自らを見つめ直すライフデザインがウェルビーイングにつながる

文/村上隆晃(むらかみ たかあき)
第一生命経済研究所 研究理事
専門分野はウェルビーイング、マーケティング
イラスト/ながお ひろすけ


え、ウェルビーイングって、3~4年後には誰でも知っている言葉に!?

最近、「ウェルビーイング」という言葉を目にする機会が増えています。ウェルビーイングとは一言でいうと「幸せで満ち足りた状態」を指します。「ウェルビーイング経営」というように、従業員のウェルビーイング向上を追求する企業経営の観点から取り上げられることも多いです。

資料1は、ウェルビーイングの世の中への浸透度合いを確認するために、「SDGs」や「ウェルビーイング」というキーワードを含む記事数を、時系列でプロットしたものです。SDGsは記事がほぼゼロだった2015年を起点に、ウェルビーイングは2019年を起点にして比較しています。ウェルビーイング記事数はSDGsを追いかける形で増加しており、2023年の11月までで約11,000件と、2019年のSDGSsと同等の勢いを示しています。

国民のSDGs認知率は記事数増加とともに上昇し、2022年には8割以上となっています。ウェルビーイングについても、記事数増加の傾向から見て、今後数年でSDGs同様、国民の多くが認知する状況になると考えられます。

そもそもウェルビーイングとはなにか?

ウェルビーイングとは、先ほど「幸せで満ち足りた状態」と言いましたが、健康やお金、働き方、人とのつながりなどの様々な分野からなる、多面的なものです。また、ウェルビーイングは、一人ひとりが日々の行動や経験から生まれる、嬉しい・楽しいという幸せを日々実感することにより、持続的な幸福を感じている状態を表します。そのため、お金や健康など、どの分野が充実していると、全体として「幸せで満ち足りた状態」と感じるかは人それぞれです。

ただ、国民や県民、あるいは企業のお客さまなど、大勢の人が集まると、どの分野がどの程度充実していると、全体として幸せで満ち足りた状態、ウェルビーイングが向上するのかの構造が見えてきます。

あなたが大事に思う生活分野は何ですか

当社では、ウェルビーイングな人生を送るための3つの人生資産として、資料2の左の図にある「健康」「お金」「つながり」を自分なりに充実させていくよう提言しています。そして私たちは、ウェルビーイングの実現に重要な「健康」「お金」「つながり」を「人生資産コマ」として表現しています。人生資産コマをみると、長くなる生命寿命という軸を支え、回転とバランスを維持するべく、3つの人生資産のポートフォリオを個人それぞれが作成し、維持拡大することが重要だということがわかります。

資料2の右側では、全体的なウェルビーイングの構造を確認するために、国の調査を参考にしながら左の3つの人生資産を更に9つの分野に分類しています。各分野について、緑色は「健康」、黄色は「お金」、青色は「つながり」に関係することを表しています。雇用・賃金、ワークライフバランス(WLB)は、黄色と青色が半々となっていますが、「お金」と「つながり」の両方に関連するものという整理です。

次に、当社の調査結果で、全体的な幸福度と9つの分野別満足度の状況をみてみましょう(資料3)。現在の生活に対する総合満足度である幸福度得点は5.5点です。10点満点のちょうど真ん中付近というのが、中庸を尊ぶ日本人らしい結果ではないでしょうか。

それに対して、分野別の満足度をみると、相対的に満足度が低く課題が多い分野は、家計と資産(4.6点)、雇用・賃金(4.6点)、介護(4.7点)となっています。お金の問題や介護が気になるというのも、生活実感に照らして納得感があります。

ただ、これはあくまで平均値の話ですので、皆さんにはこうした構造を見ながら自分にとって大事な分野が何か、考えるきっかけにしてもらえればと思います。

自分自身の生き方を前向きにしてくれる「ライフデザイン」の力

当社の調査結果で、ライフデザインを実践しているか否かで、人々のウェルビーイングの度合いが異なることが確認されています。

ここでいうライフデザインとは、いわゆるマネープランだけではなく、仕事や学業、家庭、余暇など、生活にかかわる様々な⾯を含む総合的な人生設計を意味するものとしてとらえています。

資料4の棒グラフは右側に行くほどライフデザインができていることを意味しており、「考えたことがない」の幸福度4.0点から、「ほとんどできている」の6.8点まで上昇しています。この結果から、ライフデザインができている人ほど、幸福度が高いということがわかります。

それでは、ライフデザインを行っている人は、ライフデザインにどのような効果を感じているのでしょうか。

資料5はライフデザインを行った人が感じている効果をグラフにしています。具体的なライフイベントとそれに伴う費用を認識した、自分・家族の健康・就業不能リスクに気づいた、生きがいを発見した、といった効果をあげる人が多いです。中にはキャリアプランが明確になったと答えている人もいます。

こうしたライフデザインによって生活の様々な面に対する意識が高まり、現状を把握したり、将来のことを考えたりすることで、自分自身の生き方・暮らし方に対する前向きな気持ちがもたらされることが、ウェルビーイングにつながっているようです。

2022年11月に決定された政府の所得倍増プランを見ると、第三の柱に「消費者に対して中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組みの創設」が掲げられています(資料6)。これに基づいて「金融経済教育推進機構」が2024年春に設立され、夏には本格稼働する予定です。機構が認定するアドバイザーが「家計管理」や「ライフプラン」、「資産形成」等に関する個別相談を実施することとされています。

マネープランが中心になりますが、個人がライフデザインを行うのを国が後押ししてくれるということです。

こうした仕組みも使いながら、自分の人生を見つめ直し、ウェルビーイング向上に繋げてみてはいかがでしょうか。