一郎

「つれづれなるまにまに」は、僕のありのままの日記です。
年末になるとついつい予定が忙しく眉間に皺が寄る日もありますが、チョビを抱っこして、窓の外を眺めていると、そんな事もすっかり忘れてしまいます。
12月12日、僕が親愛なる思いを込めて“娘”と呼んでいる美雨ちゃん、その娘のなまこちゃんと、一緒にごはんを食べながら対談をする機会があった。2人からのリクエストは「ラーメン」。スタッフの分も含めて、一度に9人分を作るのはなかなか難儀であった。なまこちゃんが、いつものように僕の側にやって来て、盛り付けを手伝ってくれた。チャーシュー、メンマ、煮卵、わかめ、なると、きくらげ、ねぎと具沢山、盛り付けるだけで一苦労。
食べ始める頃には、麺がちょっと伸びてしまっていた。ラーメン屋さんと比べたら、どこかパンチの足りない、だけど具沢山なラーメンは、家庭の味という趣での美味しさがあった。最近、頻繁に会っている割に、以前のように2人でゆっくり話す時間も少なくなっている。普段は改まって言わないような、お互いの思いが話せて良い時間だった。全員を見送って、ソファーでチョビと一緒に昼寝をして、目が覚めたら窓の外は、すっかり暗くなっていた。慌てて夕食の買い出しに出かけた帰り道、重たい買い物袋をぶら下げながら、家の側の銀杏並木を歩いていて携帯をふと見ると、なまこちゃんからメッセージが届いていた。
「要一郎さん、今日はありがとう。ラーメン美味しかったよ!またすぐ行きます!!」と、記されていた。銀杏の落ち葉が積もった黄金色の絨毯の上を歩きながら、じんわり暖かい気持ちになって、思わず涙が溢れた。今月の絵は、一緒に作った少し伸びたラーメンです。
皆さま、暖かな良い新年をお迎え下さい。
●登場する”家族“たちのご紹介
チョビ……麻生さんの愛猫
美雨ちゃん……ミュージシャン坂本美雨さん
なまこちゃん……坂本美雨さんの娘さん。なまこは愛称

今月の質問:Sさんより
Q:「麻生さんのお気に入りのお味噌は?」
A:我が家の冷蔵庫には色々な味噌が常備されています、白味噌、淡色味噌、八丁味噌、麦味噌。甘口の白味噌が好み、その中で一番好きなのは、神田明神の参道沿い創業1616年の三河屋綾部商店の白味噌です(参拝に出かける度、こちらで味噌と甘酒と納豆を買っています)。
著者紹介
麻生要一郎(あそう よういちろう)
料理家、文筆家。家庭的な味わいのお弁当やケータリングが、他にはないおいしさと評判になり、日々の食事を記録したインスタグラムでも多くのフォロワーを獲得。料理家として活躍しながら自らの経験を綴った、エッセイとレシピの「僕の献立 本日もお疲れ様でした」、「僕のいたわり飯」(光文社)の2冊の著書を刊行。現在は雑誌やウェブサイトで連載も多数。2024年は3冊目の書籍「僕のたべもの日記 365」(光文社)を刊行。また、最新刊は当サイトの連載をまとめ、吉本ばななさんとの対談を掲載した「僕が食べてきた思い出、忘れられない味 私的名店案内22」(オレンジページ)。
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