ウェルビーイングの鍵は台湾漢方にあった!

人生100年時代、健康寿命の大切さはだれもが痛感するところ。
健康寿命を延ばす方法を考えたとき、
漢方の“未病”の考え方がすとんと胸に落ちる。
自分の心身を見つめ、症状が本格的になる前に体調を整える。
無理のない、穏やかな健康。
日本人と台湾人のふたりの若い女性が立ち上げた漢方ブランドDAYLILYが、
私たちの健康に対する姿勢に一石を投じる。

お話しをうかがった人/DAYLILY JAPAN(株):小林百絵さん(CEO)、王 怡婷さん(COO)
聞き手/ウェルビーイング勉強家:酒井博基、ウェルビーイング100 byオレンジページ編集長:前田洋子
撮影/原幹和
文/小林みどり


━━━台湾漢方のブランド『DAYLILY』を立ち上げたのは、小林さんと王さんのおふたりだと聞いています。最初のきっかけは何だったのでしょう。

小林さん(以下、小林)「大学院の後輩だった王が、修士のプロジェクトで漢方と音楽と女性の生活について研究していて、彼女からその話を聞いたり台湾の漢方の話を詳しく聞くうちに興味を持ち、一緒にやろう! となりました。

王のご両親が台湾で漢方薬局をなさっているため、漢方がとても身近で、そのライフスタイルに惹かれたのです」

王さん(以下、王)「大学院の指導教官が音楽にとても関心がある先生で……音楽と何を組み合わせたらウェルビーイングになるかと考えていたとき、私の父が台湾で漢方薬局をしている話をしたところ、漢方と音楽は相性がいいのではないかと。それでリアルプロジェクトを始めました。

そのとき考えたのが、音楽と漢方を体験できるお店。今のDAYLILYとは違うのですが、その前身ではあるかなと思っています」

━━━小林さんはデザインとブランディングをテーマに研究されていたそうですが、そのふたりのマッチングが大学の中で起こっていたというのが、すごく興味深いですね。

小林「学年はひとつ違い、王がそのプロジェクトを始めたとき私はすでに広告代理店に就職していたんです。
プロジェクトの相談を受け、漢方や、台湾での漢方のあり方を詳しく聞いたときに、日本とは全然違うことに驚きました。

逆に、台湾は日本とすごく近いのになぜ日本には漢方の習慣がないんだろう、なぜ日本はこんなに漢方の敷居が高いんだろうと感じました。

日本で漢方というと薬のイメージが強く、自分の体調が悪くなったときに漢方薬局へ行って処方してもらわなければいけないもの、と思われがちです。でも彼女の話を聞くと、台湾の人たちは屋台で漢方のスープを飲んだり、水筒にナツメを入れてお茶にして飲んでいるなど、漢方を日常的に生活に取り入れているのがすごく衝撃で。

日本人でそれをしている人って全然いませんよね。すごくうらやましいと思いました」

小林百絵さん(CEO)

━━━最近では病院で処方される薬に漢方もあったりしますが、確かに漢方専門の薬局というと、誰かの紹介でもないと入りにくいイメージはありますね。

小林「フラッと行けるような雰囲気ではなくて、すごく大きな悩みや体の不調があるくらいでないと、なかなか踏み出せないですよね。

でも、王のお父さんの漢方薬局は、近所の人たちが気軽にパーッと来て話しだけして帰るし、コンビニやドラッグストアみたいに日常的に入りやすくて、地域の人たちが気軽に通っている場所という気がして、日本とは本当に違うんだなと感じました」

「日本の漢方薬局は、漢方薬に特化しているので難しさを感じるのかもしれません。

台湾の漢方薬局は、昔から漢方薬と、いろいろなところから集まってきた食材を売る南北貨(ナンベイホゥオ)という習慣があるんですね。それも、漢方の食材。ふつうの漢方薬と食材の両方を売っているので、地域の人たちは食材を買うために漢方薬局によく入ります」

小林「漢方の食材を買って、おうちで漢方のスープを作ったり朝食に取り入れたり」

「アワビもナマコも漢方の食材で、そういうものが漢方薬局で買えるので、台湾の人にとって漢方薬局に入るのは抵抗がない。すごく自然なことです。

そこでついでに、実は最近調子悪いんだよと相談したら、薬剤師さんが漢方薬をくれる。すでにお互いに見知っている間柄なので、日本の漢方薬局のような入りにくさがないんです」

━━━日本人も健康への意識は高いほうだと思うのですが、日本と台湾で自分の体やセルフケアに対する意識の違いがあるのでしょうか。

「そうですね。私が日本に来てびっくりしたのは、生理痛なので痛み止めを飲むとか、風邪をひいたので薬を飲むとか、そういう人がほとんど、というところです。
台湾の友達は、日本に住んでいる友達も台湾にいる友達もみんなそうですけど、ちょっと喉が変かもといって漢方を飲むんです。まだ風邪をひいていないのに。

そこの違いはけっこう大きいなと思いましたね。生理がくるかもと言って、もう漢方飲んでいるみたいな。まだ生理きてないのに(笑)

私も台湾にいたときは、父が毎日わたしの顔と体調をみて飲むものを作ってくれていました。でも日本に来てそれができなくなったことも、DAYLILYをやりたいと思ったきっかけです」

小林「私はまさにザ・日本人で、体調が悪くなってからどうにかしようと考えてきた側です。今までそう生きてきた私から見ると、台湾人の暮らし方や漢方の取り入れ方がすごくいいなと感じました。

無理がなくて、日ごろから自分の体を気にかけている生活が、見ていてとても心地いい。それこそウェルビーイングな過ごし方だなと感じられて。

DAYLILYを立ち上げる前は広告代理店で働いていました。日々しなくてはいけない何かに追われていて、じゃあ健康であろうとしたときに、何かを削ってその時間を割いて、それをがんばって続けなきゃいけない無理はすごくあったなと思っています。

それを続けること自体は体にいいのかもしれませんが、心的にはどこか無理をしていたり、逆に疲れてしまうということは、けっこうあるんじゃないかと思います。

王もそうですが、台湾の人たちを見ていると、本当にフラットというか自然体だなと。

日本で健康意識の高い人というと、もちろんその人にとってはそれが自然なのかもしれませんが、普通の人から見たらフラットには見えないというか、けっこう大変そうかもと思ってしまいます」

王 怡婷さん(COO)

━━━それでおふたりでDAYLILYを立ち上げたんですね。ただ、台湾の漢方スタイルをそのまま持ってくるのではなく、日本人に受け入れられるように、しっかりチューニングされているように感じます。店舗の内装やパッケージ、プレゼンテーションの仕方など、ブランドづくりでこだわったことは何でしょう。

小林「次にどんな商品を作ろうとなったとき、まず王が台湾にはこういうものがある、こういうのを飲んでいた、食べてみたいというような話しをして、私やお店のスタッフが実際に食べたり飲んだりしたり、日本にはなくて、興味がわくものを選んだりしながら、ひとつの商品を作り出していくケースが多いですね。

本当に私たちが欲しいと思えるものしか作っていない。これが日本でも買えたらいいなと思うものしか作っていません。

女性の気持ちに寄り添いたいというのもありますし、ライフステージのそのときどき、日々のときどき、人生におけるそのフェーズやタイミング、そこに寄り添うものをそろえていきたいなと考えています。

一番人気なのは、食べるお茶「EAT BEAU-TEA」といって、具材を食べて飲むこともできる薬膳茶。中にナツメや黒豆、竜眼などがゴロゴロ入っていて、それを食べながらお茶を飲めるというのは日本ではあまり見かけないと思います。

台湾には普通にナツメチップスや黒豆、竜眼などが街中で売られていて、自分でブレンドしてお湯に入れて飲んでいるんです。
でも今の日本で、日本人がそれをやろうとするとちょっと難しい。それがDAYLILYなら手軽にできるということろで、人気が高いのでしょう。

漢方食材がこれでもかと入った「食べるお茶-EAT BEAU-TEA」

また、漢方を売るだけじゃなくて、漢方という概念、ライフスタイル全体を届けていきたいという思いもあります。

食べるもの飲むものだけではなく、本当に気持ちいいもの。
たとえばチャイナシューズは、ヒールが低くて布でできていて、すごく気持ちいい。しかもかわいくて気分が上がる。だから扱いたいなと思いました。

そういう、何か気分が上がったり気持ちよくなったりするものを、幅広く扱っていきたいと思っています」

━━━店舗に来られるお客様は、何か相談をされる方が多いのでしょうか。それとも、フラッと来てなんとなく見て買っていくような?

「半々でしょうか。オンラインストアでいろいろ見てからお店に来て、さっと買っていかれる方もいますし、30代40代以上になるとやっぱり何か相談したくなるようで、悩みを相談してくださるお客様も多いです。

お店には薬膳を専門的に学んでいるスタッフも、商品を監修している漢方薬剤師さんもいるので、質問にはきちんとお答えてきていると思います。薬ほどの効果があるものではありませんが、悩みに応じて体調を整える漢方をご紹介しています」

小林「DAYLILYのお店には20代から上は60代70代まで、幅広い年齢層の方に来ていただいています。本当に悩みがある方も、そうじゃなく単純に気持ちよく日々を過ごしたい方にも、いろいろご提案してご購入いただいています。

また、オンラインショップでも、年配の方、遠方にお住まいの方で定期的にご購入くださる方がけっこういらっしゃいます。

今は東京と大阪に集中していますが、2022年には博多にも出店予定ですし、徐々にお店を増やしていく計画です。漢方薬局のようなお店でDAYLILYの商品を扱っていただいたり、セレクトショップの店頭に置いていただいたりもしています。

思わず手に取りたくなる小物もたくさん。柔らかく、履いているのを忘れるような足にやさしいシューズも

2021年末に大阪に新しくできたお店「DAYLILY KAMPO STAND」では、店内で飲食ができるようにしました。博多のお店もその予定です。

人気の漢方スープ四神湯(シシントウ)もメニューにあるんですよ。台湾で食べたときと同じ味がするんです。本当に漢方食材がゴロゴロ入っていて、すごくやさしい味わい。ぜひ食べていただきたいですね」

「小林がすごく四神湯が好きで、台湾に行くとほぼ毎日食べないと気がすまないほど。だからこの商品をつくるときは大変苦労しました。いろいろな料理人に作ってもらったんですが、小林が“違います、これ台湾の味じゃないです”って(笑)

最後にたどりついたのが、日本に来てまだ1年目くらいの台湾人の料理人で、まだ台湾の味を覚えていたみたいです」

小林「2022年には東京にも飲食できるお店を出せたらいいなと思っています。近くで手軽に四神湯を食べたいですから(笑)」

━━━お客様の声など、何か印象的なエピソードがあれば教えてください。

「一号店である台湾のお店には、台湾限定の四物湯(シモツトウ)という女性の補血にいいドリンクがあります。それを飲んでいたら妊娠しました、と報告をくださったお客様がいらっしゃいました。ずっと体調が悪かったせいもあるのか、妊娠に至らなかったのが、それを飲んだら、と。それにはすごく感動しました」

小林「台湾の人の生活を見ていると、漢方はお守りみたいな存在なんですよね。何かしなきゃいけないから飲むのではなくて、常にそばにあって頼れる存在。
そういうのって、ヘルシーに生きていくうえですごく大事だなと気づかされました。

それは何でもいいと思うんです。漢方じゃなくても、その人にとってお守りだと思えるものがあれば、その人はとてもヘルシーでいられるのではないでしょうか。

そのひとつの選択肢として台湾漢方があってもいいし、何かほかのものでもいいし……くらいに考えて、DAYLILYはそういう存在であれたらいいなとずっと思っています」

【インフォメーション】

DAYLILY(デイリリー)
日本人と台湾人のふたりの女性がはじめた、台湾漢方のライフスタイルブランド。漢方具材がゴロゴロ入った、飲んで食べられるお茶『EAT BEAU-TEA』をはじめ火鍋スープやサプリなどの飲食材、コスメ、雑貨などを扱う。2021年末現在、台湾、東京、大阪に7店舗展開。
オンラインストア:https://daylily.com.tw/