「仕事も、子育ても、おいしさも、がまんせずに生きていくにはどうしたらよいでしょうか?」(ゲスト:藤井恵さん/料理研究家)

これまでになかった視点や気づきを学ぶ『ウェルビーイング100大学 公開インタビュー』。第17回のゲストは料理研究家の藤井恵さんです。『キユーピー3分クッキング』での長年の活躍はもちろん、雑誌などでも絶大な人気を誇る藤井さん。2人のお子さんを育てながら、家庭の中で繰り返し作られ、レシピとして信頼される味を生み出してきた原動力は何だったのでしょうか? 仕事と家庭のあいだで揺れた心情も朗らかに語る藤井さんの笑顔に、とても和やかなインタビューになりました。

聞き手/ウェルビーイング勉強家:酒井博基、ウェルビーイング100 byオレンジページ編集長:前田洋子
撮影/原 幹和
文/中川和子


たぶん私、子育ても仕事の運び方も器用ではない。実は不器用なんだな、と最近気づいたんです。

酒井:そもそも藤井さんが「料理研究家になろう」と決心されたのはいつ頃、どんなことがきっかけだったのですか?

藤井:料理研究家を初めからめざしていたわけではなく、テレビの中の料理とか、本に載っている料理を「食べてみたい!」という、そういう気持ちが子どもの頃からずっとあったんです。

酒井:では「作ってみたい」ではなく「食べてみたい」から始まったんですね。

藤井:はい! すごく食べたかったです(笑)。

酒井:「こういうものを食べたい」と言って、お母様に作ってもらったりしたんですか?

藤井:母はあまり料理が得意なほうではなく、一週間だいたい同じ献立を繰り返すんです。だからだいたい「煮る」料理を大量に作って、カレーだったら3〜4日、おでんだったら3〜4日以上続くし(笑)。

前田:調理は1回ですみますね(笑)。

藤井:だから、私からしたら夢のようなお料理たちがテレビや本にいっぱいあって、食べてみたいと思っても母も忙しかったので、そこまでは頼めなかったですね。

酒井:でも、忙しいといえば藤井さんもお忙しい中、仕事も子育てもするという暮らしをずっとされてきたと思うんですけれど。ご家族にもお料理を作って、お仕事でもお料理を作ってという生活の中で「お料理が面倒だな」と感じられたことはなかったんですか?

藤井:お料理に対する愛はずっとあったのですが「子育てをしながら仕事として作るお料理」というのは、同時進行のときはほんとうにつらかったです。つらいし「趣味を仕事にしてはいけない」という声をまわりの人から聞いて、「そうなのかな」と思ったり。好きなことというのはほんとうに自分がしたいときに、自由に楽しくやるほうがよかったのかなと思った時期はありました。ただ、料理番組のアシスタントをしていて、出産のために仕事を辞めて、子育てに専念した時期があったんです。けれども、やっぱりどうしても料理の仕事を続けたいという気持ちがふつふつと湧き上がってきて。「このまま二人の娘たちのお母さんだけで、私の人生、それで終わってしまうのかな」と。そのとき若かったので、余計にすごく焦っていたんです。22歳で結婚して25歳で出産したので、自由な時間があまり取れなかったし、それほど裕福ではなかったし。でも、そういう時間が取れなかったからこそ、いただいた仕事はものすごく一生懸命にしました。それこそもう、がむしゃらに! たぶん私、子育ても仕事の運び方も器用ではない。実は不器用なんだなということに最近気づいたんです。

前田:そうなんですか?

藤井:当時は必死すぎてよくわからなかったんです。でも、最近、落ち着いて考えてみると、若かりし頃、とにかく必死すぎて、もしかしたらいろいろなものを犠牲にしたかも、と。家族があっての私自身ですけれど、家族が応援してくれていたことに今さらながら気づいたり、ちょっとかわいそうだったなあと思ったり。

酒井:でも、小さい頃から憧れていたテレビの作り手側にまわるというのは、みんなができる経験でもなく、そこを一度経験されてその現場を離れたからこそ、仕事が好きという気持ちも持ちながら子育てもされて。

藤井:テレビのスタジオの中はキレイでも、家の中は嵐のようでした(笑)。外から見たら、うわべはキレイに見えるけど、中を開けたらグチャグチャみたいな。気持ちもワサワサしていたし。もう一回やり直せるのであれば、もう少し、家族、子どもたちとの時間をきちんと取りたいというのはあるかもしれないです。私、今思い起こすと、料理研究家になりたかったわけではなく、実は裏方が好きで。お料理の準備をして、先生が作ってくれたのを試食する(笑)、それが好きだったのです。

酒井:やっぱり「食べたい」(笑)。

藤井:そう、裏方がよくて、表に立つ、というのは小さい頃から苦手だったのに、いつの間にか表に立つようになってしまったので、若干とまどいが……。どこか、かみ合わない自分がいたりしました。でも、やりたい仕事ができるという感謝の気持ちとありがたさと、まわりの方たちに支えられて、たくさん教えていただいて今があると思っています。そのお世話になった方たち、ファンの方たち、私の料理を美味しいと思って、本を見て作ってくださる方たちのためにも、期待を裏切らないようにこれからも料理はずっと続けていくつもりです。子育ても終わりましたし、これからはきっと楽しく、余裕をもってできるんじゃないかな。

今なら「別にそこまでしなくてもいいじゃない」とか「ちょっと休もうよ」と思うけれど、当時はそういうことができなかったんです。

酒井:その頃と、今の心境はどこが一番違うんでしょうか?

藤井:心の余裕ができたのと、時間の余裕もできたことが大きいですね。というのは、子どもたちが学校を卒業して就職をして、そして結婚してと成長していく過程で、気持ち的にも「お母さんだから頑張らなくちゃ」「テレビに出ているからきちんとしなきゃ」といった「これはこうするべきである」という思いがなくなってきたんです。それまでは「○○であるべき」というがずっとあって。

酒井:「母とはこうあるべき」「料理研究家は冷凍食品なんか買わない」みたいな、そういう呪縛が?

藤井:そうなんです。自分で自分を苦しめてしまった。おかずも品数いっぱい並べなくてはいけないとか、ずいぶん前はほんとうにそう思っていました。

酒井:この「ウェルビーイング100」でも藤井さんが今おっしゃった「こうあるべき」という思い込みや呪縛はすごく大きなポイントだと考えています。たとえば「幸せとはこうあるべきだ」とかメディアが発信し続けると、それが新たな呪縛になる。でも、このインタビューでいろいろな方にお話を聴いていると、それぞれの視点や考え方があって、それに接することでそれぞれの思い込みや呪縛から解き放たれる人もいるんじゃないかなと考えています。藤井さんの場合、やはり、時間が解決してくれたんですか? 呪縛がありながらも、自分の中で変化が生まれるような出来事が少しずつあったとか?

藤井:それはまず、子どもを産んで育てて、お弁当のつらい時期(笑)、朝ごはん、晩ごはんも食べさせなければいけない状況を乗り越えてきたからでしょうね。独身時代はひとりで生活していたのが、結婚して家族がどんどん増えていって、家族や仕事に使う時間が多かったのだけれど、子育てを終えた今、自分自身に使える時間が長くなった、このことが私の中ではすごく大きいと思います。

前田:やっぱりお子さんが小さいときは時間がなかったでしょうね。

藤井:とにかく、自分の時間はないですね。

酒井:今、ほんとうに「時短、時短」といわれていて、家事時短の特集をされるメディアが多くて、それぐらいいろいろな方が抱えている問題なのかなと思うんですけれど。やっぱり自分の時間を持てない時というのは苦しい感じでしたか?

藤井:そうですね。抜け道というか、気を抜く場所がなかったというか。今なら「別にそこまでしなくてもいいじゃない」とか「ちょっと休もうよ」と思うけれど、当時はそういうことができなかったんです。

前田:「私は料理研究家で、いい妻で、いい母でなければならない」という。

藤井:それと、長年、レギュラーで出演していた料理番組を卒業したのは大きかったかもしれないです。楽しかったんですけれど、責任もあるお仕事ですし、常に時間に追われる、ケガはできない、病気もしてはいけない。それでいつもビクビクしていたんです。でも、そういうのもすべてなくなったので。あと、長野に家を持って月に数回、そこに行くのもいい息抜きになっています。それまで空を見上げるとか、小さい草花を見て「ああ、こんなところにこんなかわいい花が咲いていたんだ」とか、深呼吸するとか、そういうことをあまりしていなくて。それって、まだほんの数年前なんですけれど、その頃は気がつくと息を止めていることが多かったんです。息を止めてぐっ! とこらえてというか、集中して「この時間内にうまく昆布を巻く!」とか。

前田:わかりますけど、すごいですね。

藤井:不器用なんです。うまく気を抜けばいいものを、ずっと張りつめたような気持ちに自分で持っていっていた。これからはもっとゆるやかにいきたいですね(笑)。

普段の生活では作る人も食べる人も負担がないというのが一番だとお弁当で気づきました。

酒井:気持ちに余裕が出てきてからは、お料理との向き合い方も変わってきましたか?

藤井:ものすごくシンプルになりました。時間はいっぱいあるのに、”焼くだけ“とか、”炒めもせずにゆっくり煮るだけ“とか。味付けもシンプルに塩だったり、塩麹だったり。年齢的なこともあると思うんですけれど、だんだん味付けも調理法もシンプルになって、体に寄り添うというか、無理のないものに。だから、味の想像がつかないものは作っていないですね。シンプルでわかりやすい料理が作っていて安心できます。

前田:無茶苦茶いそがしかった時を経て、その今がある。藤井さんの仕事としてのお料理って、いつもご自身の人生とリンクしているイメージがありますよね。お弁当作りのときも。

藤井:お弁当作り、長女が3歳のときから始めたんですけれど、まあ、こんな小さいお弁当に30分も40分もかかっていて、何を入れたらいいのか、どうつめたらいいのかわからなかったんです。というのは、娘のことを考えるのではなく、「お弁当とはどうあるべきか」考えて(笑)、栄養バランスはどうなんだろう、どれくらいの量を食べさせなくてはいけないのかなあ、喜ばせるためにはキャラ弁がいいのかとか、すごく悩んでとにかく苦痛だったんです。お料理が好きだったはずなのに、お弁当のつめ方も作り方もどうやったらいいかわからない。そして、私はきっちり、教科書通りにやっているのに、娘は全然食べずに残してくる。それが二人目が生まれたら、時間の余裕もさらになくなってきたので、手を抜いて、どうしたら短い時間で効率良く普通のお弁当が作れるかを考えました。結論としては、家族のためのごはんはカッコつけない、いわゆる日本の家庭料理を作ろう! とあるときから決めて、それからお弁当もほんとうにワンパターン。お湯を沸かしてブロッコリーをゆでて、その次は卵を焼いて、その次はメインの肉か魚を焼くというのをパターン化したら、調理時間が短くなった。そうしたらほんとうに気持ちが楽になりました。

酒井:お子さんの反応はどうだったんですか?

藤井:「お友達のお弁当は冷凍食品も入っているけれど、最低5種類はおかずが入っている。うちは3つなのでもう少し増やしてほしいな」と言われたときに、「はい」と応えておいて、実行には移さなかったんです。「それは無理かな〜」と(笑)。

前田:でも、最初「お弁当はこうあるべきだ」と思って作っていらしたときは、お嬢さんは召し上がらなかったんでしょう?

藤井:食べる人の気持ちを考えていなかったですね。その人を見ればよかったのに。食べたこともないような、ものすごく凝ったのり弁とか、子どもが食べたこともないオリーブを目にして、その当時の人気キャラクターを作ったりとか。それはいけなかったですよね。幼稚園のお弁当はその子が嫌いとか、苦手なものを入れる必要はなくて、美味しくて好きなもの、いつも食べ慣れているものを入れればいいやと考えを変えていったら、きちんと食べるようになったんです。

酒井:それが藤井さんが行き着いた家庭料理ですか?

藤井:そうですね。手間をかけるところはかけていいと思うんですけれど、普段の生活では作る人も食べる人も負担がないというのが一番だとお弁当で気づきました。さらに言うと、母が高齢になってきたときに、作り置きを持って行ったりしていたんですけれど、それも押しつけだったのかな、と今では思っています。作るこちらも「作らなくちゃいけない!」という気分で作るし、母は母で「また来ちゃった」って。それって、どちらも負担ですよね。だから、作る人も食べる人も重荷になっちゃいけないというのは、子どもの場合も、高齢の親もそうなんじゃないかなあと思っています。やっぱり一番いいのは子どもが苦手なものだったら一緒に食べる。親だったら、持って行って「はい、じゃあね」と置いて帰らないで、「一緒に食べようよ」って、その場で食べきりでもいいんじゃないかなという考えになりました。

前田:お互いの気持ちを大切にする。作る人も食べる人も負担にならなくて、笑顔になれる。

酒井:それが家庭料理ですごく大事なところで。

藤井:「ああ忙しい。あれもこれもやらなくちゃ!」と思ってイヤイヤ作った料理って、誰もあんまり美味しそうに食べてないですよね。

前田:でも料理する人であれば、ちょっと陥りがちな穴ですよね。自分が満足するというか「作ってあげてるんだよ」みたいな感じになって。

藤井:それは思ってはいけないかな~。私、晩ごはんもですけれど、子どもが小学生から中学、高校ぐらいまでは、ほとんど鍋とつまみで育てたんです。

一同:

藤井:ベースになる汁があって、そこに残った材料をざくざくと刻んで入れて、テーブルにコンロを出して、煮ながら食べる(笑)。残っているものを全部入れたりするんだけど、みんなでワイワイしながら食べるという、その方式に替えたら、晩ごはんを作るのが楽になったし。子どもたちは「今日も鍋?」と言わなかったんです。夫もなんですけど。今でも「何が食べたい?」って聞くと、夫は「鍋がいい」って。娘たちもずっと鍋ばかり食べさせていたので「鍋、いやじゃなかった?」と聞いたら「え、美味しいから全然」って。「え、そうだったんだ」と(笑)。

前田:出す方としては少し引け目がありましたか?

藤井:そうですね。今日も鍋。味付けは塩、醤油、味噌でずっとローテーション。

前田:でも、藤井さんのその鍋、美味しいですよね。

酒井:たくさんの引き出しを持っていて、お料理を作れる藤井さんでもそういう悩みがあったとは。今日はお料理できる方も、あまり得意じゃない方も聴いていて救われます。

藤井:私、仕事で「このテーマでお願いします」と言われたら、たくさんアイデアが出てくるんです。「こうやってああしてアレンジしてこうしよう」というのは、頭の中にぱ~っと出てくるんです。ところがいざ、自分の家の晩ごはんになると、アシスタントさんに「昨日の晩ごはん、何食べた?」と聞いたり(笑)。

誰かが「自分のために作ってくれた」ということは大切なんだなと思いました。

藤井:料理研究家としては、いろいろアレンジすると楽しいんですけどね。一度夫に言われたことがあって。試作のときはいろいろなアレンジをして、みんなで一緒に食べるんですけれど、「こんなにいっぱいバリエーションって必要なの?」と言われて「まあ、そうだよねえ」と。夫は義理の母が作る豚汁が大好きで、鍋以外だったら豚汁が食べたい、同じ料理を繰り返し食べたいって言うんです。人それぞれ安心できる家庭料理というのはきっとあるんだと思いますね。

酒井:ご主人は料理研究家の藤井恵の料理が食べたいというより、鍋とか豚汁に安心とか安らぎみたいなのを感じて、よそいきではなく、家族のために作ったお料理を食べたかったんでしょうね。

藤井:そうなんです。たとえば撮影の後に試食で少しいただいたものを、子どもが小さいときに出したら食べなかったんです。自分のために作ったものじゃないから。

前田:ああ、そうか!

藤井:それが彼女の、唯一の言葉にしない抵抗だったんですよね。

前田:「お母さん、これ仕事で作ったんでしょ」っていうのがあったのかもしれないですね。

藤井:お母さんや、誰か大切な人が「自分のために作ってくれた」、ということは大切なんだなと思いました。それから、何でもいいから簡単な鍋を作って(笑)。

酒井:今日、家庭料理というものがすごく理解できたと言いますか、家庭料理の本質のようなものがよくわかりました。そんなに手のこんだものでなくても、やっぱり「私のために作ってくれた料理」というのは何ものにも代えがたいんですね。

前田:その人を思い浮かべながら作ると全然違いますものね、きっと。ましてや料理の専門家が作るんだから、それはもちろん美味しいですよね。

藤井:穏やかな気持ちで作るのがいちばん美味しいです。

作りやすくて再現性が高くて、しかもシンプルで美味しい、そういうレシピを心がけています。

前田:誰かのために作ると何が違うんでしょうね。その人の好きなもので喜んでもらおうと思うからなんでしょうか?

藤井:まず、余裕がないとそう思えないでしょうね。心にも余裕があって、その人のために、何が喜ばれるだろうか、食べたいものは何だろう、体が必要としてるものは何だろうとか。

前田:確かに忙しいと、喜ばそうというより「作ればいいんでしょ!」となりますね(笑)。

酒井:家庭料理の話もあったんですけれど、やっぱり藤井さんのレシピの再現性の高さ。そのために大さじ1杯とか、小さじ2分の1とか、計りやすいように工夫されているとか。

藤井:レシピを見て、美味しそうだなと思って作ってくださるのであれば、それはなるべく私が作ったお料理と同じように仕上がってもらえたらいいなと思っているんです。ほんとうは小さじ4分の1でもいいけれども、材料をちょっと増やして小さじ2分の1にできるようにするとか。そういう工夫はあるかもしれません。なるべく作りやすい、計り間違いのない分量というのはあるし、美味しいと思えるバランス、美味しいと思える塩分パーセントとか。そういうことを考えながらレシピを作ります。レシピを書いているときに味の想像ができて「このぐらいだったらどうかな」というので作ってみて、実際はどうなのか。表記の分量とはちょっと誤差があっても、なるべく美味しく作れるようにしたい。せっかく作っても「あれ?」と思ってしまうと、残念で次は作りたくなくなっちゃう。なので、作りやすくて再現性が高くて、しかもシンプルで美味しい、そういうレシピを心がけています。

酒井:それで美味しく仕上がったら、それがポジティブな経験になりますよね。

藤井:そうなんです。作って楽しむとか、食べて美味しいとか。私は今、ほんとうに料理が大好きで、とにかく楽しい遊びになっています。それが家でできるというのが嬉しい。

前田:そう考えたらなんて楽しいんでしょうね、料理って(笑)。

藤井:みんなで「美味しい」って、それだけで嬉しくなります。

酒井:「時間がなくて……」とか「ちょっと料理が得意じゃなくて」という方に藤井さんが声をかけてあげるとしたら?

藤井:私が経験してきた中で言えるのは頑張りすぎないこと。頑張りすぎずに「今日は肉に調味料をもみこんで、もやしの上にのっけてレンジ加熱して食べよう」と。それでもいいレシピだとほんとうに美味しいんです。美味しくなるように工夫をしたレシピというのは美味しくできる。コツもきちんと「こうすると失敗につながりやすい。こうすることで美味しくなるよ」と伝えると、とても美味しくできますよ。

以下、藤井さんがみなさんのご質問にお答えします。

Q:日本酒がお好きとのこと。私も好きなので嬉しいです。先生が呑みながら作るお気に入りのシンプルおつまみって何ですか?

藤井:自分自身に作るんだったら、冷や奴、湯豆腐、厚揚げを焼いたもの(笑)。ゆでた豆とか。以前、ひたし豆をだしで作ってたんですけれど、最近、水と塩だけになりました。豆の美味しさが引き立ちますね。豆のうまみだけで十分で、ちょっと塩を入れるだけでぐっとうまみと甘みが引き立ちます。

前田:豆、美味しいですよね。

藤井:そうなんです。大豆の良さを改めて感じますね。

Q:藤井さんといえば、美味しさとともにオシャレさやセンスも抜群だと思います。センスはどのように磨けばよいでしょうか? また、お料理の盛り付けをセンス良く見せるコツがあれば、教えていただけると嬉しいです。

藤井:センス、お恥ずかしいですけれども、私は本を見ます。インテリアの本、あとはお洋服の本とか、そういうのを見るのが大好きで、それの真似。とにかく真似をしていることが多かったと思います。盛り付けにしても、洋書のお料理の本が大好きで、「わあ、ステキだなあ」と。たぶん、それを見て憶えているんでしょうね。それを真似してみたりとか。そうすると、ちょっとこんもりと盛ると美味しそうだなとか、お浸しは、箸で一口分ずつ盛ると空間ができて、よりふっくらと美味しそうに見えるとか、仕上げに汁をちゃんとかけるとか。そういうところですかね。とにかく真似から入ってるんです。

前田:でもその前に、好きだと思うことが重要ですね。この盛り付けが好きとか。

藤井:そうですね。ステキだなって。

前田:思うのが重要ですよね。で、それがステキなのはなぜかと考えることがその次の段階で、それを実践することが重要ですよね。だって「ああ、ステキだな」って思うだけの人はけっこういると思う(笑)。

酒井:洋書をご覧になるっておっしゃいましたけど、Instagramとかでもたくさんの画像があるはずなのに何か違いますかね?

藤井:やっぱり本、紙のものが好きですね。

酒井:繰り返し繰り返し見たり、年を重ねたときにまた読み返すと、見ているポイントがちょっと違ったりとか。やっぱりオンライン上の情報ってどんどん流れていくので、本を何度も手に取って見ることは大切なのかもしれませんね。
今日は「食とウェルビーイング」ということでインタビューさせていただきましたが、いかがでしたか?

藤井:料理の仕事をしていてよかったということと、あとはいろいろな方たちに支えられて今の仕事があるんだなと改めて感じました。

酒井:「誰かのために」というのが藤井さんの中にある。支えられている、とお感じになるのは、藤井さんが誰かを支えているからこそ、と感じました。

前田:家族だけじゃなくて、藤井さんのレシピで作るファンも、それを作ったら、今までほめられもしなかったのに「今日のこれ、うまいね」と言われたとか、きっといっぱいあると思いますよ、成功体験が。藤井さんの思いがきっと、その人たちに届いているんでしょうね。

酒井:本日はありがとうございました。

藤井:ありがとうございました。


藤井恵(ふじい・めぐみ)さん
料理研究家、管理栄養士。女子栄養大学在学中から料理番組のアシスタントを務める。出産を機にいったん仕事から離れるが、フードコーディネーターとして復帰し、料理研究家の道へ。家庭料理を中心に、センス良く再現性の高いレシピを紹介し、メディアで活躍。日本テレビ系の『キューピー3分クッキング』は2003〜2021年まで18年間にわたってレギュラー出演した。著書に『料理研究家・藤井 恵 おいしくてからだが整う、傑作レシピ選』(オレンジページブックス)など多数。