幸せを呼ぶ「助け合い」

文/水野映子
第一生命経済研究所 主任研究員 
専門分野はユニバーサルデザイン、ダイバーシティ
イラスト・図/ながお ひろすけ


私たちの社会には、障害や病気のある人、歳をとって心身の機能が低下した人など、多様な人々が暮らしています。健康状態にかかわらず誰もが幸せを感じられる社会を実現するためには、お互いが支え合い、助け合うことも重要です。そこで今回は「助け合い」をキーワードに、生活者一人ひとりの意識や行動のあり方に焦点を当てます。

助け合いの気持ちはあるが…

まずは、外出先などで障害のある人や高齢の人などが困っている場面に遭遇したら、どのように行動するか、という意識に注目します。

内閣府が2023年に実施した調査には、「外出の際、車いすの方が段差で進めなくなっていたり、視覚障害を持っている方が駅で迷っていたりした場合、声をかけて手助けをしたいと思うか」という質問があります。その結果を図1①でみると、『手助けをしたいと思う』(「常に手助けをしたいと思う」+「できるだけ手助けをしたいと思う」)と答えた人の割合がおよそ8割を占めています。『手助けしたいと思わない』(「あまり手助けをしたいと思わない」+「手助けをしたいとは思わない」)、「どちらともいえない」と答えた人は、それぞれ1割程度に過ぎません。

また、当研究所が2021年に実施した調査では、図2に示すそれぞれの状況に直面した場合に行動しようと思うかをたずねています。これをみると、「エレベーターを待っているときに、車いすを使っている人が来たら、順番をゆずる」「電車で座っているときに、高齢者や妊娠している人が前に立ったら、席をゆずる」と答えた人は8割を超えています。また、階段や段差の前で困っている車いす使用者、道に迷っている子ども・高齢者、体調の悪そうな人などを見かけた際にも、それぞれ約6~7割の人が声をかけると答えています。多くの人は、誰かに順番や座席をゆずったり、困っている人に声をかけたりする気持ちはもっているといえます。

日本は助け合いが少ない国?

次に、そのような状況に遭遇した際に、実際に声かけや手助けをするのかどうかをみます。

先ほど紹介した内閣府の調査(図1①)で『手助けをしたいと思う』と答えた人のうち、実際に『手助けをしている』(「常に手助けをしている」+「できるだけ手助けをしている」+「ときどき手助けをしている」)と答えた人は6割強でした(図1②)。残りは『手助けをしていない』(「ほとんど手助けできていない」+「手助けをしていない」)、「手助けをする機会がなかった」と答えた人が、それぞれ2割弱となっています。手助けをしたいと思っている人が、それを実行しているとは限らないことが示されています。

また、他の国と比べても、日本では見知らぬ人を助けることが少ないようです。イギリスの慈善団体Charities Aid Foundationが世界各国で毎年実施している調査には、過去1か月間に助けを必要としている見知らぬ人を助けたかどうかをたずねた質問があります。この質問に対する日本の回答割合は、最新(2022年)の調査では142か国の中で最下位(21%)でした。その前々年(2020年)も最下位、前年(2021年)は最下位から2番目であり、低い順位にとどまり続けていることがわかります。

*出典:Charities Aid Foundation「World Giving Index」(2021~2023年の各年)

助け合いを阻む壁を取り除くために

では、声かけや手助けをする気持ちはあるにもかかわらず、実行できないのはなぜでしょうか。理由はいくつか考えられます。

第1の理由は、手助けすることにためらいや遠慮があるということです。「相手が手助けを必要としていないかも」「かえって迷惑になるかも」と感じて手助けできない人もいます。また、「どう手助けしたらよいかわからない」という声もよく聞きます。

第2の理由は、手助けを必要としている人がいても、それに気づきにくいということです。前述の調査(図1②)では、手助けをしたいと思っている人の中に「実際に手助けをする機会がなかった」と答えた人が2割弱いました。けれども、実際は手助けを必要とする人に出会う機会がなかったのではなく、気づかなかったのかもしれません。最近はスマホなどに夢中で、周囲をよく見ていない人もいます。

手助けを必要としていそうな人が周りにいないと思っている人は、本当にいないかどうか注意を向け、想像力を働かせてみてください。そして、もしいたら思い切って声をかけ、手助けが必要かどうか聞いてみてはいかがでしょうか。手助けは要らないと言われたら、笑顔で立ち去ればそれでよいと思います。

一方、手助けが要ると言われた場合は、まず相手にその方法を聞くことが大切です。人によって適切な方法は違うためです。いざ手助けするときに困らないよう、サポート方法などに関する基本的な知識や技術を身につけておくのもよいでしょう。

以上では、自分が助ける立場になることを想定して述べましたが、逆に自分が何か困ったときに助けを必要とする立場になることもあります。日本人は、自分から助けを求めたり受け入れたりすることもためらいがちです。遠慮なく助け合える環境をつくっておくことは、他の人のためだけでなく、将来の自分のためにもなるといえます。

たとえ見知らぬ人同士であっても互いに関心を寄せ、もし困っていたら助け合うことが、誰もが幸せを感じられる社会に近づく一歩になるのではないでしょうか。