キーワードは「働きがい」? 職場でウェルビーイングを向上させるには

文/髙宮咲妃
第一生命経済研究所 総合調査部 副主任研究員
専門分野はウェルビーイング、組織開発など


時代は「働き方改革」から「働きがい改革」にシフト

近年、多くの企業が従業員一人ひとりのウェルビーイング実現に向けて様々な施策を考えています。ウェルビーイングとは、その人が「幸せで満ち足りた状態」を指し、健康やお金、人とのつながりなど、生活の様々な要素から成り立つものです。

職場という場面で考えると、「働き方改革」の浸透で労働時間や有給休暇取得率が改善傾向にあり(資料1)、ウェルビーイングを成り立たせる要素の1つである「身体的な健康」については、各企業の取組みが実を結んでいるといえます。

しかし、職場において従業員一人ひとりのウェルビーイングを達成するためには、労働時間や有給休暇の取得しやすさ等の制度面の整備だけでは限界があります。働きやすい職場環境が整いつつある今、国や企業は従業員のさらなるウェルビーイング実現を目指し、次のステージ、従業員が「働きがい」をもって働ける職場環境に向けて動き始めています。

「働きがい」って計測できるの?

厚生労働省の「令和元年度版労働経済の分析」では、「働きがい」を客観的に捉える指標として「ワーク・エンゲージメント」を取り上げ、分析しています。

ワーク・エンゲージメントとは、ひと言でいうと仕事に関連するポジティブな心理状態です。具体的には「仕事に誇りや、やりがいを感じている(熱意)」、「仕事に熱心に取り組んでいる(没頭)」、「仕事から活力を得ていきいきとしている(活力)」の3つが揃った状態で、かつそれが「一時的」ではなく、「持続的」であることとされています(資料2)。

ワーク・エンゲージメント・スコアは国際比較すると、資料3のように基本的に日本のスコアは相対的に低く出てしまうことが多いです。欧米ではポジティブな感情や態度の表出を積極的に行うのが望ましいとされる風潮がある一方、日本人はそれを抑制するのが社会的に望ましいとされる風潮があることがその要因のひとつと考えられています。そのため、このスコアの比較だけを取り上げて「欧米と比較して日本企業の社員の働きがいは低い、取組みが遅れている」とは一概にいえませんが、企業として取組むべき大きな課題の1つといえます。 

働きがい向上に欠かせない「仕事の資源」と「個人の資源」

ワーク・エンゲージメント(≒働きがい)を向上させるための重要な要素として「仕事の資源」と「個人の資源」の2つがあります。

仕事の資源の具体的な要素としては、職場での良好な人間関係や上司・同僚からの支援、仕事の裁量(仕事の進め方における自律性等があること)、仕事ぶりに対するフィードバック等が挙げられます。

一方、個人の資源の要素としては、心理的資本(希望、楽観性、レジリエンス、自己効力感)等が挙げられます。心理的資本とは、個人の主体的行動を生み出す心理的エネルギーのことを指し、以下の4つの要素から構成されます(ルーサンス他, 2015 開本他訳 2020)。

① 希望(Hope):自ら目標を設定し、それに対して行為主体性を持ち根気よく目標に向かう姿勢を持つこと。
② 自己効力感(Efficacy):ある状況において特定の成果を生み出すために力を集結し、必要な一連の行動をとることができるという自信。
③ レジリエンス(Resilience):問題や困難に悩まされても、成功するためにすぐ回復し、時には元の状態以上になること。
④ 楽観性(Optimism):現在や将来の成功に対して楽観的でポジティブな要因に結びつけること。

この「仕事の資源」と「個人の資源」はそれぞれが独立してワーク・エンゲージメントを高めるだけでなく、相互に影響を及ぼしながらワーク・エンゲージメントを高めていきます(資料4)。

この関係に対して負の影響を与えるのが「仕事の要求度」です。仕事の要求度とは、具体的には仕事のプレッシャーや役割過重を指します。この「仕事の要求度」が高くなり過ぎると、ワーク・エンゲージメントは下がってしまいます。しかし、「仕事の資源」が豊富にある環境であれば、この「仕事の要求度」の高さに関わらずワーク・エンゲージメントが高まることが明らかになっており(注1)、企業としては自社における「仕事の資源」をいかに高めていくかが重要となります。

「仕事の資源」を充実させるための鍵、サーバント・リーダーシップ

前に述べたように、仕事の資源の要素には、職場での良好な人間関係や上司・同僚からの支援、仕事の裁量権があること等が挙げられます。それらの要素を満たすためには、全社的な組織風土改革と同時に、現場のマネージャー(所属長)のマネジメント、つまりリーダーシップスタイルに関わる部分も多くあります。

従来、リーダーシップはリーダーがフォロワー(部下)に一方的な影響力を発揮し、フォロワーがそれに付き従うことで組織や集団は効果的に牽引されるとされてきました。かし、そのようなリーダーシップはフォロワー(部下)を惹きつけ、組織変革の駆動力となるポジティブな側面を持つ一方で、権力の乱用やフォロワー(部下)へのパワーハラスメント等の問題を引き起こし得るマイナスな側面もあります。そこで近年、新たに様々なリーダーシップが提唱されており、そのなかでも、職場の心理的安全性やエンゲージメント向上において重要な要素といわれているリーダーシップが「サーバント・リーダーシップ」です。

サーバント・リーダーシップとは、サーバント(奉仕)こそがリーダーシップの本質であり、リーダーはまず部下に奉仕し、その能力を肯定しながらお互いの利益になる信頼関係を築いていくリーダーシップのことをいいます。従来のリーダーシップを「支配型」とすると、その対極としての「支援型リーダーシップ」であり、部下の裁量権が多いことが特徴です(資料5)。

仕事の資源を高めるために従業員を管理し過ぎる(部下の裁量権が少ない)ようなマネジメントは逆効果になる場合もあります。今後は従業員に一定の裁量権を付与しつつ、上司は部下を支援する、また、前向きな気づきを与えるコーチングをするようなマネージャー像が求められるでしょう。

【注釈】
1)「個人の資源」に関してはその効果はないことが明らかになっている(Xanthopoulou et al.,2007)。

【参考文献】
・Eva, N., Robin, M., Sendjaya, S., van Dierendonk, D., & Liden, R. C. (2019). Servant Leadership: A systematic review and call for future research, The Leadership Quarterly, 30, 111-132.
・Greenleaf, R. K. (1977). Servant leadership: New York: Paulist Press.
・鈴木智気(2020). サーバント・リーダーシップの修得-SL 形成におけるリーダーの主体的受容と学習に関する探索的事例研究-. 組織学会大会論文集, 9(1),88-94.
・フレッド・ルーサンス、キャロライン・ユセフ=モーガン、ブルース・アボリオ(2020)「こころの資本」
・Xanthopoulou, D., Bakker, A.B., Demerouti, E., et al. (2007)
“The Role of Personal Resources in the Job Demands-Resources Model”