ニューノーマル時代の幸せな働き方

文/的場康子(まとばやすこ)
第一生命経済研究所ライフデザイン研究部 主席研究員
専門分野は、労働政策、子育て支援など
イラスト/ながお ひろすけ


コロナの感染拡大から3年が過ぎましたが、ウクライナ侵攻、物価高など、「ニューノーマル」が次々とアップデートされるように社会が大きく変化しています。DX(デジタルトランスフォーメーション)もさらに進み、働く場所を選ばないテレワークの普及のほか、対話型AIの活用など、AIと人間によるハイブリッドワークが「ノーマル」になる社会も近いようです。新たな変化を創り出しながら、自分らしく働くこれからの時代に向けて、私たちの幸せな働き方を考えます。

テレワークが拡げる新しい働き方の可能性

テレワークは、コロナの感染拡大前から働き方改革として進められてきましたが、感染拡大後、感染予防策として国からの要請により一気に広がりました。テレワークを実施するには、パソコンなどのデバイスと、ネットワーク及びセキュリティシステムなどのオンライン環境が整っていることが必要です。コロナをきっかけに普及したテレワークは、こうした技術を発展させました。場所を選ばず、グローバルにオンラインで仕事ができる技術を活用した新しい働き方の可能性が広がっています。

その一つはワーケーションです。観光庁によれば、ワーケーションとは「Work(仕事)とVacation(休暇)を組み合わせた造語です。テレワーク等を活用し、普段の職場や自宅とは異なる場所で仕事をしつつ、自分の時間も過ごすこと」と定義されています。

ワーケーションにより普段とは違う非日常的な空間で働くことで、リフレッシュできますし、それによって新たな発想が生まれれば、仕事にもメリットになります。また、ワーケーションのために多くの人が日本各地に旅行に行けば、地域活性化にもつながります。観光産業にとっても、ワーケーションをする人が観光シーズンを問わず、一年を通じて泊りに来れば、宿泊や食事、観光施設などの利用促進につながります。

このようにワーケーションは、働く人にとっては働き方の選択肢を広げ、また企業にとってはイノベーション創出に寄与するのみならず、地方創生、地域活性化に貢献する取り組みとして期待されています。

現状ではワーケーションを導入している企業の割合(導入率)は5.3%、導入を検討している企業は12.7%であり、極めて限定的ですが(観光庁「今年度事業の結果報告」2022年3月)、弊社が実施したアンケート調査によると、特に若い世代でワーケーションへのニーズは高くなっています(図1)。多様な働き方を進めることは、優秀な人材の確保にもつながります。今後、人材戦略の一つとして多くの企業が注目すれば、ワーケーションの広がりも期待できると思われます。

また最近では、「デジタルノマド」が世界的に増えていると言われています。「デジタルノマド」とは、IT(情報技術)を活用しながら、場所にとらわれずに旅をしながら働く人々のことを示します。テレワークは働く場所の制約がない働き方を広めましたが、デジタルノマドはそれをさらに進め、国を超えて住む場所を次々と変えながら働くという新しいスタイルの働き方です。プログラマーやウェブデザイナー、ライターやカメラマンなど、ネットを活用して働くことができるフリーランスが多く、デジタルノマドで働いている人同士、コワーキングスペースなどで交流することで、イノベーションの促進も期待できるようです。

このように、デジタル技術の進展とともに、グローバルに人材を募集する新たなプラットフォームも次々と生み出され、国境を越えた新しい働き方が広がっています。

AIとのコラボレーションによる働き方

DXの推進による働き方の変化はテレワークだけではありません。AIの活用により機械と人間とのハイブリットワークの可能性が広がっています。

たとえば、対話型AIの一つである「チャットGPT」が大きな話題となり、注目されています。ネット上で対話型AIに質問を入力すれば、自然な文章で回答を返してくれます。AIがアイデアを提案してくれるので、新しい視点・発想を得ることができます。AIを用いて文章作成をすれば、一から文案を考える手間も省けます。マーケティングや広告、コンサルティング、報道、出版など、多くの業界で生産性を大きく向上させる可能性が期待されています。

しかし、現時点では、AIが100%正しい回答ができるわけではないようです。回答に誤りも多いため、常に人間が事実確認をして見極めることが必要です。これからはAIとコラボレーションをしながらお互いに補完し合って働く、そのようなAIと人間によるハイブリッドワークにより、生産性と創造性を高める働き方が広まることでしょう。

社会変化の波に乗ってアップデートを

今後ますますテクノロジーは進化し、私たちに求められるスキルや知識も変わっていきます。こうした中で、自分らしく働くためには、社会の変化の波に乗り、どのようなスキルや知識が必要かを見極めることが重要です。これからの社会ではどのような人材が求められているかを常に意識し、自分をアップデートさせながら働く必要があります。
実際、今後の働き方の希望についてたずねたアンケート調査によると、キャリア形成を重視しながら、自分らしい働き方を望む人が特に若い年代で多く、学びへの意欲の高さがうかがえます(図2)。

キャリアの重視は、自分だけではありません。「家族(配偶者など)のキャリアを重視して働きたい」についても、女性のみでなく、男性も20代、30代の4割以上が肯定的に回答しています。これまでは、夫の転勤などのために女性のキャリアが犠牲になることが多く、女性のキャリア形成をめぐる課題となっていました。男性側も、こうした状況を問題視していたようで、妻のキャリアも重視して働きたいという男性が一定程度おり、20代男性では半数近くに上ります。共働きがほぼ当たり前となっている20代、30代の多くは、夫婦でキャリア形成を考えて働きたいと思っているようです。

「ライフ」と「ワーク」のキャリアの充実により自分らしい人生を

また、家族と過ごす時間や自分のライフワークを重視する働き方を望む人も多くなっています。「家族と過ごす時間を増やしたい」「仕事以外の趣味・ライフワークの時間を増やしたい」という人は、男女ともにどの年代も半数以上に上ります。大きな社会変化を経験し、自分の生活を見つめ直して、自分なりにワークライフバランスを大切にしつつ暮らしていきたいと思っている人も多いようです。

私たちは仕事を持ちながらも、家庭生活、地域社会とのかかわり、自分の趣味やライフワークなど、自分の生活の中での経験を積み重ね、ネットワークを広げることで「ライフキャリア」を充実させることができます。毎日の生活の中から自分のオリジナルの「ライフキャリア」を通じて新しい発想や意欲が高まれば、「ワークキャリア」の成長も期待できます。このように「ライフ」と「ワーク」の双方のキャリアを充実させながら自分らしく働き、成長を楽しむことがウェルビーイングな生き方につながります。

AIをナレッジパートナーとして、AIとコラボレーションをしながら働く未来がすぐそこまで近づいています。予想もしないような変化であっても、それを前向きに捉え、自分ができること、やりたいことを伸ばし、オリジナルのキャリアを磨き続けることが、これからの幸せな働き方のために大切なことだと思います。