自分らしいキャリア形成が拓くウェルビーイングな働き方

文/的場康子(まとば やすこ)
第一生命経済研究所ライフデザイン研究部 主席研究員
専門分野は労働政策、子育て支援など
イラスト/ながお ひろすけ


これからの社会では、テクノロジーの進化が進み、働く上で必要なスキルや知識も変わっていきます。自分らしく長い期間働き続けるためには、社会の変化の波に乗り、どのような人材が求められているかを常に意識し、自分をアップデートさせながら働く必要があります。

一方で、長い人生の間には結婚や出産、子育て、介護などのライフイベントがあり、趣味やライフワークを大切にしながら働きたいという人もいます。これからは多くの人がライフステージや価値観に合わせて主体的に満足のできる働き方を選択できることが、ウェルビーイングな働き方につながると思われます。

ウェルビーイングは「成長実感」から

働き方のウェルビーイングは、自分が今、どのような就労環境にいるか、働きやすく、快適なコンフォートゾーンにいるのか、あるいは「適度な」負荷があるものの成長を期待できるストレッチゾーンにいるのか、そのような環境認識に関係します。

また、その一方、自分の仕事に対する向き合い方とか満足感といった内面の感情も、人によって様々なものがあります。環境認識を横軸に、仕事の満足感を縦軸にして4つの象限に分類し、幸福度との関連を分析したものが図1です。

これを見ると、「成長実感あり」と感じる人が最も幸福度が高いことが分かります。働きやすさを少々犠牲にしても、働きがいがあって、自分の仕事が成長につながると実感している人の幸福度が、この中で一番高いです。

仕事に対する満足度は、「家庭・趣味との両立」を重視している人も高いですが、一人の人間としての生活全体を含めた幸福感、いわばウェルビーイングは、成長実感があると感じている人の方が高いということです。

これは、「適度な」負荷があったとしても、長期的に見て、それを成長できる機会として前向きに捉えることができれば、ウェルビーイングにつながるということがうかがえます。

自分なりのキャリア成長を求めて

現在、入社後まもなく転職する若者が増えているようです。
若者の間で転職が一般的になっている背景には、社会環境や価値観の変化などが複合的に影響していると考えられます。たとえば、学校におけるキャリア教育の影響により、自らのキャリアは会社に依存するのではなく、自分で築くものというキャリア自律の考え方が若者に浸透しています。そのため、今の職場で成長できるのか、自分が思い描くキャリアを実現できるのかを重視し、キャリア形成のためには転職もいとわない人が増えているといわれています。

また、コロナ禍で加速したデジタル化と共に若者の間で広がった「タイパ」意識は、現在では幅広い年代に拡がり、効率性を求める価値観がさらに浸透しつつあるようです。キャリア形成においても、スピード感を求めています。多くの知識や情報を手軽に獲得できる社会環境で育った若者世代は、時代に乗り遅れないように、早く、効率的に成長することを重視しているようです。勤務先で成長機会が得られないと感じた場合、自分のスキルアップのために転職を選ぶ人が多いのは、そのためです。

さらに、SNSなどを通じて、同世代の華やかなキャリアや待遇に関する情報を容易に入手できるようになりました。「隣の芝生が青く見える」状態が身近になり、他人と自分のキャリアを比較して不安に感じる人が増えています。
このような現象は若者に限らず、他の年齢層にも見られ始めています。定年を前にした50代前後の人たちを含め、年齢を問わず、ストレッチゾーンで適度な負荷を受けながら、常に自身の成長のために新しいことに挑戦し続けたいと思う人も多いことでしょう。

他方、コンフォートゾーンで働きやすさを優先し、生活の一部として仕事を捉える「ワーク・イン・ライフ」の考え方の下、趣味や家族などの時間も大切にする生き方を選択したいという人もいます。また、高齢者や病気療養中などのため体力的に無理ができない人もいるでしょう。

いずれにしても、自らの生活状況や価値観に照らし合わせて、納得感のある働き方を選択でき、自分なりのキャリアを磨き続けることが、ウェルビーイングにつながります。

「ありがとう」の輪がウェルビーイングをもたらす

働いている人々はどのようなときに幸せを感じているのでしょうか。
働いていて幸せを感じる瞬間をたずねたところ、「お給料をもらったとき」に最も多くの人が回答しました(図2)。やはり多くの人にとって働く喜びは「お金」であり、生活のために収入を得ることが前提です。

次に多かったのは「お客様に感謝されたとき」「職場の人に感謝されたとき」というように、「感謝されたとき」が続いています。感謝されるということは、自分の仕事が誰かの役に立ったことを実感できますし、自分の仕事に価値を感じられる瞬間でもあります。これは仕事や会社との結びつきを表すエンゲージメントにも関連することです。社員同士の信頼関係を築いていくことで、モチベーションを高めることができれば、会社に貢献する気持ちも深まります。「ありがとう」という感謝の言葉が、多くの人々の働くモチベーションの源であることがうかがえます。

特に若い人の間では、「お客様に感謝されたとき」よりも「職場の人に感謝されたとき」に幸せを感じるという人の割合が高いです。子どもの頃からSNSを活用してきた若者世代は特に、自分が属するコミュニティの中で認められたいという承認欲求を強くもつ人が多いといわれています。他者からの感謝の言葉は、自分が認められていること、そして価値ある存在であることを実感させてくれます。若者世代に限らず、まずは自分から職場の人に積極的に感謝の気持ちを伝えて、「ありがとう」の輪を広げていくことが、職場で働く人全体のウェルビーイングにもつながると思われます。

一人ひとりがオリジナルのキャリアを築けるように

社会変化が激しく、先の見通しが見えづらいこれからは、一人ひとりが長い職業人生を幸せに歩むために、どのように働くのかを主体的に選んでいく時代です。

たとえば、コロナ禍を機に、自分の人生、働き方を見つめ直した人もいました。また、子育てが一段落して、これからは自分の人生を生きようと、新たな挑戦を始めた人もいます。また、趣味や家庭との両立ができることに生きがいを感じて働いている人や、人間関係が良好で安心して働けることに喜びを感じる人など、自分の価値観やライフステージに合わせて満足の得られる働き方を選択することがウェルビーイングにつながります。多くの人が満足感高く働けるように、企業においても働き方の選択肢を広げることが重要になるでしょう。

長い職業人生で予想もしないような変化が起きても、それを前向きに捉え、自分の価値観に照らし合わせて、自分ができること、やりたいことを伸ばし、オリジナルのキャリアを磨き続けることが、これからのウェルビーイングな働き方のために大切なことです。