【株式会社ディー・エヌ・エー ウェルビーイングの鍵は“楽しみながら”にあった!】

今や大多数の企業でウェルビーイングや健康経営に取り組んでいて、それぞれの社風に応じたユニークネスがある。そんな中、早くから従業員のウェルビーイングに着目していたのが、DeNA。ゲームやエンタメ、球団運営、医療DXなど多彩なサービスを展開し、創業者である南場智子会長の個性的なキャラクターも有名。そういった“多角的な事業展開をしている”企業風土が、ウェルビーイングにどう活かされているのか。他社との違いは何なのか。健康経営のさらなる発展の鍵を探るべく、社長直轄のCHO(Chief Health Officer)室を統括する三宅さんに、話を伺った。

お話しをうかがった人/株式会社ディー・エヌ・エー CHO室 室長 三宅邦明さん
聞き手/ウェルビーイング100 byオレンジページ編集長:前田洋子 アンティーファクトリー:中川直樹
撮影/原 幹和 文/小林みどり

●三宅邦明(みやけくにあき)さんプロフィール

1995年に慶應義塾大学医学部を卒業後、厚生省(現 厚生労働省)に入省。医師免許をもつ医系技官として20年以上に渡り勤務。メタボリックシンドロームなどの生活習病や感染症の個別疾患の対策立案に従事。インターネットやAIを活用し、人々が楽しく継続的に健康でいられる仕組みを民間の現場から提供したいという思いから2019年4月にDeNA入社、Chief Medical Officer(CMO)を務める。2020年2月より新型コロナウイルス対策本部長、同4月よりDeSCヘルスケア株式会社および株式会社DeNAライフサイエンスの代表取締役医師を歴任。2021年4月よりDeNAのChief Health Officer(CHO)として社員の健康管理と組織のパフォーマンス向上を指揮。2025年、同職を代表取締役の岡村信悟に引き継ぎ、現在はCHO室室長としてグループ全体の健康経営を統括。

━━━南場会長のインタビューを読んで、「ことに向かう」という言葉が印象的でした。この南場さんの考え方が、健康経営にも表れているのでしょうか。

三宅邦明さん(以下、三宅):そうですね。「ことに向かう」という言葉は、「本質的な価値を提供することに集中する」という意味で、当社が掲げる共通の価値観の一つでもあります。
初代CHOは南場自らが担っていたことからもわかるように、社員の健康を守ること、それがパフォーマンスに繋がるという考えを「こと」として捉え、健康経営に向き合ってきました。それを推進すべく2016年に設立されたのがCHO室です。そんなCHO室では、直近は特にコロナ禍に感じた健康課題解消に向け、大きくふたつの支援に注目し、さまざまな取り組みを行なっています。
ひとつは、コミュニティづくり。心理的安全性を保つための仕組みや雰囲気づくりですね。我々はIT企業でリモートワークが多いという状況で、身体の健康と一緒に心の問題も意識して取り組むようになってきました。
もうひとつは、“健全な精神は健全な肉体に宿る”ということで、社員一人ひとりが自分らしいウェルビーイングを実現することです。ウェルビーイングな状態であれば、能動的に考えたり行動できたりしてパフォーマンスが上がると考えています。
弊社にはエンジニアやプログラマーなどデスクワークが長い職種が多いので、特に腰痛は切実な問題。CHO室が発足した当初、真っ先に取り組んだのも「腰痛撲滅プロジェクト」だったほどです。

━━━コロナ禍を過ぎた今でも、リモートワークが多いのでしょうか。健康課題に変化などあれば教えてください。

三宅:現在当社は、リモートワークと出社を織り交ぜたハイブリッドワークを推進しています。
出社頻度は、各部署の方針や、個々の働き方によって変わってきますが、リモートワークは多いですね。そういった中で見えてきた、健康課題がふたつあります。
ひとつは、歩数の変化です。出社ベースの時は1500歩以下の人は一割にも満たなかったのに、コロナ禍で完全リモートになった途端、一気に約4割に増えました。
この歩かなくなったことは体重増加にも繋がりました。コロナ禍での健康診断でも、1kg以上の体重増加がみられた人が約6割、その中で4割以上が3kg以上増えているという状況でした。それを聞いた南場が、「私たちだけで約2トンの脂肪を生み出したのね」と課題に感じはじめたのをよく覚えています。
もうひとつの課題は、偶発的な出会いの少なさ、コミュニティの希薄さです。社員同士で食事をしたり話をしたりする機会が減ってしまったわけですね。
自販機の前でバッタリ会って、「久しぶり」「どうしてるの」「今こういうプロジェクト始めて」「それ俺の仕事と関係してるぞ」「じゃあちょっと話聞かせてよ」なんてやり取りが少なくなりました。
これらふたつの課題を解決すべく、みんなが楽しんで歩いたり運動したりするようなオンライン上での運動会を企画したり、リフレッシュとコミュニティ形成を目的とした「ウェルネスワーケーション」も始めました。これは、チームや同僚と行けるセルフ型と、CHO室が主導するツアー型のふたつを通し、コミュニケーション形成をはかっています。
また、CHOメンバーがママ役になって「ケンコーすなっく」というお酒を用いた交流イベントを開いたりしています。
そうやって「楽しみながら」健康に触れ、同僚同士と盛り上がる場を設けることで、会話が生まれる。その楽しさで人が人を呼び、その輪が広がっていく。そういう仕掛けをやってきました。

━━━おもしろいですね。この「楽しみながら」というところが、DeNAの特徴ですね。

三宅:そうですね。これはゲームやエンタメなどの事業を展開する弊社ならではの特徴かもしれません。例えば、グループ会社の提供するヘルスケアエンターテインメントアプリ「kencom」が年2回行うウォーキングイベント「みんなで歩活」があります。
従業員同士でグループを組んで一か月間の歩数を競うイベントです。チーム平均歩数や総合歩数の順位に応じてポイントがもらえます。ただ、「チームの平均歩数」なので、あまり歩かない人がチームにいたりすると、周りにも迷惑がかかっちゃう。そうすると、周りに配慮する日本人らしさが顔を出すのか、このときだけは駅から自宅まで遠回りして帰るという人がいたりしてね。
半年に一度ならイベント感覚で楽しんで参加できるし、溜まったポイントはギフトカードなど交換できるのも明確な“インセンティブ”としてモチベーションになっているみたいですよ。このように、「どうしたらみんなが楽しんで続けられるか」という考えを常に根底に置いて設計しようとするのが、我々の特色ですね。
「歩活」のデータを見ると、イベントが終わってすぐ歩数が激減するわけではないので、5年10年と長い目で見れば、歩くことが習慣として定着していきそうな手ごたえも感じています。

━━━他に社員のパフォーマンスに変化があった取り組みを教えてください。

三宅:パフォーマンスに一番変化がみられたのは、5つの不調をサポートする「診療サポートプログラム」です。頭痛、眼精疲労、花粉症・アレルギー、睡眠、婦人科症状などによる不調がある従業員は、症状によってはで50%を超えているものもあり、パフォーマンスに影響があることが分かりました。
これらの症状については、診療を受け、適切な処方をしてもらうことが不調の解消に大きく働くと考えています。でも、知識不足から薬を飲むことに不安があったり、忙しさから市販薬に頼り、診療を受けない人がいる。なので、これらの講座を開いて正しい知識を身につけてもらうことと、受診ハードルを下げるための診療補助をセットで会社がサポートしています。
こちらは分かりやすく手ごたえを感じていますし、毎年利用者数も増えています。自分にあった処方箋で症状をコントロールできるようになったら楽になったという声が実際にあるし、利用者アンケートのデータでは、課題によっては平均3割くらいパフォーマンスが上がったものもあります。

━━━なるほど。DeNAのウェルビーイングはうまく機能しているように感じます。今後の課題や展望についてはどうお考えですか?

三宅:弊社では「AIオールイン」という戦略を掲げていますが、CHO室として、健康、パフォーマンス、コミュニティづくりにAIをどう取り込んでいくか、まだ試行錯誤の段階ですね。例えば、食事管理や施策運営にまつわるデータの分析などではAIを活用し始めています。今後も、社内のAIスペシャリストとも意見交換をしながら、新しい挑戦をしていきたいですね。
また、他社とのコラボは今後も強化していきたいですね。これまでも弊社では、様々な企業さんと一緒に、健康をテーマとした取り組みを実施してきました。
例えば、過去には同じビルに入居されているIT企業とコラボしました。私たちは週1回行なっているヨガクラスを開放し、先方からは社員食堂を開放していただきました。健康的な食への喚起と、運動機会の創出のシェアの場となり、社員も新しいコミュニティに触れられ、好評でした。
他にも、ゴルフのセミプロの方を招いて行なったエクササイズのワークショップや、手紙を用いたジャーナリング講座なども他企業と一緒に行なったりしています。
そうやって、我々の考え方ややり方を広めて、共感してくれる人や企業が仲間になり、それぞれの場所から「ウェルビーイング」を広めていけたらうれしいですね。