海の味わい、秋芽一番摘み海苔。

ワタクシが毎日をご機嫌に過ごせている秘訣。
それは、日々の暮らしに
「好き」がいっぱいあることだと思うのです。

たまに落ち込んで涙したり、
イライラもしますが、
すぐに自分を笑顔にしてくれる
大小さまざまなお気に入りが
身の回りにたくさんあるので
ふと気づくと
楽しく嬉しい気持ちになっているのが常。

ワタクシが能天気で忘れっぽい性格なのでは?
そんなご指摘もツッコミも、ごもっとも。

でも、ワタクシは自分の「好き」を
発見することを
誇らしく日々楽しんでいます。
密かな愛用品、贔屓の店、アガる味。
旅、人、音楽、映画など。
特別なもの、些細なもの、
高価なもの、チープなもの、
もしかしたら、取るに足らないものも!?

そんなワタクシの大切な「偏愛」を
この連載ではご紹介させていただきます。
お付き合いいただけましたら、嬉しいです。

撮影・文/池水みと


福岡県柳川の
「成清海苔店」が推す
「秋芽一番摘み海苔」は

さっくり歯切れよく、
口溶けも心地よく、
旨味と塩味の存在感と
淡い甘味もあり、
海の香りが芳ばしくて…

控えめに言って、
風味抜群の海苔です。

2020年2月に柳川を訪ね、
この豊かな味わいの背景にある
丹念な海苔作りを
垣間見て大感動したので、

ワタクシの大のお気に入り
「秋芽一番摘み海苔」の魅力を
生産現場の様子を回想しながら
今回はご紹介します。

日本一の海苔生産量を誇る
有明海は九州最大の湾。

毎年、秋冬〜春先までの間に
海苔養殖が行われますが
11月下旬に摘み採られる
最初の海苔は
「秋芽一番摘み」と呼ばれ、

若芽だからこその
柔らかさと口どけのよさ、
ズバ抜けたアミノ酸の量と
ミネラル、ビタミンの豊富さで
風味がとても豊か。
海苔として最も高く評価されます。

「成清海苔店」は
有明海の「秋芽一番摘み」でも
無酸処理のものだけを取り扱う
あっぱれな海苔屋ですが

その「成清海苔店」が
上質な海苔の作り手として
絶大な信頼を寄せているのが
柳川の「皿垣開漁業協同組合」と
その海苔師です。

海苔師は海苔養殖から
板状の乾海苔を仕上げる
一次加工までを手掛けますが

その乾海苔を入札会で競り落とし、
独自の焼きと乾燥で海苔を仕上げ
商品化・販売するのは
海苔屋の仕事。

海苔屋と海苔師、
両者の丹念な仕事ぶりが
おいしい海苔づくりには
不可欠なのです。

船着場から10分ほど沖に出ると
有明海の海苔漁場に到着します。

キラキラ輝く水面と空、
大きく広がる水平線に
嬉しくなりましたが

低水温を必要とする海苔養殖に
近年の気候変動(水温上昇)が
実は大きな打撃を与えていて、

海苔養殖に適した
海水温の期間が年々短くなり、
海苔の収量も低下していると
お聞きして、複雑な気持ちに。

沖の海面にニョキニョキと
無数の細い小枝のような棒が
たくさん突き出ているように
見えていましたが、
それは海苔網を支える支柱。

聞けば、有明海沿岸だけで
400万本以上の支柱が
立てられているのだとか!
すごいスケールです。

有明海では、漁協ごとに
海上の区画が定められ、
さらにその漁協の区画内で
海苔師それぞれが自分の区画を持ち
海苔の養殖を行っています。

海上を見渡してみても
海苔師の名前や区画の表記はなく…
どこが誰の区画で
一体どう識別しているのか、
ワタクシにはさっぱり
わからないのでしたが…!

海苔養殖の海上作業は
毎年10月にスタートします。

浅いところで水深7、8メートル、
深いと13−15メートルある海底に
長い竿の支柱を1本ずつ立ててから
種付けをした海苔網を張ります。

この「支柱方式」は
有明海だけの養殖方法で、
他の地域では「浮流し方式」なのだとか。

有明海で良質な海苔が育つ理由の
ひとつが
6メートル以上もある干満差。

海苔は、海水に浸かり
ぬらぬらゆらゆらしながら
栄養を吸収。
そして、海上にさらされて
太陽の光と風にあたることで
殺菌され、アミノ酸を生成し、
旨味を凝縮していきます。

海に出たり入ったりを
繰り返しながら、
海苔は成長していくのです。

海苔師は、
潮の高さや水温などをみながら
網の高さをひとつひとつ調整し、
海苔の成長を日々見守りつつ
刈り取るタイミングを見極めますが、

有明海周辺で越冬する
カモなどの鳥が
柔らかい海苔の芽を好むそうで…
海苔養殖の現場では鳥害も深刻。
気が抜けません。

海苔養殖は
秋芽網期(10−12月)と
冷凍網期(1−3月)の
大きく2期に分かれていますが、

11月末頃の
「秋芽一番摘み」の後には
さらに1回ないし2回、
種付けした網を張り直して
翌年の3月半ば頃まで
摘み採り作業が継続します。

陸揚げされた生の海苔は
大きなタンクに吸い上げられ、
即座に加工が必要なため
海苔師の工場へすぐさま運ばれます。

こちらの写真にあるのは
皿垣開漁協の組合長さんのタンク。
1日の収穫で満タンになるそうです!

生の海苔は、まず攪拌、洗浄、
そして複数の機械を通して
念入りにゴミ取りをしてから、
刻んでミンチ状に。

皿垣開漁協では
海苔の風味を損ねないために
水洗いの時間を
短めにしているそうです。

写真にある組合長さんの乾燥機は
使い始めて12、3年目のモノ。
1列で8枚の四角い海苔を
乾燥させることができ、
高さ数メートルもあって、巨大!

カシャンカシャンと
プラスチック製の海苔用巻きすに
均一に押し伸ばされた海苔は
次々と乾燥へ。

機械化されているとはいえ、
スポンジでどれくらいの圧をかけて
水分を取るのか、
一枚あたりの海苔の重さや
乾燥の温度設定をどうするかは、
海苔師がコントロールします。

細かい調整すべてが
食味の違いにつながるので、
海苔師ごとに
海苔の仕上がりも異なり、
そこが腕の見せ所なのです。

味にこだわる皿垣開漁協では
一般の海苔より厚みがあって
シャッキリとした歯応えの仕上がりに
なるよう工夫しているそう。

ワタクシは、1軒の海苔師が
これほど大規模な設備を抱えて
海苔を加工しているのか!と
機械の数と規模に驚きました。
かなりの設備投資でしょうから。

横19センチ×縦21センチ大の
海苔は約2時間の乾燥を終えると
「乾海苔」となります。

乾燥ラインの最後で
機械がエラーを出したものは
一枚一枚ライトテーブルで検品。
人間がカッターを使って
小さな異物を取り除き
不備別に分別されます。

最も質が高いとされる
「秋芽一番摘み」の加工時は
失敗ができないので
工場内は緊張感でピリピリする
そうですが、
まあそれはうっとりするほどの
良い香りなのだそう〜!

ワタクシが訪れた2月末は
収穫シーズンもほぼ終盤。

出来上がった海苔は
「秋芽一番摘み」より風味や食感の
グレードが落ちたものになるので
写真で見ていただくとわかる通り
表面は少しゴワついて
色も黒光りはしていません。

ガンダムのような大型機械が
音を立ててフル稼働する作業場で
一際目を引いたのは、
仕上げの海苔ブラッシング?!

一帖が半分サイズに折られ、
海苔師の名前が記された白い帯で
束ねられた海苔は、
年季の入った木製の台の上で、
剣山と洋服ブラシの中間のような
専用ブラシでザッザッと
側面を整えられて、一丁あがり!

海苔が気持ちよさそうにも見えて、
愛すべき、ほほえましい光景です。

この後
海苔は段ボールに箱詰めされ
漁協で検品され、入札にかかります。

海苔は摘んでからすぐに加工する
必要があるため、
摘み採りに行く海苔師だけでなく
海苔の加工に従事する女性たちも
出動時間は不規則。

夕方に海で収穫した海苔を
船が戻って来次第加工し、
乾燥させるとなると、
箱詰めまで完了できるのが
夜中の2時過ぎになることも。

海苔の成長と摘み採りのタイミングに
人間が臨機応変に合わせながら
収穫のハイシーズンを乗り切るのです。

海苔師がたくさんの方たちと
一丸となって海苔づくりに
取り組んでいる現場を拝見すると
なんという体力仕事で
なんという繊細な作業なのかと
ただただ頭が下がり、
海苔へのありがたみが増すのでした。

「成清海苔店」は
年一回の「秋芽一番摘み」入札会で
一年間分の商いを見越して
海苔を競り落とし、
用途にあった火入れや裁断、
味付けをして
一般向けに販売します。

皿垣開漁協産の最上ランク
「優等」の称号を受けた
最もスペシャルな海苔「優等」は
全型10枚で1800円(税別)。

ワタクシが家族で
手巻き寿司をする際に
よく使っているのは
皿垣漁協産焼海苔に限定した
焼海苔。
全型10枚で税別900円(税別)。

キズ海苔は家庭用として十分。
全型10枚で700円(税別)。
一番摘みのおいしさを
しっかり味わうことができます。

海苔は炙っても、そのままでも。
そのままお湯の中に入れて、
少しお醤油をかけるだけでも
おいしいお吸い物に!
味噌汁に入れても◎
香りがいいですよ〜。

定番のおにぎり、海苔弁
太巻き、細巻きだけでなく、
海苔はいろんなものに合います。

磯部餅、海苔入り玉子焼き、
山芋や竹輪の磯辺揚げ、
かき揚げに入れても◎

レタスと海苔だけの
シンプルなサラダもおすすめ。

うどん・蕎麦には山葵と一緒に。
パスタにはしらすと一緒に。
野菜と海苔を炒めて
ラーメン・焼きそばに!

とろみをつけた海苔餡は
里芋団子やふろふき大根に!

ひとくちミニサイズの
(にぎらない)おにぎりを作って
海苔をかぶせるように包んで
贅沢に食べるスタイルは
ワタクシのお気に入りです。

ご飯に沢庵、ゴマ塩、ゆかり、
ちらりと醤油、梅肉、佃煮、
好みのものをトッピングしても◎

味付け海苔であれば
トッピングはいりませんよ!

「成清海苔店」が完全無添加で
天然素材にこだわって作る
味付け海苔やふりかけは、
子育て中のご家族から
安心安全だと支持されています。

20−50グラム入りで
それぞれ380円〜570円(税別)。

ふりかけご飯に
途中から番茶をかけて
お茶漬けのようにサラサラと
いただくのは
ワタクシのお気に入りです。

海に囲まれ、海藻が豊富で
紙漉きの技術があった
日本だからこその食材が、海苔。

江戸時代に海苔養殖が始まってから
庶民にも手が届くようになり
日本人の食卓の
定番食材となりました。

かつてはゲテモノ視された
「黒い謎の食べ物 NORI」は
SUSHIに欠かせない食材として、
RAMENのトッピングとして、
海外でも人気です。

そして今。
海苔を取り巻く課題は
さまざまあるようです。

高級贈答品向けから、
コンビニの
おにぎり・海苔巻用、
お煎餅用と用途に応じた
さまざまな質と種類の
海苔がありますが、

国内だけで
年間80億枚の需要があるところ
20億枚ほど供給が足りておらず、
韓国や中国の輸入海苔が
台頭してきていること。

海苔業界の後継問題と
漁業組合の統廃合が
待った無しなので、

皿垣開漁協のように
味と質に注力した
海苔師の技術と心意気が
発揮できる自由なものづくりから
画一的な海苔生産へと
もしかしたら、遅かれ早かれ
変化せざるをえない
かもしれないこと。

自然環境の変化もあって
日本でおいしい海苔が
作れなくなりつつあること。

「成清海苔店」から
12月にできたばかりの
秋芽一番摘み「新海苔」を
送っていただいたので、
それをほおばり、
海の恵みを感じながら、

有明海で海苔作りに
奮闘する方々の顔を
思い浮かべながら、

どうかこのおいしさを
後々の世代も味わうことが
できますようにと
心から願うのです。

【インフォメーション】

成清海苔店(なりきよのりてん)

福岡県柳川市上宮永町32-10
電話 0944-75-6400
FAX 0944-74-3741
E-mail narikiyo-nori@mbp.ocn.ne.jp

Facebook
https://www.facebook.com/norinoriNarikiyoNori/
instagram
https://instagram.com/narikiyonori

池水みと / MITO Ikemizu
鹿児島ルーツの東京育ち。プロデューサー・編集者・ライター。リクルート在職中にアロマセラピスト資格を取得。フリーランスになってから調理師免許を取得。築地・豊洲の目利きと一緒に日本の伝統的な魚食文化の魅力を紹介するワークショップ「おいしい塩干教室」を主宰。「東京すし和食調理専門学校」が欧州に和食文化を伝える研修活動など海外向けプログラムに企画・通訳で関わる。幼少期にフィリピン、高校時代にブラジルに暮らしていたことから、日本文化への興味が強く、趣味は三味線・茶道・和菓子作り。最近の関心事は健康と予防医学。夢は自作絵本の出版。