ウエスト青山ガーデンでハーフ&ハーフシューと野菜サンドを 第十二回「ウエスト青山ガーデン」(東京・青山)

文/麻生要一郎
撮影/小島沙織理


ウエストに行く予定が決まると、それだけで、なんだか嬉しくなる。

特に青山のお店は家からも近く、いつだって行けるというのに。
誰かとのお茶の約束、思い立って一人でお茶をしようという日もある。仕事での打ち合わせ場所がウエストに指定されると、初めて会う方でも急に親近感が沸いたりする。それが何故なのかを考えていたら、この店には、良い気が流れている神社やお寺にお参りに行くような安心感があるのだと気がついた。

地方の友人への手土産は、いつもウエストのドライケーキと決めている。老若男女、誰でも満足の美味しさが、箱の中にギュッと詰め込まれている。手土産で頂く機会も多く、包みを解いて箱を開ける時、毎回どれから食べようか迷ってしまう。でも最初に食べたくなるのは、いつも決まってヴィクトリア。初めにサクッと、次はほろりとした食感、バターの美味しさ、上にのせられた苺ジャムとのバランス。我が家では、亡くなった母の写真の前に必ず、彼女が好きだった、ヴィクトリアを備えている。ウエストが好きで、百貨店の地下でドライケーキをバラで買う時、必ずヴィクトリアを選んでいた。

そもそも僕にウエストの存在を教えてくれたのは、母である。僕が東京、母は水戸に暮らしている時、青山店で待ち合わせをしてお茶をした。車で移動する彼女にとって、駐車場がすぐ隣にあるのは都合が良かった。落ち着いたホテルのラウンジのような店内、木々に囲まれ風が気持ちの良いテラス席、どちらの席に座ってもウエストの安心感がある。コーヒーのお替りを頂きながら、お互いの近況報告をするのに、最適な環境だった。

お昼時ならば、”野菜サンドイッチを焼いたライ麦パン”で作ってもらった。パンの種類、焼くか焼かないか、挟む具材も含めると、サンドイッチの選択肢はたくさん広がる。丁寧に下処理された野菜を綺麗に挟んで、均等に切り分けて盛り付ける。それは当たり前のことのように思われるけれど、ちょっと高さが合わないだけで、盛り付けが台無しになってしまう。

何でもいい加減に切ってしまう僕には、到底真似が出来ない技である。そして、レモンを絞るとまた味がキリッと変化、添えられたパセリを一口食べると、また口の中がリフレッシュ、決して単調にならずに食べられる。

お茶の時には、ハーフ&ハーフシューとコーヒーを頼む。毎回食べるものは、迷った割に結局、同じになるけれど、迷う楽しさがある。ケーキのサンプルを持ってきてもらうと、ずらりと並んだケーキに目移りしてしまう。

モンブランにも惹かれるし、苺か季節によってはマスカットがのせられたプリンに心が動く、モザイクケーキも美味しそう、結局いつもの、ハーフ&ハーフシューになるけれど。初めてオーダーすると、大きなシュークリームの登場に一瞬驚くかも知れないが、安心して欲しい、このシュークリームは、ふわふわで軽いのだ。店内でしか食べられない、このシュークリームには、カスタードと生クリームが入っていて、あっさりと楽しめる。昨今のシュークリームは、生地が様々あって、しっかりした食感が多い傾向にあるが、僕は思わず頬擦りたくなるような、このふわふわした生地が好きだ。

ある時、僕の養親の姉妹にウエストのケーキを買って帰った。彼女達は、チョコレートケーキやレアチーズケーキを好んだ。一見、小ぶりに思えるが、どっしりした味わいあるケーキ。姉が「美味しいわね、今時には珍しく、昔の味でちゃんと作ってるのね。」と言ったので、ウエストで買ってきたと言うと「あら、ご主人(初代)お元気かしら? 銀座でお店やっていた頃、よく顔を出して下さったのよ、紳士的で良い方だったわ。まだお店が健在なのは、嬉しいわね。」と、言っていた。彼女たちが、ケーキをよく食べていた店は、どんどんなくなっている。店の名前を挙げられるたび、もうそのお店はないと答えるのが、苦しくなるほどだった。

青山店は大人気で、開店前に取材をさせて頂き、終わる頃には、もう列が見えた。ある時、姉の同級生の90歳になる紳士と、お茶をする事になり「この近くなら、ウエストがあるね」と言われて、混んでいるだろうなあと思いながら向かうと、やはり行列が出来ていた。その紳士は目を細めながら、向かいの青山斎場を眺めて「こんなに混んでいては無理だなあ、誰か著名人の葬儀でもあったのかなあ? それにしては喪服じゃないし。」と言うので、ウエストは大変な人気がある事を伝えると。頷きながら「僕らの年になると、昔行った店なんて、どんどんなくなるんだよ。そんな中、こんなに今の人達に受け入れられて人気だなんて、良いものを見たなあ。」そう言ってくれたので、嬉しかった。

お店が続いて行く事が、誰かの希望になっているというのは素晴らしい事じゃないだろうか。取材の時にお会いした代表に「いつも長居をしてしまって」と伝えると「お客様に、快適に過ごして欲しいから」との言葉を頂いた。これからも、ほどほどに長居をしながら、ウエストに流れる時を堪能したいと思っている。青山店はもちろん、銀座の本店、横浜のお店にも、同じ空気が流れています。皆様もぜひ、お出かけ下さい。


ウエスト 青山ガーデン

銀座ウエスト本店は、昭和22年に高級レストラン「GRILL WEST GINZA」として西銀座にオープン。世界中の人が旅を楽しむ大型客船の厨房で腕を振るった一流シェフを招いて、当時コーヒー一杯10円のころに、1,000円のコースを提供、たちまち舌の肥えた食通の間で評判をとったが、わずか半年後、都条例「75円以上のメニュー提供の禁止」が施行される。安価で提供するかどうか、という議論の中「食材の質を落としては納得いく料理は提供できない」というシェフの意見で、一部の料理は残し、デザートのみでの営業を決め、喫茶店として再出発した。この「原材料に徹底してこだわり、職人の手でひとつひとつ丹精込めて手作りする」姿勢は今も脈々と受け継がれていて、親子代々のファンから絶大な信頼を寄せられる。東京でしか販売されていない「ドライケーキ」はそれを土産として贈る東京人の誇りでもある。青山ガーデンは2008年に新装オープン。四季の移り変わりを心地よく感じさせるガーデンテラス、製菓工房、売店を備えた最高の環境で、居心地の良い室内ラウンジには特別な時間が流れている。

ハーフ&ハーフシュー 440円(+385円で飲み物とのセットも可)
ケーキセット、ドライケーキセットも有。
ヤサイサンド 1430円、ハムサンド 2090円、タマゴサンド 1430円
*サンドイッチはすべてライ麦パンもあり、トーストするか否かも選べる。
ボルシチスープ(フランスパン付き)1760

住所:〒107-0062 東京都港区南青山1-22-10
電話:03-3403-1818 
営業時間:月~日曜日 11:00AM~8:00PM
*予約は不可


麻生要一郎(あそう よういちろう)
料理家、文筆家。家庭的な味わいのお弁当やケータリングが、他にはないおいしさと評判になり、日々の食事を記録したインスタグラムでも多くのフォロワーを獲得。料理家として活躍しながら自らの経験を綴ったエッセイとレシピの「僕の献立 本日もお疲れ様でした」、「僕のいたわり飯」(光文社)の2冊の著書を刊行。現在は雑誌やウェブサイトで連載も多数。今年新たな書籍も刊行予定。

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