【あいおいニッセイ同和インシュアランスサービス】ウェルビーイングの鍵は「個性」「協力」「結果」そして「健康」の4Kにあった!

価値観が多様化し、様々なものが一つの価値で語れない今、たくさんの業界・企業で「ウェルビーイング」を基盤に置いた取り組みがスタートしています。
「従業員の幸福度が企業の成長や成功につながる」という観点から、従業員の幸福度を高め、
会社も成長するためのさまざまなアプローチがある中、当然のことながら保険業界も大きく変化しているようです。
ウェルビーイングの「鍵」では、2025年4月に「ウェルビーイング推進部」を設置した保険代理店、
「あいおいニッセイ同和インシュアランスサービス(株)」の代表取締役社長 世羅憲章さんに、
現在の取り組みと、目指す会社の姿についてお話を伺いました。
ご自身の経験から生まれた言葉には重みと説得力があり、多くの企業にとっても、
今保険を見直そうと思う人たちにとっても、大変参考になる内容だと思います。

お話を伺った人/あいおいニッセイ同和インシュアランスサービス株式会社代表取締役社長 世羅憲章さん
聞き手:「ウェルビーイング100byオレンジページ」編集部
撮影/登 万里子
文/中村 円

世羅憲章さん
あいおいニッセイ同和インシュアランスサービス株式会社代表取締役社長
1989年千代田火災(現あいおいニッセイ同和損保)入社。あいおいニッセイ同和損保執行役員営業統括部長を経て、2023年4月より代表取締役社長。

ウェルビーイング、という言葉が知られていないころから
世羅社長の頭の中には「人がよく生きるために必要なこと」があった

「ウェルビーイング100byオレンジページ」(以下WB100):貴社では「ウェルビーイング推進部」をお作りになったということですが、世羅さんご自身は、「ウェルビーイング」に対してどのようなお考えをお持ちでしょうか?

世羅憲章さん(以下:世羅):ウェルビーイング的な考え方を持ち始めたのはいつだろう? と、さかのぼってみたところ、17年前に行き着きまして。当時私は初めて組織の長になったのですが、その時に「今まで経験してきた組織の、一番良かったときのような組織にしたい」と思ったのです。じゃあ「一番良かったときの組織ってなんだったんだ?」って考えたわけですよ。

WB100:親会社のあいおいニッセイ同和損害保険会社にいらした頃ですね。

世羅:そうです。内示を受けた時に盲腸で入院しておりましてね、内示から着任まで1か月くらいあるんですが、入院しているので(どんなふうに組織を束ねていこうかと)考える時間がたくさんありました。

WB100:どのような組織が世羅さんの「一番」だったんでしょう?

世羅:第一には自分の存在価値が認められていて、「居場所」があること。
第二にみんなで助け合ったり、刺激を受けたりしながら仕事ができること。
第三に何かに向かって自分たちで作り上げようという気運があること。
この三つが組織を作る上で大切だと思いました。 「こんな職場にしようよ」と「3K」というスローガンを皆に伝えようと決めました。

「3K」は個性を尊重し、協力し合って結果を出す世界、
そして、ひとりひとりが認められる働き方です

世羅:1つ目のKは、個性。
ひとりひとりの「個性」、「感性」、「経験」、「価値観」を大切にしていこう ということです。これらを大切にするということは、ひとりひとりが認められるということですよね。感性も、経験も全然違う。そういうものを尊重していこう ということです。
2つ目のKは、協力。「協力・協働」、「協議・協調」、「感謝・関心」、「共感」 ひとりでは何もできないので、協力しながら。みんなでやろう、チームワークだ ということです。
3つ目は結果を出すK。「結果」、「改善・解決」、「価値・形」 形に残す、価値を生み出す、解決していくKです。
以来、三つのKへの想いをずっと持ってやってきたわけですが、前職では人事部門やコンプライアンス部門を経験しまして、1万数千人も在籍している会社ですから、中には「ルールから外れること」をしてしまう人もいたんです。どのような時に人は「ルールから外れること」をしてしまうのか。そこを考えた時に行き着いたのが、「ウェルビーイング」の考え方です。

WB100:その道筋はとても興味深いです。

世羅:いろいろなポジティブシンキングの方法を調べていくうちに、ウェルビーイングという考え方に行き着きました。そこから脳科学の本なども読んで、脳内物質のドーパミン、セロトニンなどといったホルモンがバランスよく出ると、人は幸せな気持ちになるという話を見聞きしたりして、振り返ったときに「僕の考えた3Kが似てるな」って思ったんです。セロトニン出るな、ドーパミン出るな、って。

WB100:ばっちりつながっていますね。

世羅:そう、4つ目のKは「健康」なんです。随分前ですが、産業医の先生に「(このペースで働くと)このままだと体壊しますよ。健康管理してください」って言われてしまいました。実際に体調を崩したこともあります。何よりも、心身ともに「健康第一」を心がける。だから健康のKが4つ目です。この理念も実際にはなかなか実践が難しいのが本音ですが。

WB100:でも、ウェルビーイングの考え方、働く人間にとって何が必要なのか、という本質的なところを、ウェルビーイングなどという言葉を知らなかった40代のうちからしっかり捉えていらしたということに驚きます。

世羅:全部自分の経験なんですよね。月曜日が嫌だな……と感じるときと、快食、快眠で(笑)、仕事で帰宅が遅くなっても、すごく頑張れてるときというのは3Kが揃っていたときなんですよ。それで、3Kをいつも頭の中に入れて仕事をしていきたいと思っています。

左:ウェルビーイング推進部西原晶子さん

2025年4月、「ウェルビーイング推進部」が誕生。
本気で目指すのはお客さまも社員も幸せになるモデル

WB100:ウェル・ビーイング推進部をお作りになったのはいつですか?

世羅:2025年の4月です。

WB100:まだ走り出されたばかりですね。施策としては社員の方にはどういうお話をなさっていますか?

世羅:まずは年に2回、春と秋に全社員に向けて「会社として目指したいこと」というメッセージを発信しています。4Kを組織の文化にしたいので、まずは自身から発信することを心がけています。

WB100:リーダーの発信はとても大切ですね。

世羅:全社員アンケートを取ったり、自分ごとにするために「あなたにとってのお客さま第一って何ですか?」という問いかけをしたりしています。仕事ですから、ただ「4K」「4K」って言っていても、ただの掛け声になってしまいますから。

WB100:そこがとても難しいですよね。会社を成長させていくことと、社員のより良い生き方、ウェル・ビーイングが必ずしも結びつかない。ウェルビーイングを働き方のベースとする「健康経営」は「福利厚生」とは違って、社員の幸福と収益の両立を目指すものだと思うので。

世羅:4K、社員の皆さんが仕事をする上で「自分はウェルビーイングな状態だ」と感じる具体的な事例がたくさん生まれることが大切だと思っているんです。私たちの仕事はお客さまあってこそですから、お客さまに信頼される、安心していただける、というのが社員のウェルビーイングにつながる。だから、お客さまに「ありがとう」って言われたら、どんなことでもいいからレポート(「ありがとうの声」)を出そうじゃないか、と。最初にレポート(「ありがとうの声」)を増やしていこうと提案した2年前はあまりなかったのですが、現在はかなり増えてきています。

あるいは、今までは成績の結果で組織表彰をしていたのですが、今は定性的(数値化できない部分)な色々な活動を自薦、他薦で出してもらって、毎月MVPを決める投票をしてもらっています。「それって素晴らしい取り組みだよね」ってほめたたえて、年間MVPも決めています。

WB100:「居場所」の多い人はウェルビーイング度が高い、という調査結果があります。会社が「居場所」となるためには、「職場の人たちが自分に人間として興味を持ってくれる」ことが重要らしいんですよね。世羅さんが若いときに気づいた3Kのうち、「存在価値が認められる」という点がすごく大事だし、他者の存在価値を認めようとする視点もすごく必要です。でもなかなかできることではないですよね。

世羅:そうですね。意識していないと欠落してしまう視点です。そうは思っても、責任者としては業績としての結果を出さなければいけないし、いらだつことだってありますよね。そこで「ぐっと」こらえる。そうすると「仕事ができない」と思われている社員だって、お互いの価値を認め合える環境にしてあげればすごく活躍するんです。だからみんなには、自分が取り組んでいることを自慢してほしいんですよ。

あとうれしかったのは、昨年ある部署が「4K推進活動をしよう」と言って、自分たちの日常業務に落とし込んでくれて、特殊な業務をしているわけではないんですけど、みんなの個性、感性を何かの形に残そうとしてくれました。今年は「4Kセカンド」ということを言ってくれて、新たな取り組みが始まっています。

WB100:社員の方から働きかけというのがうれしいですね。

世羅:そういう象徴的なことが自発的に生まれてくると、活動も前に進みますね。

社員から寄せられる「ありがとうの声」レポートは
誰かが日々心を働かせている物語

WB100:ウェルビーイング推進部の開設から数か月。すでにこうした反応が届いているのは早い! と思うのですが、「ここが変わった」という点と、「これはうまくいかないかな」ということがあれば教えてください。

世羅:今、採用と社員教育に力を入れているのですが、保険代理店の仕事というと、ノルマとか、飛込み営業とか、あまりいいイメージを持っていない方も多いです。でも、そうではない。つまりね、すでに「お客さまはいる」んです。そのお客さまにとっての安心、安全を提案していくのが私たちの仕事です。
採用では応募された方に「本当のありがとうを頂く仕事です」と言っていて、その思いに共感して、志を持ってくれる方に入社していただきたいと思っています。このウェルビーイングの部署ができる前は、採用は現場任せ、支店長任せにしていましたが、今は本社も関わるようになりました。全社的な施策は、いろいろ準備を進めているところです。

WB100:「ありがとうの声」というレポートも、その施策の一つなのではと思います。こういう、可視化されたものがあるというのは働く立場からするととても嬉しいことです。「ありがとうの声」を読んでみたいです!

世羅:たとえば、私たちはお客さまから保険料をお預かりして、その手数料が収益となっているわけですが、自動車保険でお客さまの年齢によって保険料が安くなるタイプのものがあります。でも、なかなか自分の契約のことは忘れてしまいますよね。だからお客さまのお誕生日を覚えておいて、お電話をして「お誕生日が過ぎたら、今度はこういう契約にするといいですよ」と提案したらめちゃくちゃ喜んでいただいたとかね。
たとえ収益が減ってもお客さまのことを思ってそんなことができる社員がいて、われわれ管理職もそういう報告を聞いて「いいね!」と言ってあげているのがすごく良いと思っています。

WB100:客の立場だったらとてもありがたいです。

世羅:数字の成果面では「何やってんの?」っていうことになりかねないですが(笑)。でも、長い目で見れば信頼を得て成果に繋がっていくと思いますし、逆に保険料は高くなったけれど、しっかりと説明をしてもらった、安心できる保障ができたと感謝されるケースもあります。
2024年1月の能登の地震の時の話です。その地震の前に、あるお客さまが当地で火災保険に加入されたときに、担当社員はハザードマップを持参して、災害リスクのご説明をして、地震保険のご提案もしていたんです。お客さまのお宅は鉄筋コンクリートで、「うちは大丈夫だと思うけど」ということだったのですが、お勧めする理由を丁寧にご説明して納得していただき、地震保険にも加入いただいた。そして、不幸なことにあの地震が起きてしまったんです。保険を勧めた社員はあの1月1日、出かけるはずだったプライベートの旅行をキャンセルしてお客さまのところに飛んで行き、すぐに手続きをして保険金をお支払いし、とても感謝されました。

WB100:その社員の方の行動は義務というよりはとても自発的な動機に動かされていると感じます。いつ何が起こるかわからない、という意識で用意している……大変な業界ですね。「ありがとう」が生まれやすい土壌とも言えるかもしれませんが。

世羅:「ありがとう」もありますが、お叱りを受けることもありますよ。

「クローバーNews」。社員の報告が寄せられる。

モノを売るのではなく、人をつなぐ仕事。
AIを超え「人として」目の前の人に何ができるかを考えていきたいです(世羅社長)

WB100:3Kの目標を立てられてから、体調を壊されて健康第一という気づきがあり、4Kに……というあたりに、ウェルビーイングを体現されたストーリーを感じるのですが、69拠点、1000人以上の社員の皆さんには、世羅社長のこのストーリーは伝わっているんですか?

世羅:そういう話はしてこなかったですね(笑)。

WB100:このストーリーを社員の皆さんに伝えることが、経営の軸にあるのではと思ってしまいます。保険というと旧来は「誰々さんに入ってと頼まれたから」といったように、個人的つながりだけで入っちゃいがちなんですけど、「人のため、社会のためにいいことをしよう」、「皆さんが健康に、不安なく過ごせるようにサポートしよう」というウェルビーイング視点で薦めてくれるほうが、心に刺さる時代になっていると思います。

世羅:われわれの経営ビジョンとして、「お客さまからの信頼を得て成果につなげよう」というものがあります。なぜ成果につなげなければいけないのか。それは、会社の利益だけのためではなくて、その利益を未来への投資へつなげるというスタンスだからです。そして、社員の活躍や成長そのものが、われわれの企業価値向上につながると考えています。成果を上げたときに、だれかひとりの手柄にするんじゃなくて、イベントなどにつなげて共有する。小さなことかもしれないですが、そんなふうにやっています。

WB100:いろいろなエリアに拠点をお持ちですが、地域や地方自治体と連携はされていますか?

世羅:地方公共団体との連携、協定を結んでというのは、まさに親会社が目指しているところで、われわれはその直営の代理店ですから、しっかりやっていかないといけないという位置づけです。一番象徴的なのは「SAFE TOWN DRIVE」というアクションで、自動車についているドライブレコーダーのデータを集めて、どこで急ブレーキを踏むのか、どこで事故が起こりやすいのかといったマップを作って、地方公共団体と共有し、道路標識をつけたりしています。親会社のこうした取り組みに、われわれも懸命についていっているところですね。地域の皆さんへの安全運転講習などは、SDGsがスタートするより前からやっています。

WB100:保険は以前と変わってきていますね。

世羅:さらに変わると思います。

WB100:どのように変わっていくのでしょう?

世羅:今までは自動車保険と火災保険が多くを占めていましたが、高齢化社会の進展もありますし、自動運転も進んでいますしね。こうした保険の割合は下がってくると思います。もしかして、保険以外のことを扱うようになるかもしれません。たとえば、介護など、いろいろな相談にお応えする方法などを考えています。やはり、お客さまのお困りごとに応える、安心安全につながる保険と、保険につながることと、保険じゃないことをうまくミックスしていく方法を考えないといけませんね。

WB100:読者も、自分の将来にフィットする保険とは何かを、誰かに相談したいと思っているのでは。

世羅:今は、相談ごともAIで解決できるようになってきましたが、AIを超えて、人として、われわれができることは何か……を、保険をベースにしながら、もう少し守備範囲を広げて考えていきたいと思います。

WB100:すごく難しいけれど、モノを売るのとは違う、今後すごく必要度が高まる業界ですね。しかも隣にいる、身近な存在として。本日はお話を伺い、とても学ぶことが多かったです。ありがとうございます。