【wellbeing topics BOOK 『自分の本音を言葉にできる。』黒田悠介】

●著者紹介
黒田悠介(くろだ ゆうすけ)さん
2008年に東京大学卒業後、マーケティング企業2社と起業(売却済み)を経て2013年にスローガン株式会社へ入社。2015年にはフリーランスとしてディスカッションパートナーを生業とし、スタートアップから大企業の新規事業まで、主に1on1の議論を通じて立ち上げを支援。その傍ら2017年2月に日本最大級のフリーランスコミュニティ「FreelanceNow」や、同年11月に問いでつながるコミュニティ「議論メシ」を創立。2024年3月よりコミューンコミュニティラボ所長としてコミューン株式会社に参画しコミュニティ研究家として活動。2026年8月に株式会社クロス・オペレーショングループ CCO(Chief Community Officer)に就任。著書に言語化論『自分の本音を言葉にできる。』コミュニティ論『コミュニティ経営の教科書』『コミュニティシフト』キャリア論『ライフピボット』がある。

黒田悠介『自分の本音を言葉にできる。』インプレス 1980円(本体1800円+税) amazon

まず、私たちは「本音」というものを持っているだろうか……?

 「本音」という言葉には、 自分の中のどこかにある、心の奥底にしまい込まれた“本当の気持ち”、 というイメージがあります。

たしかに、そのイメージも決して間違ってはいないでしょうが、黒田悠介さんのこの本を読むと、そういった固定観念のようなものからほぐされていくような気持ちになります。
本音とは、 自分の内側にある感覚や違和感が、それを言葉や文字にしようとする試みの中で 少しずつ輪郭を持って“育ってくるもの”、のようです。

あなたにははっきりとした本音がありますか?
今それを言葉にできますか?

それは、はじめから明確な形をしているわけではない。
むしろ、曖昧で、未分化で、つかみどころがない。
だからこそ、 「私に本音なんてあるのかな」 「どれが本音なのかわからない」 と感じる人が多いのは、とても自然なことだと思います。

本音は、 発掘するものでも、意図的につくり出すものでもなく、自分と 丁寧に向き合うことで“育っていくもの”―まずは、この視点を持てることがこの本の大きな効用です。

「自己一致」という言葉で気づかされる多くの「自己不一致」

 この本は、大きく分けて4つのパート・全8章にわたり、本音が失われた「社会と自分の中の土壌」を観察し、言葉という芽を出させて、「問い」に育て、「対話」で 本音を花咲かせるまでを丁寧に導いてくれます。
その過程の中で紹介される「自分のことを話せるようになるだけではない、もっと本質的なゴール」として紹介される「自己一致 」という概念にはハッとさせられます。
「その言葉は、自分の感覚とズレていないか」
「その意見は、誰かの期待に合わせていないか」
そう考えると、自分がいかに「自己不一致」な発言を無意識にしているかに気づけるし、
さらにはそうとわかっていて「これでいいんだ」としている自分にも気づけます。
こうして、本音はどこかに行ってしまう。

自己一致した言葉に「その人らしさ」という強い説得力を持たせるのに必要なのはやはり言葉の解像度を上げること。自分を正確に表現できる力を身に着けること。
「なんだ、自分はこう感じていたんだ!」と自分でも驚く人も多いのではと思います。

本音はアウトプットの中で形になる──書く・描く・話すという“デッサン”

黒田さんが提案する、本音を言えるようになるための具体的な方法のひとつが、 「書く・描く・話す」=デッサン というアウトプット。
これは、思考や感情の“形”を外に出してみる作業。

書く:曖昧な気持ちが言語化され、思考が形として残る
描く:図にすることで言葉ではとらえきれなかった全体像や感情のグラデーションが見えるようになる
話す:AIに話したり、音声メモで自分の気持ちを話して「外に」置くことで、混とんとした思考が言葉になる

本音は、頭の中だけでかき混ぜていても固まらない。
外に出すことで初めて、自分でもそれが「ある」ことに気づける。

自分の本音を「庭師」として育てていく

さらに黒田さんは、語彙を増やすこと、それを使って自分の外に気持ちを表現するやり方を教えてくれます。
そして、 自分を「本音の庭師」として考えてみることを勧めています。
庭師は、土を耕し、種をまき、水をやり、雑草を抜き、ときに剪定し、また育つのを待つ。
本音もこれと同じである、と。

最初から完成した形で存在しているわけではなく、 まず、本音を見えなくしている社会や自分の土壌を観察し、耕して“種”をまき、言葉という“芽”を出させ、 手入れをしながら“花”を育てていくようなもの、だと。

気持ちを語る語彙が増えれば、比喩というテクニックも身に着けられ、より 自分の感覚を丁寧に扱うための道具を増やすことができます。
それは、 自分を守ることでもあり、 他者との対話を豊かにすることにつながるのでは?

 「問い」を立てることは、“内なる対話”を始めること──モノローグをダイアローグへ

黒田さんはまた、大切なのは「問い」を持つことだと言います。
この「問い」は、単なる思考の整理ではありません。
問いを立てることは、 自分という他者との対話を深めること。

私たちはふだん、頭の中でとりとめなく、ひとりごとのように何かを考えていますが、これはモノローグ(独白)。
でも問いを立てると、その独白が自分自身とのダイアローグ(対話) に変わっていく。

モノローグではただただ「いやだなあ」と繰り返している事柄に「なぜ?  どうして嫌なのか?」と問いを重ねていけば、 “自分の中にもう一人の自分が現れて、話しかけてくる” ような感覚を生みます。

本音は、ひとりで考え込んでいても固まらない。
他人にはまだまだ話せなくても、一番付き合いの長い「自分」との対話なら、 自分の思いをなるべく正確に言葉にする“訓練”ができる。

これは「自己理解」と「自己受容」を深める非常に重要なプロセスともいえるのではないでしょうか。
自分を他者のように扱うことで、 自分の内側に対しても思いやりが生まれるし、自分をよく理解できるようにもなります。

「あれ?本音って何だっけ?」と思ったらぜひご一読を。

この本はタイトルを見ただけで「あれ??」と考えてしまう人が多い気がします。

そしてページを開いてちょっと読み進むと
「自分は会議で発言しているようで、実はしていないのと同じでは??」
「ただ周囲に合わせているのでは??」
「つまり私は私をないがしろにしているのでは?」
などと気づくことができる。

自分の本音がよくわからないことに気づいたら自分自身に「なぜ?」と問いかけてみましょう。
ここに紹介されているプロセス全部でなくても、一つだけでも試してみてほしいと思います。

自分の内側で感じていることと、外に発している言動がズレていなければ、心も穏やかに保てます。
黒田さんの言う「本音」を大切に育てるプロセスは、ウェルビーイングの基盤に直結しているのではないでしょうか。