ダイバーシティとウェルビーイング

文/後藤 博
第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 シニア研究員
専門は保健・介護福祉、障害者アドボカシー


今、ダイバーシティ(多様性)が注目されています。今回は、その背景と現状を踏まえ、生活者としてそれをどう捉え、どのように生活に役立てられるのかについて考えてみたいと思います。

1. ダイバーシティとは

ダイバーシティとは多様性を意味し、人種、年齢、性別、価値観などさまざまな違いをもつ人々が共にいる状態を意味します。その概念は1960年代のアメリカで生まれたとされています。当時のアメリカでは、人種や性別による差別を無くそうとする運動が活発に行われ、1964年にはさまざまな差別を禁止する公民権法が成立しました。このように、ダイバーシティという考え方は実は長い歴史をもっています。

ダイバーシティには、外見から判断しやすい表層的ダイバーシティと、見た目では分かりにくい深層的ダイバーシティがあります。

表層的ダイバーシティは、性別や年齢、国籍など、生まれ持った変えられない属性を指します。一方、深層的ダイバーシティは、宗教や価値観、性格、嗜好など、見た目では判断できない内面的な特性を指します。これには個々の知識やスキル、経験など、仕事にかかわる能力も含まれます。

深層的ダイバーシティは外見ではわかりにくいため、理解が進みにくいという問題があります。またこれらの違いがコミュニケーションに課題を生む可能性もあります。

しかし、多様な価値観や思考の違いが、新しいアイデアや変革を生む力となるため、ダイバーシティは個人にとっても集団にとっても変化を起こす要素となります。組織・集団のパフォーマンス向上を図るには、深層的なダイバーシティが強く影響しているといえるでしょう(資料1)。

2. 多様性を受け入れるために

多様性を尊重するアサーティブ・コミュニケーション

近年、職場においても多様性を排除せず包摂することが、個人および集団の成長と進化に不可欠だという認識が広がっています。性別や年齢などにかかわらず、すべての人が同じように活躍の場を得られることが重要となっています。その意味でも障害者雇用が進められているところです。

それでは、多様性を尊重するには具体的にどうすればよいでしょうか。その1つの方法として、アサーティブ・コミュニケーションが注目されています。自分を表現する方法としては3つのタイプがあるといわれており、自分の意見を強く主張し、相手の意見を無視するアグレッシブ(攻撃的)タイプ、自分の意見を抑え込み、相手に合わせてしまうパッシブ(受動的)タイプのほか、相手を尊重しつつ自分の意見もはっきりと伝えるアサーティブといわれるタイプがあります。

アサーティブ・コミュニケーションは、相手を尊重しながら自分の意見や要望を伝えるコミュニケーションです。これは、対等に自己表現・自己主張できるWin-Winな関係を築く上で重要なスキルとされています。

現在、職場でもコミュニケーションが大切な課題のひとつとされており、そのなかでアサーティブ・コミュニケーションが重視されています。このコミュニケーションを取り入れることで、職場の多様性を尊重し、全ての労働者が互いの違いを尊重し合う環境を作り出すことができます。

コミュニケーションに影響するアンコンシャス・バイアス

アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)は、無意識にもつ先入観や固定観念のことです。「無意識の思い込み」や「無意識の偏見」は、私たちが普段気づかないうちにもってしまっていることがあります。職場におけるアンコンシャス・バイアスは、パフォーマンスの低下やコミュニケーション不足など、さまざまな負の影響を及ぼすといわれています。また、このバイアスによって特定の人が排除され、画一的な組織を生んでしまうという弊害も指摘されています。

またアンコンシャス・バイアスは、アサーティブ・コミュニケーションを阻害する要因となる可能性があります。アンコンシャス・バイアスの代表的なものは、資料2の通りです。アサーティブ・コミュニケーションを実践するには、知識を得て繰り返し実践することが大切です。日常生活や職場において意見の伝え方を意識することで、率直に自己表現・自己主張ができるようになり、円満な問題解決に近づきます。

資料2 代表的なアンコンシャス・バイアス

正常性バイアス異常事態を正常と誤認し、危険を軽視する傾向
集団同調性バイアス集団の意見に無批判に従う傾向
ネガティビティバイアスネガティブなことのほうが記憶に残りやすい傾向
(出所)「戸田久実「アサーティブ・コミュニケーション」日経BP日本経済新聞出版」より第一生命経済研究所作成

3. 個人が目指せること
~アンコンシャス・バイアスの軽減と多様性の尊重〜

それでは、多様性を活かす社会を目指すうえで、私たち一人ひとりは具体的にどのようなことができるでしょうか。
現代社会では多様性を尊重することが強く求められるようになっています。そのために一人ひとりが多様性を認め合い、周囲とどう良好な関係を築くかが重要な課題となっています。それぞれが意識を変え、実践を繰り返すことにより、多様性を尊重する集団・社会を作りだすことができます。以下では経済産業省の報告書にもとづき、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を軽減する方法を紹介します(注1)。
まず、「自分は意識していない歪んだ認識で物事に接しているかもしれない」と考えることで、自分の行動や言動を客観的に見ることができるようになります。また、多様な人と直接関わる機会をもつことも、自分のバイアスに気づき、それを改善するための重要な手段となります。たとえば、障害者に対するアンコンシャス・バイアスを取り除くために、ブラインドサッカーや障害者文化芸術活動に参加することで、視覚障害者とのコミュニケーションがスムーズに行えることがわかります。
このように職場や社会が多様性を尊重し、共に時間と空間を共有することで、全員が互いの違いを尊重する環境が形成されることが期待されています。

4. 自分と異なる人とどう接し、どう協調するか考えよう

現代社会では、自分とは状況や立場、価値観の異なる多様な人々と関わり、協力する必要があります。そのような環境において、自分の状況や価値観は絶対でも多数派でもなく、数ある状況や価値観のひとつに過ぎないと認識することが大事です。
社会には多様な人々がいて、さまざまな考えや個性をもっています。自分と異なる人間とどう接し、どのように協調し合えるか考える姿勢をもつことで、新しい人間関係が広がり、そこでの変化や経験が自身の成長の助けにもなるのではないでしょうか。
現時点における個人のあるべき姿を描き、模索し、多様な文化や価値観との共生を図ることで、自身の成長やウェルビーイングにつなげていきたいものです。

注1)令和4年度 「産業経済研究委託事業 (ダイバーシティ経営推進に向けた アンコンシャス・バイアス研修のあり方と 効果測定指標等に関する調査)報告書」 2023年3月
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/R4_diversity_bias.pdf

参考文献
・戸田久実「アサーティブ・コミュニケーション」日経BP 2022年7月