「東京江戸味噌」で江戸を想い味わう

ワタクシが毎日をご機嫌に過ごせている秘訣。
それは、日々の暮らしに
「好き」がいっぱいあることだと思うのです。

たまに落ち込んで涙したり、
イライラもしますが、
すぐに自分を笑顔にしてくれる
大小さまざまなお気に入りが
身の回りにたくさんあるので
ふと気づくと
楽しく嬉しい気持ちになっているのが常。

ワタクシが能天気で忘れっぽい性格なのでは?
そんなご指摘もツッコミも、ごもっとも。

でも、ワタクシは自分の「好き」を
発見することを
誇らしく日々楽しんでいます。
密かな愛用品、贔屓の店、アガる味。
旅、人、音楽、映画など。
特別なもの、些細なもの、
高価なもの、チープなもの、
もしかしたら、取るに足らないものも!?

そんなワタクシの大切な「偏愛」を
この連載ではご紹介させていただきます。
お付き合いいただけましたら、嬉しいです。

撮影・文/池水みと


東京・広尾にある
「東京江戸味噌」は
大正8年創業の
株式会社 日出味噌醸造元が
運営する
粋で小さな路面店。

こちらでは
味噌の販売に留まらず
江戸味噌を軸とした
味噌文化の発信を
されているのですが、

実はこの江戸味噌、
古い文献中の記述を
紐解いて復刻された
ユニークな味噌!

ワタクシも
普段から愛用しています。

こちらは
「東京江戸味噌」で
扱っている味噌4種。

江戸の頃から食べられていた
味噌で、左から順に

・江戸味噌(米みそ)
・江戸甘味噌(米みそ)
・仙台味噌(米みそ)
・田舎味噌(麦みそ)

と並んでいますが
どれも濃いこっくりした色。

これが江戸っ子の好んだ
味噌の色なのだとか!

「東京江戸味噌」では
それぞれの味噌を
出汁に溶いた温かい状態で
ティスティングできます。

味噌屋で実際に
味噌を味比べさせてくれる
ところはあまりないので
嬉しい!

田舎味噌や仙台味噌は
よく親しんだ塩気のある
味わいですが、

江戸味噌は
大豆とほぼ同量の米麹を
使っているので甘みがあり、
味はしっかり濃厚。

でも後味はサッパリして
独特の味噌臭さのような
クセは気になりません。

江戸甘味噌は
大豆の2倍の米麹の量なので
甘みをさらに強く感じます。

ちなみにこの江戸甘味噌、
江戸時代の頃から
歌舞伎にも登場するほどの
名物味噌で
数少ない味噌屋だけが
門外不出のレシピで
造っていたのだとか。
贅沢な調理専用の甘みそとして
用いられていたようです。

通常の味噌が
塩分12-15%のところ、

江戸味噌(塩分9%)と
江戸甘味噌(塩分5%)は
塩分がとても低いのですが
そのぶん足が速く、
保存性は期待できません。

では冷蔵庫のない江戸時代に
一体なぜこうした
フレッシュな味噌が
必要だったのでしょう?

日出味噌醸造元の
河村浩之社長は、
江戸の暮らしと流通が
こうした味噌を必要としていたと
話してくださいました。

そもそも江戸は大都会。
人口も多く、狭い長屋暮らし。
自家製の味噌樽を置くような
生活は叶いません。

江戸の人々は
近所の味噌屋からその都度
必要な少量の味噌だけを買う
生活をしていたので、
小さな味噌屋が
江戸だけで170軒ほどあり
生活を支えていたそうです!

仙台味噌は6〜10か月、
田舎味噌は12か月ほどの
熟成期間が必要なのに対し、
江戸味噌は麹の量が多いため
スピーディに
2週間ほどで完成します。

江戸味噌の製造では
低塩かつ米の多い味噌を
短期間で作るために、
留釜という大豆の蒸し方と
熱仕込みという
高温下での味噌熟成、
このふたつの
伝統的な手法を用います。

江戸の味噌屋では
こうしたフレッシュな味噌が
主流でしたが
作り手の都合だけではなく
きっとこの味わいが支持されて
作られていたはず。

でもこの江戸味噌、
太平洋戦争下の統制令で
米を多く使う贅沢品だという理由で
製造を禁じられてしまいます。

関東大震災で70%の味噌屋が被災し
さらに戦禍で
小さな味噌屋が消失すると
江戸味噌は時代に置き去りにされ
息絶えてしまうのです。

そして70年後に復刻されるまで
江戸味噌はその存在を忘れ去られ
大量生産される保存性の高い味噌が
全国的に台頭することになるのです。

さて、こちらの液体は
味噌から作られる
江戸の万能調味料
「煮貫(にぬき)」です。

煮貫は煮ぬき汁とも呼ばれ、
1643年刊行の
料理書『料理物語』にも
作り方が書かれていますが

味噌を水に溶いたものを
煮詰めて濾してから
酒と鰹節を加えて煮詰め、
再び濾して作る、
クリアで透明なつゆです。
(*記事末尾にレシピを掲載)

江戸発祥の江戸味噌を使った
この煮貫をつけ汁にして
江戸っ子は
蕎麦を食べていたそうですが

ワタクシも
「東京江戸味噌」の
江戸味噌を使って
煮貫を作ってみたところ、

味噌臭さは皆無。
現代で一般的に食べられる
蕎麦つゆの味そのものでした。
むしろ、
市販品の一般的な蕎麦つゆより
断然おいしくて…
驚きました!

色も香りもよく
味噌で作ったと伝えなければ
そうだと気がつかれないくらい
とてもおいしくて。

醤油や砂糖、みりんが高価で
庶民には手が届かなかった江戸で
このおいしさがすでにあったのか!
味の深みと複雑さにハッとして
味噌の調味料としての
魅力に気付かされました。

この煮貫、使う味噌によって
仕上がりの味が異なりますが
江戸前らしい印象があって
蕎麦との相性でベストなのは
江戸味噌。

江戸甘味噌で作ると
蕎麦つゆにはやや甘く、
色の濃い八丁味噌で作ると
まだ少し味わいが変化します。

「江戸前の味」というと
蒲焼のタレ、蕎麦つゆ、天つゆなど
「醤油ベースの甘じょっぱい味」を
思い浮かべる人が
大半だと思いますが、

江戸味噌で作った煮貫の味が
現代の江戸前の蕎麦つゆと
これほどまで近しい
ことから考察すると、

醤油が普及していく中で
江戸味噌の代わりに
醤油やみりん、砂糖を使って
「江戸前の味」が
作られるようになったと
いえそうです。

河村社長は
江戸味噌は「江戸前の味」の
ベースを作ったのですよ、
とおっしゃいます。

江戸発祥の
江戸味噌によって作られた
「江戸前の味」は
正真正銘
江戸っ子が愛した味わい。

しかもそれがそのまま
現代人の愛する「江戸前の味」に
なっているのだから
なんだか嬉しくなりますね!

煮貫を作る際に絞った味噌の残りに
生姜やネギ、胡麻油を混ぜて
焼き味噌にしてみたら
なかなかおいしかったです。

江戸時代の料理を楽しめる
小説『みをつくし料理帖』の
情景を思い浮かべたりして、

煮貫で蕎麦をたぐり
焼き味噌をちびちび食べながら、
ワタクシは嬉しくなるのでした。

さて「東京江戸味噌」では
煮貫以外にもさまざまな料理法を
店頭とウエブサイトで
紹介していますが

味噌は実に頼もしい調味料で
その底力には驚かされます。

煮切り酒かみりんで
ゆるく伸ばした江戸味噌を
鶏肉に塗って焼くだけで、
艶々の照り焼きに。

フードプロセッサーで
江戸味噌・パクチー・
ごま油・松の実を混ぜるだけ、

江戸味噌・バジルに
オリーブオイル・くるみを
混ぜるだけで作れる

ジェノベーゼ風のペーストは、
いろんなものに合います。

「塩の代わりに味噌」
「醤油の代わりに味噌」
と考えれば、
レシピは無限大!

江戸味噌はフレッシュで
味噌臭さがないため
名脇役としてしっかりと
具材の味を引き立てます。

柔らかな味わいの江戸味噌は
和洋中を問わないので、
中華調味料の甜麺醤の代わりに
炸醤麺の肉味噌にも
麻婆豆腐にも
気軽に使うことができます。

甘酒と江戸味噌を混ぜれば
ミルクキャラメル風味のソースに!
ドリンクやヨーグルトの
アクセントによく合うのです。

「東京江戸味噌」の店舗では
江戸味噌、江戸甘味噌、
田舎味噌、仙台味噌の4種を
100g単位で量り売りしています。

味噌を買うときに
失敗したくない人にとって、
少量での購入は
とても助かりますよね。

ワタクシは
調味料として出番の多い
江戸味噌を特に愛用しています。

チーズに
モッツアレッラのような
フレッシュなチーズと
長期熟成された
ハードなチーズがあるように、

味噌にも
フレッシュで汎用性の高い味噌と
長期熟成の個性的な味噌があるので、
もっと味噌を楽しみながら
日々料理をしていけたら!

そしてやっぱり
なんといっても、味噌汁。

海外や長旅から戻ると
真っ先に
白ごはんと味噌汁を
食べたいと思う
日本人は多いと思いますが、

味噌は間違いなく
日本人のソウルフード。

体の奥からじんわりと
あったまり、
ほっとできる味噌汁は
最高ですよね!

ワタクシは
複数の味噌をブレンドして
味噌汁を作りますが
江戸味噌や江戸甘味噌は
減塩したい時にも重宝します。

明日の朝は
どんな具でお味噌汁にしようかな!
わかめ、とろろ、豆腐、油揚げ…

この原稿を書きながら、
もう明日の朝の味噌汁に
思いをはせるのでした。


煮貫の作り方

<材料(仕上り目安600-700ml)>
江戸味噌 220g
 630ml
 300ml
鰹節削り節 20g

<作り方>

  1. 江戸味噌を水に溶き、8分目になるまで弱火で煮詰める。
  2. 煮詰まったら布で液体を濾す。
  3. 絞り過ぎるとつゆが濁るので気をつける。絞った後は味噌が残る。
  4. 酒を入れて1時間程度、ごく弱火で煮る。
  5. 鰹節を入れ3分ほど煮て、アクをとり、布で濾す。

出来立てよりも
一晩冷蔵庫で寝かせた方が、
味が馴染んでおいしい。
冷蔵保存も可能。

【インフォメーション】

東京江戸味噌
TOKYO EDO MISO

東京都渋谷区広尾5-1-30
東京メトロ広尾駅から徒歩6分

電話 03-3447-4130
https://www.edomiso.jp/

Online Shop
https://www.edomiso.jp/products/list.php

営業時間 11:00-17:00
定休日 土曜・日曜・祝日

池水みと / MITO Ikemizu
鹿児島ルーツの東京育ち。プロデューサー・編集者・ライター。リクルート在職中にアロマセラピスト資格を取得。フリーランスになってから調理師免許を取得。築地・豊洲の目利きと一緒に日本の伝統的な魚食文化の魅力を紹介するワークショップ「おいしい塩干教室」を主宰。「東京すし和食調理専門学校」が欧州に和食文化を伝える研修活動など海外向けプログラムに企画・通訳で関わる。幼少期にフィリピン、高校時代にブラジルに暮らしていたことから、日本文化への興味が強く、趣味は三味線・茶道・和菓子作り。最近の関心事は健康と予防医学。夢は自作絵本の出版。

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