今どきの子育て ~ママ友って必要ですか?~

文/福澤 涼子
第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 研究員
専門分野は子育てネットワーク、シェアハウス、ワーキングマザーやシングルマザーの就労問題
イラスト・図/ながお ひろすけ


子育てにママ友って必要?

皆さんは「ママ友」と聞くと、どんなイメージを持ちますか。人によっては、子育てに関する悩みを共感しあうといったポジティブなものもあれば、過剰に気を遣ったり、トラブルの種になるといったネガティブなイメージを持つ人もいると思います。ママ友とは主に、子どもを通じて知り合った母親同士の友人関係を指す言葉です。同様に「パパ友」は子供を通じた父親同士の友人関係です。

昔、3世代が一緒に住むのが一般的だった頃は、子育ての知識や経験は子どもの祖母や親戚から直接学ぶことができました。しかし、核家族がほとんどの現代では、そのようなサポートが得られにくくなりました。さらに日本の男性は諸外国と比較して労働時間が長いため、その分、母子だけの時間も長いといえるでしょう。初めての子育てだと、授乳や寝かしつけ、病気など多くの疑問や不安が生まれますが、相談する相手がいなければ、不安感・孤独感が増大してしまうのは自然なこと。こうした状況下で、ママ友との関係は、情報の交換や感情の共感を通じた、「育児を支える重要なサポート源である」と考えられてきました。2003年に弊社が実施したアンケート調査では、ママ友が全くいない(0人)と回答する人はわずか6.2%に止まり、20年前はママ友がいるのが当たり前の社会だったということができるでしょう。

対して、2022年に実施したアンケート調査では「ママ友・パパ友がいない」と回答した割合は56%(父親の69%、母親の45%)となり、20年前のママ友がいるのが当たり前であった時代から、親同士のネットワークに変化が生じている可能性がうかがえます。

確かに、このアンケートはコロナ禍に実施したため、「ママ友・パパ友を作りたくても作れない」という人も少なくなかったとは思います。一方で、興味深いのは、「ママ友・パパ友はいない」と回答する人のおよそ9割が「必要ない」と回答したのです(※「ママ友・パパ友との付き合いは自分にとって必要か」という質問に対して、「あてはまらない」「どちらかというとあてはまらない」の合計)。

ママ友の役割がスマートフォンに代替されている?

ママ友がいない人の増加、そしてそもそも必要性を感じない人も多いことがわかった今回の調査結果は何が原因なのでしょうか。それは子育て環境や母親の就労状況の変化が影響していると考えられます。

スマートフォンなど情報通信機器の急速な普及によって、親たちは豊富な育児情報を簡単に入手できるようになりました。たとえば、離乳食や病気の対処法、寝かしつけの方法は検索すれば容易に得られる時代です。また孤独な夜間授乳の時間であっても、SNSを開けば、同じ境遇の人のコメントがタイムライン上に多数出現しますし、メッセージで励まし合うこともできます。加えて、本来は子どもの出産を機に途絶えがちだった旧友との関係も、SNSのおかげで物理的距離に関係なく維持できるようになっています。「せっかく作ったご飯を子どもが食べてくれなくて精神的に辛い」といった悩みも、近所のママ友ではなく、遠くに住む子どものいる旧友に相談して共感してもらうという人も少なくないはずです。

加えて、仕事をもつ母親が増えていることも挙げられます。子どもがいる親は孤独を感じやすいと一括りにされることが多いですが、有職の母親たちは、職場で日常的なコミュニケーション機会をもつため、出産前後に間が空くとはいえ、社会との接点をもち続けることができると考えられます。こうした有職の母親が増えたことも、ママ友の必要性を感じる人を少なくしている要因だと考えられます。

もしものときに頼れる仲間の存在は、今でも大切

しかし一方で、図表2でみたようにママ友がいる人の6割以上は、現代でも「ママ友は必要」だと回答していることもわかりました。「ママ友は必要だ」と考える親たちに直接話を聞いてみると、特に「セーフティネット」、「インターネットにはない情報の交換」という、ほかの手段に代替し難いママ友との交流の価値がみえてきました。

1つ目の「セーフティネット」とは、何かあった際に援助が期待できる安全網のことです。幼い子どもを抱える親は、非常時に子どもを誰に預けるかという問題が発生することがあります。実際にママ友がいる人の話を聞いてみると、「急に陣痛が来たママ友の子どもを預かった」、「自分が持病で入院、退院したばかりの頃、1週間子どものお迎えをお願いした」など、親自身に何かあった際に、ママ友に子どもを託したり、託されたりしたというエピソードが聞かれました。また、働く母親からは仕事の都合で習い事のお迎えに行けない時に、一緒に連れて帰ってきてもらったなどのエピソードも。ママ友であれば家が近所であったり子ども同士が遊べるなどのメリットだけでなく、アレルギーの有無や性格・危険行動など勝手もわかっていて預ける側としても安心だとのことです。

また、特に子どもが小学校に進学した後は、学校の情報を、子どもからだけではなく、ママ友からも得られるというメリットもあります。たとえば、行事の持ち物、集合時間、宿題の内容や期日など、子どもからの不確かな情報をもとに判断を迫られるとき、気軽に聞けるママ友がいれば、悩む時間を減らすことができます。その他、子どもがクラスメイトとトラブルになった際も、子ども本人からの情報だけではなく、ママ友からの情報も踏まえて、より多角的に状況を判断することができます。PTAや行事の係といった学校の慣例についての情報も、忙しい親にとってはなくてはならないでしょう。個人差はあると思いますが、ママ友との付き合いのある親たちは、そのような情報をもたない親と比較すると、より効率的で満足度の高い育児生活を送れているのではないでしょうか。

「友」の字に惑わされないことが上手く付き合うコツ

とはいえ、「ママ友」という言葉にネガティブな「イメージ」があることも確かです。ママ友は育児期特有の特殊な友人関係であるともいわれ、相手のプロフィール(名前を知らず“●●ちゃんママ”と呼び合うことも)や価値観がみえにくいなか、「同年代の子どもをもつ」という共通点だけで友人関係を築かなければなりません。さらに、子ども同士が友人の場合もあり、相手を苦手だと感じても、その関係を絶つのは容易ではありません。SNSやメディアでも、嫉妬や陰口、ママ友グループによる仲間外れなどネガティブな情報が目につくこともあり、ママ友づくりに消極的になる母親がいるようです(注)。

そのようななかで、ママ友との関係を築く際のポイントの1つは、「友だち」という言葉に囚われないことかもしれません。学生時代の友人との関係を基準に「友だち」を定義してしまいがちですが、大人の友情や関係性はそれよりももっと柔軟であり、幅広い形で存在します。同じようにママ友に対しても、学生時代の友人関係のような過度な親密さを求めずに、「子育ての仲間」と割り切った関係を築くのも1つの方法です。その割り切りにより、互いの価値観やプロフィールの違いを気にすることなく、子どもを中心とした協力関係を構築することができます。もちろん、共に時間を過ごすなかで、本当に信頼できる相手や価値観の合う相手を見つけることができれば、真の友情へと発展するかもしれません。とはいえ、最初からそのような関係を期待しないことが、ママ友と新しいつながりを築いていく重要な鍵となるのではないでしょうか。

「孤育て」にならないために、つながりを意識する

核家族が主流となり、地域のつながりも薄れている現代は、他者とのつながりを築くため、意識的な努力が必要な時代だといえます。もちろん、技術の進歩や育児グッズの進化により、ひとりで子育てをすることも可能にはなりました。しかし、困った時に頼りになる身近な人が家族以外にいることは、非常時のみならず日々の安心感にも大きく影響します。加えて、地域の親子同士がつながりをもち、近所で気に掛けてくれる大人が増えることは、子どもたちの安心・安全や、社会性の醸成という面でも価値があるでしょう。

『令和4年版 子供・若者白書』によると、現在約6割の親が「近所に子どもを預かってくれる人はいない」という孤立した状況にあります。子育てが「孤育て」にならないために、周りとのつながりを見直し、必要に応じて新しい関係性を築くことも大切です。ママ友は、その選択肢の1つになるといえます。

注)木田千晶,鈴木裕子「母親間の人間関係が構築されるプロセス―専業主婦における「ママ友」に対する捉え方を通して―」2020年,子育て研究第10巻

参考文献
・ 内閣府「令和4年版 子供・若者白書 第3章」2022年
・ 宮木由貴子「『ママ友』の友人関係と通信メディアの役割-ケータイ・メール・インターネットが展開する新しい関係-」2004年,第一生命経済研究所