ツレヅレハナコさん

食生活はこころとからだを満たして、気分よく歳を重ねるための重要なカギ。
「料理をつくること」は、日々の暮らしの豊かさと深くつながっています。
食・酒・旅をこよなく愛するフード編集者ツレヅレハナコさんは、インスタグラムで日々のごはんや人が集う日の食卓などを発信し、独特の感性を生かしたレシピや、食をテーマにした著書も多数。
そんなツレヅレさんに、料理との向き合い方を伺いました。

聞き手/ウェルビーイング勉強家:酒井博基、ウェルビーイング100 by オレンジページ編集長:前田洋子
撮影/原幹和
文/岩原和子


酒井 まず、ツレヅレさんがお料理をするようになったきっかけをお聞きしたいんですが。

「私の両親は共働きで忙しくて、忙しいながらもいろいろつくってはくれていたんですが、小学生の頃から、親がいないときにおなかがすいたら、私と一つ上の兄が自分たちで何かをつくるようになって。
私は卵が好きで、でも親に火を使っちゃいけないと言われていたから、卵を溶いて塩だけ入れてレンジでぷーっとふくらんだやつとかで、全然おいしくないんですけど(笑)。
そんな感じで、最初は必要にかられてつくり始めた、っていうのがあったかなと思います。

でも食べることが子どものときからすごく好きだったんで、つくるのはべつに苦じゃなかったですね。おこづかいで食材を買って、兄と二人でいろいろつくったりとか。
一度、兄が好きなだけパフェが食べたいって言い出して、二人で生クリームを2パック買って全部泡立てて、半分も食べないうちに二人とも気持ち悪くなったりしてました(笑)」

酒井 子どもが自分のお金で食材を買うって、けっこうすごいことですよね。

「そうですよね。私は近所のスーパーの品揃えなんかもチェックしていて。あそこはモノが揃っているとか、野菜が新鮮だとか、そういうのを小学生くらいから意識していましたね。
冷蔵庫の中に自分のスペースみたいものもあったんですよ。これは私が買ったやつだから、お母さん、お料理に使わないでって言って。

それで大学生になって、そのときからお酒は好きだったんですけど、みんなで飲むとなるとお店に行くようなお金がないから、大体、誰かのうちで宴会するじゃないですか。
当時私が住んでいた古い狭いアパートに10人くらいが来て、朝まで安いお酒を飲んで。
そのときにおつまみを、その古い狭い台所の二口コンロでつくったり、ということをずっと好きでやっていました」

酒井 料理をつくるのも食べるのも好き。その「食べることが好き」と思ったのは、ご両親がとても料理上手だったとか、人をよく招いていたとか、そういうことがあるんですか。

「両親はやはり食べることがすごく好きな人たちで、海外赴任が多かったというのもあってアジアが好きで。私も子どもの頃から、台湾とかタイとかの市場に連れて行かれて、そこで家族でごはんを食べたり、あとナンプラーみたいなものが家にあったりしましたね。

母はそんなに料理が得意では……いえ、本人は得意だと思っていたと思うんですけど(笑)、なんて言うんでしょうか、私の食べたいものではないことが結構あったかな。
たぶん子どもに野菜を食べさせたいっていう母の愛なんですけど、家にある野菜をすべての料理に入れるというポリシーの人で。たとえば家に玉ねぎとにんじんとピーマンがあったら、すべての料理に玉ねぎとにんじんとピーマンが入ってて、全部一緒じゃん、みたいな。

だから、やっぱり、自分の好きなものを食べたいんだったら自分でつくるしかないな、っていうのは子どものときからずっとありました。普通、子どもはそこまで思わないだろうなと、今は思いますけど、そういう執着みたいなものがあったんです」

酒井 普通の子どもは出されたものを食べるだけだけど、そうではなくて、こういうものが食べたいから自分でつくるしかないって、すごいですね。
「当時はそれがおかしいとは思わなかったけど、かなり食い意地が張ってますよね(笑)」

旅を愛するツレヅレさんが世界中で集めた鍋。好きなアルミや、使いやすそうな銅製の鍋などがいかにも話しだしそうに並ぶ「一番作りたかった」鍋棚。

酒井 普段はどのようにお料理を楽しまれているんでしょう? じっくりキッチンにいるのが好きとか、人をたくさん招くのが好きとか、いろんな楽しみ方があると思うんですが。

「わりと両極端ですね。自分一人で飲み食いするときは簡単で、材料数が少なくて、すぐにできる、簡素なものを食べていることが多いんですが、人を呼ぶときにはもうすごい時間をかけて、思いっきりつくるっていうのが好きなんです。
それが自分の本にもよく現れていると思います。つまみの本が多いんですけど、そっちは本当に自分の普段の食事。ホームパーティーの本は、せっかく人が来てくれるんだから腕まくりしてつくろうぜ、っていう感じですね」

豆腐をくずしてどんぶりに入れ、すべての薬味と柴漬け、天かすなどをのせてレモン醤油で食べる一人ごはん。卵好きで目玉焼き2個食いもしばしば。
コチラは「腕まくり系」の宴会用。タイのごはんもの「カオクルップカピ」。カピ(えび味噌)を混ぜたタイ米のごはんにいろんな具を混ぜて食べる。簡単な割に華やかなので盛り上がる。

酒井 たとえ一人の簡素な食事でも、やっぱり自分が食べたいものを食べたいから、ささっとつくる、ということですね。

「そうですね。あと料理に対して、ずっと思っていたことがあって。
私は食がらみの本や雑誌をつくる編集の仕事、料理研究家さんだったりシェフだったりに料理のレシピを聞いて記事にする仕事を20年くらいやっていて、それには自分でもすごい誇りを持っていたんですよ。本当においしくて、彩りや栄養バランスもよくて、人にほめられる料理を紹介できている、という誇りですね。

でも一方で、本当にみんなこれをきちんとつくっているのかな、っていう疑問がずっとあったんです。なぜなら、自分はこれつくらないなって思うから。
もちろん、そういうレシピを必要な人もたくさんいると思うけど、でも自分はそうじゃないなっていう違和感みたいなものがありました。

そうしたら、そのうちクックパッドとかが出てきて、<つくレポ>っていう実際につくってみましたというコメントを読むと、みんな全然レシピ通りにつくってないんですよ(笑)。
キャベツがなかったから白菜にしました、とか、なかったから入れませんでした、とか。それはもはや違う料理では、っていうような。

それを見ていたら、上から目線じゃないですけど、みんなが本当につくるレベルってこんな感じなんだな、というのがわかってくるじゃないですか。以前はわからなかったことが可視化されてきたっていうか、すごく見えてきたようになって」

酒井 リアルな食卓が見えてきた、と。

「そう。それで会社員をやりながら、普段自分がつくっている本当にリアルな料理をブログに載せていたら、そのリアルなのを紹介しませんかとウエブサイトの人からお声がけをしてもらって。で、連載していたのが1冊目の本になったという経緯があったんです。

もちろん、いくら簡単な料理だからといっても、自分が食べたくないものはつくりたくないし、ずっとレシピの仕事をしていたから、何を抜いちゃいけないかというのは何となくわかっていたんです。それで、ものすごい引き算をして、ここさえ押さえれば自分は満足できるっていうポイントみたいなものだけは、はずさないようにして。

本当は、もっとおいしくしよう、華やかにしようと思えば、こうすればいいというのはわかっているけど、忙しかったり、やる気もなかったりでできない。でも、自分の好きなものを食べたいんだったら、これでいいじゃんって思えるものを紹介していて、それでみんなに読んでいただけたんじゃないかなと。私と同じようなというか、食いしん坊なんだけど時間もなければ気力もないという人たちが、たぶん見てくれたんだろうなって思っています。

それから、私は食べることが好きで料理が好きで、周りも同じような人が多いから、みんなそういうものだろうと思っていたんですけど、本を出して感想を聞いていると、みんながみんな料理が好きなわけじゃないんだなって。あたりまえですけど。本当は料理をしなくてもいいんだったら、したくない人もいっぱいいるんだってことがよくわかりました」

前田 本当にそう。料理をあんまり好きじゃない人もたくさんいますよね。

「料理は好きじゃないけど食べることが好きだったり。あと、なぜか謎のプレッシャーみたいなのがあって、完璧なものがつくれないんだったら、もう買ってきたお惣菜でいいやとか、外食にしちゃうという人が結構いる。30〜40代の働いている忙しい女の人たちですね。
そういう人たちから相談されて、なんでそんな完璧なものを求めているんだろうって思ったんですけど、自分がつくってきたような料理の本を見ると、本当にすてきな、完璧な料理が載っていて、それがつくれないことで悩んでいるんですね。

だから、いや、いいんじゃないって言って。まぁ100点じゃないけど60点でも70点でも、自分が好きなものをつくればいいし、それこそ豆腐に何か乗っけただけでも、とくに食べたくもない外のものを、無駄にお金を使って食べ続けるよりいい。
自分がよければいいんだから、肩の力を抜いて、じゃないですけど、好きなものを食べようよ、みたいなことを、わりと一貫して言い続けている気がします。

私、食の本を十何冊か出させてもらっているんですけど、自分では、レシピ本をつくっているっていう気持ちが全然ないんです。
結果としてレシピは載っているけど、そうじゃなくて、みんなが勝手にハードルを上げているもの、お弁当とか、揚げものとか、ホームパーティーとか、それをもっとこういうふうに考えたら、楽しいし、そんなに難しくないし、もっと豊かになる。そういうヒントみたいなものをご紹介できたらいいなって思って、本をつくっている感じですね」

酒井 先ほどの引き算のお話で、ここを押さえておけば大丈夫というポイント。それさえ知っていれば、名もなき炒めものでもおいしくできるということですよね。

「おいしくできると思いますよ。やっぱり食材の組み合わせがばちっと決まっていたら、凝ったものでなくても満足感が高いし。
あと、私は香味野菜を使うことがすごく多くて。和食にディルとかイタリアンパセリなんかを合わせてみたりもします。たとえばアジの干物にディルをかけると、それだけでちょっと違うニュアンスになるっていうか、急に華やかにグレードアップしてくれるんですよ。

私はつねに薬味ボックスみたいなのをつくっていて、何にでもかけていますけど、そういう自分にとっての強い味方みたいなものがいくつかあると、毎日の食卓が豊かになるんじゃないかって気がします」

冷蔵庫に常備されている「薬味ボックス」。和洋エスニック取り交ぜて数種類の薬味がたっぷりとひとつにまとまっているからこそ、「鯵にディル」という発見も生まれる。

前田 昔と比べたら今は、自分でつくらなくてもいくらでも生きていける世の中になっていますけど、それでも家族がいるからつくらなきゃ、というのはありますよね。

「今までの私の話って、基本的には無理してつくらなくてもいい人たちの話なんですよ。
やっぱりご家族がいたりしたら、料理は好きじゃないけど家族が食べるからつくんなきゃ、という人もいますよね。
そういう人たちにもっと気楽にと言っても、そうはいかないところがあるでしょうけど、でも好きじゃないものは好きじゃないんだから、そのぶん、いろんな力を借りればいいと思うんです。今はミールキットみたいなものや冷凍のものもいくらでもあるし。味つけが決まらないんだったら調味料のパックとか。そういうものをどんどん、堂々と使えばいいと。

野菜も肉も切ってあって真空パックになっていて、調味料もついている。それさえ買って帰ればメインの料理ができるものが、スーパーだけじゃなく普通にコンビニでも売られるようになったら、みんな楽になるだろうなって思います」

前田 ツレヅレさんが料理が好きじゃない人のことをそんなに考えているとは、ちょっと意外でした。

「私はやっぱり、料理がすごく大好きな人っていうよりは、料理をするのはあんまり好きじゃないけどおいしいものを食べたい人に向けて、発信している気がします。
食べることをもっともっと楽しんでほしいし、もし私が紹介したものをつくってくれて、それで成功体験というか、自分もこういうものが食べたかったんだ、うれしいな、という気持ちになったら、料理を好きになってくれるかな、好きになってほしいなと思っています」

酒井 料理をつくるのも食べるのも好きな人って、周りを幸せにしますよね。
最後に、ちょっと抽象的ですが、ツレヅレさんにとってお料理って何でしょう?

「何なんでしょうね(笑)。でも、本当に日々の楽しみっていうか、自分の毎日を豊かにしてくれるものだと思うし、それはもう、死ぬまでじゃないですけど、一生の趣味みたいなものですかね。料理があって本当によかったなって思います。

それに料理って、自分一人でできて、自分の理想を求められるものですよね。
日々の仕事には、納得のいかないこととか、うまくいかないことがすごくたくさんあると思うんですよ。自分にとっては不本意なこととか、終わりが見えないこともあるし。
だけど料理は自分一人でできて、必ず完結するというか終わりがあるじゃないですか。唯一、自分が納得できるというか完結できてすっきりする。そういう意味でも好きなんです」

酒井 料理は自分の思うようにできるものだから、ちょっとでもおいしくて、自分が喜ぶ時間にしたいと。

「料理は上手になることよりも、自分が満足感を覚えることを目標にしたほうが、絶対に楽になるし、楽しいし、好きになれるんじゃないかなと思います。何度も言うようですけど、自分がよければいいんだから、っていうことですよね」


ツレヅレハナコ
食と酒と旅を愛する編集者。雑誌などのメディアやInstagramなどレシピやエッセイなどを発信している。近著に『ツレヅレハナコのお取り寄せ』(立東舎)、『ツレヅレハナコのうまい店閻魔帳』(扶桑社)、『女ひとり、家を建てる』(河出書房新社)など。
Instagram @turehana1

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