健康マネジメントの具体策

文/上代実志(かじろ みゆき)
第一生命経済研究所 主任講師(保健師・健康運動指導士・介護支援専門員等)
専門分野は健康全般、介護
イラスト・図/ながお ひろすけ


新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行してから5か月が経過しました。
在宅勤務中心から出社や出張が増え、食事会など人と集まる機会が多くなり、外出や旅行などの行動範囲も広がるなど、人の流れも戻ってきています。行動範囲が広がることで活動量が増加しコロナ太りが解消しつつある人がいる一方で、食事会などが増えたことで体重増加が気になる人もいるようです。みなさんには健康面でどのような変化が起きているでしょうか。

「健康」のあり方は人それぞれですが、まずはご自身の「今」の健康状態を知り、「これから」どうしていきたいかを考えてみましょう。いつまでも元気に仕事を続けたい、旅行に行きたい、趣味を続けたいなど、豊かな生活を送るためには「健康をマネジメント」していく必要があります。今の健康を維持し、持病がある方は悪化させないためにも生活習慣を見直し、改善していくことが重要です。

年代ごとの肥満者の割合

一般に、男性は筋肉量が多く、内臓脂肪がつきやすいといわれています。各年代の肥満者の割合は男性の20代で23.1%、30代で29.4%と、女性と比べると多いのが現状です(図表1)。女性の場合、女性ホルモンの働きによって内臓脂肪はつきにくいですが、40代以降の更年期に女性ホルモンの分泌量が減少し始め、閉経後の50代以降になると肥満者の割合が多くなる傾向があります。内臓脂肪は筋肉を動かすエネルギー源であり、つきやすいが、落ちやすい・落としやすい脂肪といわれていますので、食生活や運動習慣を見直すことで改善していくことができます。

食事のマネジメント

食事に関する考え方はさまざまですが、ここではカロリーに着目します。図表2のように、年代や性別・活動量によって推定エネルギー必要量は異なっています。

必要なエネルギー量よりも摂取カロリーが多かった場合、余ったものは脂肪となって体に蓄えられます。では、「1kgの脂肪を1か月で減らしたい」と考えた場合、1日どのくらいのカロリーを減らす必要があるでしょうか。1kgの脂肪のカロリーは約7,200kcalですので、1日約240kcalを減らすということになります。これは中茶碗で約1杯分のご飯のカロリーに相当します。3食ご飯をしっかり食べている方は、いつもより1口~2口減らせば1日で約1杯分のご飯を減らせることになるわけです。さまざまな食品や総菜、外食時のメニューなどにもカロリーが表示されています。日々の食事を記録する、アプリなどを使用して摂取カロリーを把握するのも1つの方法です。

歯のマネジメント

健康的な食生活を維持するためには、歯の健康も大切です。歯を失う原因で最も多いのが歯周病です。歯周病は痛みなどの自覚症状がほとんどなく、気づいた時には手遅れということも少なくありません。歯周病は全身の健康とも関連しており、糖尿病や動脈硬化などのさまざまな病気と深くかかわっているほか、また噛む機能が低下すると肥満になりやすいことから、メタボリックシンドロームとの関係も注目されています。

自身の歯を守っていくためには、日常的なケアが必要です。定期的に歯科医院を受診したり、市区町村で実施している歯科検診などを活用するのもよいでしょう。歯科医院では歯のクリーニングだけでなく、自分の歯磨きのクセを教えてもらったり、ホームケア(歯間ブラシ・デンタルフロスの使い方など)の指導を受けるなど、日々の歯の健康対策につなげていくことが重要です。

運動のマネジメント

運動には次の3つのジャンルがあり、これらの運動をバランスよく行うことが大切です。
①伸展運動(ストレッチ):筋肉をゆっくり伸ばし、柔軟性を高める運動です。筋肉や関節、血管までしなやかになります。リフレッシュ、ケガ予防など、運動が得意でない方にもお勧めです。
②有酸素運動:体脂肪を燃焼させる運動です。酸素を使って体を動かすためのエネルギーをつくり出す運動で、代表的なものにウォーキングがあります。
③無酸素運動:筋力アップする運動です。筋肉を強化し、体を引き締めるのに効果的な運動です。自重トレーニングやアイソメトリクス(等尺性収縮:筋肉の長さを変えずに一定の負荷を掛けるトレーニング)などがあります。

実はこの3つの要素が全て含まれているのが、ラジオ体操です。正しい動きでラジオ体操を行うと、じんわり汗をかく程の運動量になります。朝や昼の時間など隙間時間に行ってみてください。

厚生労働省からは、+10(プラステン)が推奨されています。これは、「いつもより10分多く体を動かす」ことです。10分多く歩くことは1,000歩多く歩くことになり、体重60㎏の方であれば約30kcal程度の消費カロリーとなります。歩くだけでなく、家事を行う際にいつもより遠くまで腕を伸ばしで窓を拭く、しっかり膝を曲げて洗濯物を取るなど、普段の動きをエクササイズに変えて生活の中に取り入れてみるのも効果的です。

睡眠のマネジメント

睡眠は「恒常性維持機構」と「体内時計機構」の2つの機構によりコントロールされています。恒常性維持機構はホメオスタシスともいい、睡眠が不足したり、長く起きていると眠くなるという「疲れたから眠る」という仕組みです。体内時計機構は、いつもの就寝時刻になると、その日の疲れに関係なく「夜になると眠くなる」という仕組みです。この2つの機構が、状況に応じて相互に関連しながら、睡眠の質・量およびタイミングを抑制しています。

人の脳の中にある「視交叉上核」は体内時計の働きをもっています。本来、体内時計は、およそ25時間の周期とされますが、1日は24時間ですので、それに同調しています。その同調因子として光が最も重要で、朝の光によって体内時計がリセットされ、そのズレを修正しているのです。そのため、光の入らない部屋で生活していると、起床時刻がおよそ1時間ずつ遅れ、あわせて就寝時刻も遅れていくことになります。

起床後に太陽光が目から入ると、体内時計に時刻の情報として伝達され、朝の時報に体内時計を合わせることになります。こうしてリセットされた時刻から12~13時間は代謝が高められ、血圧・脈拍が高めに保持され活動に適した状態になります。

また、朝の光を浴びてから体内では14~16時間かけて「トリプトファン」という成分が「セロトニン」に変化し、最終的に睡眠ホルモンともいわれる「メラトニン」となります。脳の中にある松果体から「メラトニン」が分泌されると、手足の抹消部からの放熱が盛んになります。この放熱により身体の内部や脳の温度(深部体温)が低下してくると、1~2時間後に自然な眠気が出てきます。そのため、良い睡眠のためには、メラトニンのもととなるトリプトファンを多く含んだ食品(豆腐・卵・牛乳・バナナなど)を朝食に摂ることをお勧めします。

リラックスのマネジメント

簡単にできるリラックスの方法としては、「腹式呼吸」をご紹介します。
天井をみるように仰向けに寝たら「お腹」の上に両手を置いてください。手を置いているお腹が「膨らむ」ように、鼻からゆっくり大きく息を吸い込みます。鼻から「1・2・3」で吸ってお腹が膨らんだら、「4」は軽くとめて、口からゆっくり息を吐きだして「5・6・7・8・9・10」と吐く方を長めに行います。

腹式呼吸をするときのコツは以下のとおりです。
・息を吸うのが緊張、吐くのがリラックス。
 吸う息よりも、吐く息を長めにゆっくりと、細く長く吐いていきます。
・息を吐くときに「日頃の緊張や疲れ、不安や不満などの感情が、気持ちよく自分の外に吐き出される」イメージしましょう。

今回は、食事・歯・運動・睡眠・リラックスについてポイントをご紹介しました。日々の生活に取り入れられそうなものはありましたか?こうした情報を実際の行動に移し、生活の中で習慣にするには時間がかかります。しかし、小さな変化でも長く続けることで、大きな成果につながります。まず1つ、無理なくできそうな事から取り組んでみましょう。それが達成できたら、新たにもう1つ増やしてみてください。達成の積み重ねが自信になり、さらに健康へとつながります。健康でいきいきと過ごしていくために、ご自身の健康をマネジメントして、健康の維持・増進につなげていきましょう。