おいしさ光る、深谷もやし。

ワタクシが毎日をご機嫌に過ごせている秘訣。
それは、日々の暮らしに
「好き」がいっぱいあることだと思うのです。

たまに落ち込んで涙したり、
イライラもしますが、
すぐに自分を笑顔にしてくれる
大小さまざまなお気に入りが
身の回りにたくさんあるので
ふと気づくと
楽しく嬉しい気持ちになっているのが常。

ワタクシが能天気で忘れっぽい性格なのでは?
そんなご指摘もツッコミも、ごもっとも。

でも、ワタクシは自分の「好き」を
発見することを
誇らしく日々楽しんでいます。
密かな愛用品、贔屓の店、アガる味。
旅、人、音楽、映画など。
特別なもの、些細なもの、
高価なもの、チープなもの、
もしかしたら、取るに足らないものも!?

そんなワタクシの大切な「偏愛」を
この連載ではご紹介させていただきます。
お付き合いいただけましたら、嬉しいです。

撮影・文/池水みと


ステイホーム期間をきっかけに
ワタクシは「深谷もやし」と
出会うことができました。

2020年春、
普段は飲食店や料理人など
プロ向けの野菜を扱う仲卸が
フードロスを少しでも減らしたいと
一般向けに企画販売した
宅配おまかせ野菜BOXを
何気なくお取り寄せしたところ、

その野菜セットの中に
「深谷もやし」が
入っていたのです。

野菜と一緒に届いた
イラスト入りの解説プリントには

「このもやしは
ひげ根が美味しい!
天ぷらもおおすすめ!
もやしから出るお出汁が美味だよ」
と書いてあり、

え〜!ホント?!

半信半疑で食べてみたら、
知っているもやしと
全然違う。

もやし独特の
変な匂いがしない。
水っぽくない。
むしろ細身で筋肉質。

火を通しても
ちゃんと歯応えがあって
味が濃くて、
みずみずしい!

もやしの茹で汁も
確かにおいしい!

もやしは
ひげ根を取って
料理するのが良いとばかり
思っていたのに。
ひょろりと細いひげ根は
むしろ味が豊か!
むしり取るなんてもったいない!

「深谷もやし」を初めて食べた時に、
その唯一無二のおいしさに
感激して

どんな人が
どんな場所で作っているのか
どうしても気になって。

親子二代で62年間にわたり
もやしづくりに取り組む
埼玉県深谷市の
飯塚雅俊さんにたどり着き、
飯塚商店にひとり押しかけました。

「深谷もやし」は
ミャンマー産の小粒の黒い豆、
ブラックマッペを発芽させています。

もやしは遮光栽培を行うため、
「室(ムロ)」と呼ばれる
暗い栽培室で育てられます。

別の仕込み部屋で
あらかじめ発芽させた豆を
大きな栽培コンテナ(畑)に
移し替えて、
ムロでの生育期間は約1週間。

もやしの出荷日には
栽培コンテナごと
作業場に運び出して
検品、洗い、そして袋詰め。

収穫作業の終盤の写真なので
もやしが片隅に少量ですが、
コンテナ一杯山盛りの量は
重さ500kgにもなるそう!

水車が回る洗い場水槽で
もやしは水洗いされ、
水槽の終点では網で
豆の殻が取り除かれます。

綺麗になったもやしは、
水切りされてから
小売用200g、業務用3kgに
ひげ根が折れないよう
やさしく袋詰め。

飯塚商店には、
大規模な機械設備も
ベルトコンベアーもなく
ほぼ全てが手作業です。

もやしは発芽野菜。
しかも
豆と水だけで発芽する
極めてシンプルな野菜です。

ムロの暗い中、携帯電話の灯りで
深い栽培コンテナを
覗き込んでいると

コンテナの中のもやしが
一律の背の高さではなく
中央部分が盛り上がるように
育っていることに気がつきました。

すると、
もやしが密集している箇所は
もやしの発芽熱で温度が高くなって
よく成長するのですよ、
と飯塚さん。

もやしは発芽熱で
50度くらいになるのだとか!

成長段階が異なるもやしコンテナを
ひとつひとつ見て回り、
1日4、5回の水やり作業で
飯塚さんは
湿度と温度を調整します。

栽培室の室温、水温、外気、
生育期間、水やり回数、
栽培コンテナ(畑)の位置、
豆の発芽率など

もやしの成長を左右する
さまざまな要素に気を配り、
手間と愛情をかけながら
もやしの成長を見守るのです。

しかも、飯塚さんは
もやしの風味を落としてしまう
エチレンガス* を一切使わず、

もやしが自身の力だけで育った
「ありのままのもやし」を
表現したいと
栽培に取り組んでいます。

もやし栽培のシンプルで実直な
工程を目の当たりにして、
人が手をかけて育てているから
「深谷もやし」は
真っ当においしいのだと
ワタクシは合点がいき、
嬉しくなりました。

スーパーで1袋数十円という
申し訳ないほどのお手頃価格な
もやしパックを見るたびに

そこまで価格競争が必要なのか、
人件費、光熱費、輸送費など
採算が取れているのか、と
気になってしまうのですが

「深谷もやし」は
道の駅や百貨店などで
一袋200g入りが
約100円〜160円で
販売されています。

もやしの全体流通量の
85%を占める緑豆もやしに比べると
5%程のブラックマッペもやしは
生産量がかなり少なく、
出会う機会は稀かもしませんが

細くて長くて、食感が良くて、
味の良さも抜群の
「深谷もやし」は
ちゃんと個性があって
また食べたくなるもやしです。

これまでいろんな料理を
試してみましたが、

「深谷もやし」をたくさん入れた
ラーメン、そば、サラダ、
ビビンパ、広島焼、麻婆あんかけ、
春巻、野菜炒め、チヂミ、パスタ、
冷やし中華、味噌汁…
どれもおいしい!

天ぷらは、
水分が少ない「深谷もやし」
だからこそ可能でした。

これはカレーを入れた衣で
カリカリに揚げてみました。
千切りにした竹輪や
海苔を混ぜたかき揚げ風も
おいしいですよ。

好みの野菜や細切り木耳、
塩昆布など
自由に食材と味で遊べるナムルは
いつも歯応え良く仕上がります。

ニラ醤油で和えても
キムチやヤンニョムと和えても。
水分が少ないので
常備菜としての持ちも◎

「深谷もやし」を栽培する
飯塚雅俊さんは
もやし本来の豊かな風味を伝える
「ほんものもやし」を
追求しています。

大手スーパーの値下げ攻勢に応じず、
大量生産には疑問を抱き、
こだわりのもやしを支持してくれる
消費者ファンや販売先を
独自でコツコツ開拓されてきたそう。

「深谷もやし」のほかには、
生産者が減ってきた
地元の在来大豆を絶やさないために
「埼玉在来品種の発芽大豆」を生産し、

もやしへの理解を深めてもらうために
自宅でもやし栽培ができる
「ありのままのもやし栽培キット」も
販売しています。

もやしが発芽熱で
グイグイと成長していくように
飯塚雅俊さんご自身も
とても熱意に満ちた方。

「種から芽を出す
命のエネルギーを
そのままいただくのがもやし」
と表現されていたのが
印象的でした。

1粒の種からは
1本のもやししかできないので、
そう考えると、
もやしは生命力に溢れた
贅沢な食べ物なのですね!

*現在、工場での大量生産が一般的なもやし栽培では、
生育中にエチレンガスを散布しているそう。
もやしが縦に伸長するのを抑制する効果があり、
太くて短いもやしを作ることができるのです。
エチレンガスは「植物ホルモン」とも呼ばれ、
果物の追熟などにも使用されています。

【インフォメーション】

有限会社飯塚商店
埼玉県深谷市新井637

ホームページ(取扱店情報も掲載あり)
https://matt2231.wixsite.com/moyashi

ブログ 
https://ameblo.jp/matt1119/

facebook
https://www.facebook.com/fukayanomoyashiya

twitter
https://twitter.com/fukayamoyashi

飯塚雅俊 著『闘うもやし』(2016年、講談社)

池水みと / MITO Ikemizu
鹿児島ルーツの東京育ち。プロデューサー・編集者・ライター。リクルート在職中にアロマセラピスト資格を取得。フリーランスになってから調理師免許を取得。築地・豊洲の目利きと一緒に日本の伝統的な魚食文化の魅力を紹介するワークショップ「おいしい塩干教室」を主宰。「東京すし和食調理専門学校」が欧州に和食文化を伝える研修活動など海外向けプログラムに企画・通訳で関わる。幼少期にフィリピン、高校時代にブラジルに暮らしていたことから、日本文化への興味が強く、趣味は三味線・茶道・和菓子作り。最近の関心事は健康と予防医学。夢は自作絵本の出版。