「ひとりでいることをどのように愉しめばいいですか?」(ゲスト:久住昌之さん/マンガ家、ミュージシャン)

これまでになかった視点や気づきを学ぶ『ウェルビーイング100大学 公開インタビュー』。第15回のゲストは久住昌之さんです。マンガ家、原作者、ミュージシャン、エッセイストなどさまざまな顔を持つ久住さん。『孤独のグルメ』の原作者としてあまりにも有名で、松重豊さん主演のドラマはseason10に突入しています。ひとりメシブームを作ったともいわれる『孤独のグルメ』の原作者として、久住さんは「ひとり」をどう愉しんでいるのでしょうか? 久住さんからは意外な答えが返ってきました。

聞き手/ウェルビーイング勉強家:酒井博基、ウェルビーイング100 byオレンジページ編集長:前田洋子
撮影/原 幹和 JOHN LEE(本)
文/中川和子


ひとりが好きかどうかは人それぞれ

酒井:まずは久住さん原作のドラマ『孤独のグルメ』についておたずねしてよろしいでしょうか。現在season10が放送中です。これだけ長寿番組になった理由はたくさんあると思うのですが、久住さんはどこにいちばん時間をかけ、どのようなことを大切にしていらっしゃいますか?

久住:ああいうどうでもいいような、おじさんが食べるだけの話が、あれだけ丁寧に描かれたマンガはそれまでなかったと思うんです。作画の谷口ジロー*さんが一コマに丸一日かけたように、ドラマも丁寧に撮ろうというのは、最初から話していました。店を選ぶのにも時間をかけるし、ロケハンにも、脚本にも、撮影にも時間をかける。音楽も毎シーズン、内容に合わせ新しく作る。もう400曲ぐらいは作っているんじゃないですかね。

*谷口ジロー……漫画家。1947~2017年。代表作に『孤独のグルメ』(原作:久住昌之)、『「坊ちゃん」の時代』(原作:関川夏央)など。

酒井:全部の曲を、久住さんが?

久住:いえ、僕のバンドのスクリーントーンズ、5人で作っています。とにかく、ドラマは時間をかけて作っていることが、長く続いている理由ではないかと思います。あとはなんといっても井之頭五郎役の松重豊さんの演技が素晴らしいということですね。

前田:松重さん、撮影前日は食事を抜いていらっしゃるとか。ほんとうに素晴らしいですよね。

酒井:撮影をされた後に、またセリフ録りをされているそうですね。

久住:そうです。五郎さんの頭の中の言葉ですからね。最初に店をしっかり取材をした後に、脚本家がシナリオを書きます。そのあと、五郎の頭の中のセリフだけ、僕が直しています。だから一話作るのにすごく時間がかかります。まるで昔のテレビドラマの作り方みたいですね。

酒井:あの世界観が大好きです。コロナ禍以降、メディアでもひとりでいることがポジティブに捉えられるようになったと思うのですが、「ひとりで過ごす時間もこんなに豊かなんだな」とみんなが認めるようになったのも『孤独のグルメ』があったからこそだと思うんです。ただ、ひとりでいることが得意な人とそうでない人もいると思うのですが。

久住:それはそうでしょうね。さみしがりもいればそうでない人もいる。3、4歳の子どもを見ていても、ひとりで黙々と遊んでいる子もいれば、みんなでワイワイやる子もいる。それは生まれつきなのじゃないですか。大人になると理性があるから、本来一人が得意じゃない人も、どういうふうに孤独とかさびしさとつき合うかとか考えたり、悩んだりすると思うけど。とにかく、それは小さい頃からあることで、そんなに難しく考えることじゃない。「一人で食べるのを楽しまなきゃ!」なんてがんばらなくていい(笑)。

前田:そうですね。

久住:個性を尊重すべきと言う一方で、自分だけみんなと違うんじゃないかと悩む。どうして逆のことを言うんだろうねえ。それぞれでしょ、それは。だから女の人でラーメン屋にひとりで入りにくい人もいれば、大丈夫だという人もいるし、当たり前ですよね。そこをおしなべてまとめようとすることはないんじゃないですか。井之頭五郎はひとりで食事をしているけど、別に愉しいとか言ってないですからね。おなかがすいて食べているだけですから。その時間を愉しんでるとか愉しんでないとか、そういうことを僕はいっさい書いてないです。「焼き肉が美味しそうに焼けてきて嬉しいぞ」とか、そういうのはあるけど、ひとりで食べている時間を愉しんでるということをテーマにしたこともなければ、言ったこともない。あれはただ、仕事で街を歩いていて、知らない土地でおなかがへってどうしよう、という人の話。言ってみれば知らない街でトイレに行きたくなって、トイレを探しているっていうのと同じような話です。「五郎は孤独を愉しんでる」なんて、気持ち悪いよ。

前田:五郎さんを下戸にしたのがスゴイと思うんです。

久住:それは、漫画の主人公には弱点があった方が面白いからです。何でもいっぱい食べられて好き嫌いがない、だけど酒が飲めない。ちょっと残念じゃないですか。そこで食べる話に面白みが出る。

前田:あ~、そうなんですか! これで五郎さんが酒飲みだったらまた違う話になりますものね。

久住:そうですね。8ページのマンガだったんですけど、8ページじゃ終わらないですね。

前田:ああ、それは終わらないですね(笑)。

「うまくなくても、おもしろくすればみんなを愉しませることができる」と気づいた

酒井:久住さんはおひとりになることは?

久住:取材旅行は基本的にひとりがいいんですよ。編集者とかカメラマンが一緒にいると気を遣っちゃうから。僕は平気で何時間でも歩いたりするんで、一緒にいる人たちが疲れていないかとか、おなかがすいていないかとか気になる。そうすると気疲れして集中できない。それに、ひとりで探したほうがおもしろいものが出来るんじゃないかと思うんですよ。こっちの方にもっと進むべきか、ここらあたりを回るべきか、この店に入るべきか、あっちの店にするか。考えこんだり、迷ったり、困ったりした上で、発見したり失敗したマンガや文章のほうが、読者は読んでておもしろいんです。それこそが僕だけの体験で、誰かの話をなぞってないオリジナルです。読者は僕が行かなければ見られなかったものが見られるし、逆に僕の目に入らなかったことは見なくていい。例えば九州の佐賀まで行って、なんか佐賀らしい美味しいもの食べられるところを探し回って「ない」「ない」って、散々歩いて、やっと「お、ここは!」というお店を見つけて入ったら「マズかった」っていうのはみんな笑うんですよ。

前田:確かに。

久住:僕に求められているのは、おもしろいことを書く、おもしろいマンガを創ることなんで。自分が困ったり悩んだりしないと、おもしろいことは書けないです。

酒井:久住さんご自身はいろいろなことをされていますね。マンガ家、マンガ原作者、ミュージシャン、切り絵作家とか、すべてがプロで。そこに共通してベースにあるのが「おもしろい」というキーワードじゃないかと思うのですが。

久住:ほんとにそうですね。「おもしろい」というのは何もお笑いってことじゃないからね。このあいだね、八王子の繁華街から離れた住宅地にある知らない焼き鳥屋に入ったんですよ。そしたら僕の後に、小学生が2人、入ってきた。ちょっとびっくりするじゃないですか(笑)二人は僕の後ろを通って、座敷に上がって、お店の人に「いらっしゃいませ」とか言われてるのね。ええ? 何だろうと思っていたら、お母さんらしき人が入って来た。3人は座敷で焼き鳥とかジュースとか頼んで「今日学校で〜」とか話してるんですよ。面白いじゃないですか(笑)当たり前の顔して、小学生二人が焼き鳥屋に入って来るって、おかしいじゃないですか。そこに出くわして驚いてる自分が面白い。

前田:お店の人が「いらっしゃいませ」って言っているということは、よく来てるってことですよね。

久住:そう。そこは小さい焼き鳥屋さんなんですよ。メニューを見たら、いちばん最後に“エビピラフ”って書いてある。焼き鳥屋さんですよ! それが450円。安い。それをメニューの中から自分で発見したから面白いんです。この話を僕が人から聞いて「それ、おもしろいじゃない」ってその店へ行って、小学生2人を見ても、あ、ほんとだ、で終わり。人におもしろくは話せないと思うんですよ。自分が行って見つけて「え?」「なんで?」ってなったから、面白く描ける。

酒井:でも、その光景が目に浮かびますね。なんか、愉しいです。

久住:いや、愉しく話したから愉しいんで。僕はびっくりしたけど、そこにいたほかの客はビックリしていなかった(笑)この店ではよくある光景なんでしょう。それもあとで思い出したら、なんだか笑っちゃう。

酒井:その「おもしろい」という感覚はいつ頃から?

久住:僕は子どもの頃から絵を描くのが大好きだったんだけど、小学校でクラス替えをしたときに、隣に来た子がものすごく絵が上手だったんですよ。“足が速い”みたいに、生まれつきこの人は“絵がうまい”んだろうなと。そこに置いてあるものを見ながら、すぐにスラスラ紙に描けるんですよ。僕はそんな風に描けない。消しゴムいっぱい使う。その子は直すことなくスラスラ描く。日本地図だって、目で見ながらスルスルと同じ形に描く。それを見たときに、自分は絵を描くのが好きだけど、彼のようにうまいわけじゃない、とはっきり自覚した。中学生になると、石膏デッサンとかやるじゃないですか。抜群にうまい人っているんだよね。自分はそっちじゃないと。じゃあ自分はどうすればいいかと考えて、そういう、“うまい絵じゃなくてく、おもしろい絵を描こう”と思ったんです。子供の頃から、面白いものは好きだったけど、絵に関して思ったのは、中学生の時ですね。

酒井:「上手い」から「おもしろい」へ。

久住:おもしろい絵のほうがウケるんです。うまい絵というのは、みんなに「うまいね」って言われるけど、そこで終わっちゃう。そういうことに気づいたんです。音楽のほうも、聴くのは好きだったけど、初めて自分で音楽をやるようになったのは中学1年生で、ギターを持ったときなんです。今みたいにYouTubeとかないから、ギターの教則本を楽器屋さんで買って。最初はドレミファソラシドの音階や、童謡から練習するんで、全然おもしろくない。テレビで見ている、70年代当時のフォーク歌手みたいに弾きたいのに、教則本の真ん中ぐらいまで見ても、そんなこと全然出てこない。そのとき、友だちのお兄さんがギターをやっていて、その人は音符とか読めないのに、普通にジャンジャカギターを弾いてて「え、何それ?」って言ったら「こういうふうにやるんだよ」ってコードを教えてくれた。なーんだ!ドレミとか知らなくても、テレビと同じ歌の伴奏ができるんじゃん!って。なんか大人に騙されたような気分でしたね。で、簡単に抑えられるコードを3つ覚えて、その日のうちに曲を作りました。

前田:すごい!

久住:それも、自分はものすごくギターがうまくもないし、歌がうまいわけでもないけれど、おかしな歌ができるんですよね。2つ3つのコードがあれば。

前田:所ジョージさんみたいな。

久住:ハハハ、まだ所さんは現れてなかったけど、そんなもんかもしれない。そういうことで「なんだ、今までイヤだった音楽の授業って何だったんだろう?」ってひっくり返った感じでしたね。

前田:最初につまづいちゃうんですよね。先に音符を読むとか楽器のメソッドとか言われると。

久住:音楽も絵も同じなんです。うまくなくてもおもしろいものを作ればみんなを愉しませることができるっていうことに、気づいたというか、自分はそっちのチームだなって(笑)

美味しい店がわかるんじゃなくて、自分がどういう店が好きかということ

酒井:久住さんの「おもしろがる才能」がずば抜けていると思います。

前田:「おもしろいでやって行こう」って、気づいたのが早いですね。

久住:いや、「やっていこう」なんて1ミリも考えていなかったですよ。自分がマンガ家になれるとも思っていなかったし「おもしろいでやっていこう」なんて芸人みたいな考えは今でもないです。ただ、自分が何かを創ったり、何かする基準は「おもしろい」なんだなとは思ってます。

酒井:絵を描くことにしろ、ミュージシャンとか、すべてクリエイティブなことって、習得するまでに時間がかかりますよね。

久住:そうです。

酒井:なぜそれがいくつもできるのでしょうか?

久住:習得できてるのかどうなのかわかりません。続けていたら、だんだん自分のスタイルになっただけで。そこは時間のかかることです。「そういうおもしろいお店に当たるコツはなんですか?」とかよく聞かれるけど、ほんとにそれは経験しかないですよね。一生懸命いいお店を探して、「ここはいいんじゃないか」「ここならマンガで描けるんじゃないか」とか思って入って、美味しいときもあればまずいときもある。そういう成功と失敗をずっと続けてきてわかることは、「美味しい店がわかる」のではなく、「自分がどういう店が好きか」ということなんです。自分はどういうものが好きで、どういうことをおもしろがるのか、ということはだんだんわかってくる。そうなるには時間がかかるし、「おもしろい」でやっていこうと思ったことがないというのはそういうことで、未だに迷うし、怖いし(笑)。「そこの店に入るのはちょっと怖いなあ」っていうことはあるし。でも、締切があるからね(笑)。

前田:どうにかしゃなくちゃいけない。

久住:そうそう、火事場の馬鹿力じゃないけど「どうにかしなくちゃ」がないと、おもしろいことはできないですよ。だから、どうしてもお店が見つからないからってネットとか見て探すとだめですね。ネットで見つけた店に行くと、ネットに写真が出ていて美味しいって書いてある料理しか頼まない。だけど情報なしで行けば、何を頼んでいいかわからないじゃないですか。そうしたら初めて考えるじゃないですか。自分で考えて、迷って、選んで食べることが、自分だけの経験になるのです。

前田:よく五郎さんもそうやって考えてますよね。

久住:「ワンタン麵が名物って書いてあるのに、ワンタン麵がメニューの6番目ぐらいに書いてあるのはどうしてだろう?」とか考えるわけですよ。おなかはすいてるし、この歳になると一食の失敗は大きいからねえ。締切前に一軒失敗したら、もう一軒、食べられないですからね。翌日、また出かけるしかない。

久住昌之『勝負の店』(光文社)

『孤独なグルメ』はさびしいけど、『孤独のグルメ』はさびしいことじゃない

久住:子どもの頃は勉強嫌いでも、大人になると、勉強しなければいけないことが出てくるじゃないですか。先生に教わったり、人と話しながら覚えることもあるけど、基本的に勉強って、ひとりで、自分の頭で考えないと身につかないこと。だから、勉強するのは孤独な作業だと思いますね。でも何かに熱中してそれがものすごく面白くなってきたら、ひとりで愉しいんだと思う。スポーツとは違うかもしれないけど、スポーツも上達したいと思えば、孤独な練習に耐えられないと上達はしない。だから、何か身につけようとしたときは、やっぱりある時期はひとりでやらなきゃならない。そして、それをおもしろがらないと続かない。

酒井:われわれは「ウェルビーイング」というテーマを追いかけているので「孤独」と「孤立」についてうかがってみたいと思って。

久住:孤独と孤立って言うとめんどくさいんだけど、マンガのタイトルで言うと『孤独なグルメ』はさびしいけど、『孤独のグルメ』はさびしくない。

一同:ああ。

久住:このあいだアメリカ人が、このタイトルにすごく感動してくれて。『孤独なグルメ』って言うとロンリーだけど、『孤独のグルメ』になると、ロンリーとは違ってくるって。ソリティアってトランプのひとり遊びのゲームに近いと。ひとりで愉しいのだから『孤独のグルメ』というタイトルは素晴らしいと、膝を打って言ってくれました。実は対談したロバート・キャンベルさんですが(笑)

前田:『孤独な』と『孤独の』では全く違いますね。

久住:僕は『孤独のグルメ』にしたから、さびしいとかそういうことじゃなくて、ひとりで愉しいっていうか、愉しいとまでは言っていないけど、さびしいのとは全然違う。

前田:それこそ何かを習得しようと思ったときに、ひとりでどんどん掘っていくみたいなおもしろさがあるのでしょうか。

久住:そこまで言わなくても、トランプのひとり遊びで、それをやっているときにはその時間が愉しい。勝ち負けではなくて。それが近いんじゃないですかね。タイトル的、イメージ的に。『孤独な愉しみ』っていうとなんだかさみしい。でも『孤独の愉しみ』っていうと、別に孤独がイヤなわけでもなんでもないという意味合いになってくる。

酒井:「おもしろくない」と言われそうですが、あえて久住さんにうかがいます。「ウェルビーイング」にどういう印象をお持ちですか?

久住:いや、わからないですね(笑)。

前田:なぜ「幸せ」や「充足感」が研究対象になったかと言うと、80年代にコンピューターが格段に進化して、大量のデータを集めたり計算することが可能になったことで、それまで宗教や哲学の分野だった「幸せとは、満足とは」をデータ分析して、研究ができるようになったらしいんですね。世界中で様々な人々に「あなたは幸せですか?」という質問を何十年も続けて。日本では日本的ウェルビーイングの研究も進んでいるようです。

久住:ご苦労なこったねえ。

一同:

久住:データを見過ぎると人を見ないでしょ? 例えば最初に話したように、子どもだって一人一人性格が違うわけじゃないですか。だけどデータになると3歳児はこういうふうにさせたらいいとか、一般化した何かを言う。その子、人間を見てないじゃないですか。それはどうだろうと思います。

前田:たしかにそこは研究の大切なポイントだと思います。

久住:自分なんていうものは数値化できるものじゃないと思うんですよ。数値化できるかもしれないよ、たとえば身長が何センチとか。だけど、心なんて数値化できないでしょ。ましてやおもしろさを数値化することなんてできない。お笑いだったら、今、この人が人気とか、そういうことはできるかもしれないけど、僕がおもしろいと思うことなんていちばん数値化できないと思いますね。焼き鳥屋に小学生が二人で入って来た、なんてのは、焼き鳥屋の客のデータに出てこないでしょう。「その他」っていうところに入ると思う。でもそれはデータ的に「おもしろい」とは出てこない。

酒井:みんながイメージするところとちょっとズレている、ちょっと違うところや、ちょっとした違和感におもしろさみたいなものがあるのかもしれませんね。

久住:おもしろさだけじゃなく「美しさ」とかもそう。僕は美大で講師をしたことがあって、学生にいろいろな課題を与えるんだけど、ある有名な女優さんの顔写真をコピーして、口とか目とかパーツに分けて、福笑いみたいにするんですよ。そのパーツの大きさを変えて、3つずつぐらい作るんです。それを学生に渡して、顔を作って誰だか当ててみてくださいとやると、みんな整った顔をつくるんですよ。ところが、正解の顔を見せると、全然、整ってない。鼻が普通考えるより大きかったり、目の大きさが左右違ったりとか。でも、圧倒的にその女優さんのほうが美人と感じるんですよ。みんなが作ったのは整った顔なんだよね。だけど、美人女優は整ってなかった。そこが、いわゆる「うまい絵」と同じで、デッサンがすごくよくできたからみんながいいな、という絵ができるもんじゃない。やっぱり美しいから完璧なバランスなのかと言うと、違う。少しずつ何か違っていて、だからこそみんながたまらなく惹かれるんだよね。だから数値化した美人は平均的で魅力がないんだよね。そしておもしろいのは、たくさんの女の人の顔を融合させていくと、どんどん整った顔になる。でもそれはなぜか美人とはあまり感じられない。どちらかというとちょっとコワイ。みんなが魅力的だと思う顔と、整った顔はちょっと違う。面白いよね。

前田:そういう授業をされてたんですね。

久住:おもしろいじゃないですか。「あれれ、なんか違うなぁ?」ってみんなで笑いながらやるんだから。

前田:「美しい」ということは何なのかということですよね。

酒井:今のお話、AIに美が創れるかということに対して「否」という……。

久住:「AIに美人は創れるか」というのは、果てしなく方法はあると思うよ。だけど、生身の女性として現れた時に、その人を好きになるかどうかはまた別の話。写真とか立体を見て「あ、美人」ってあるかもしれないけど、生きている人間としてはどうなんだろう。話がそれちゃったけど。

おもしろがるにはリラックスして肩の力を抜く

酒井:久住さんのお話、「おもしろい」の考え方、すごく興味深いです。

久住:おもしろがるってことで、取材とか文章を書くときに気をつけていることはリラックスすること。肩の力を抜くってことですね。「何かやってやろう」なんて肩に力が入っていると、振り遅れる感じ。やっぱり、野球なら素直にバットが出る、サッカーなら「足が反応した」っていうゴールみたいに自然にそうならなければ、おもしろくない。リラックスすることがいちばん大事で。だから「ウェルビーイング」とかなじみのない言葉を言われると警戒しますね。

一同:

久住:「ウェルビーイングしなきゃいけない」ってなっちゃったら、リラックスできない。何も考えないで、どこから何が飛んでくるかわからない状態でリラックスして歩きたいし、お店にも入りたいし。そうするとおもしろいものが来るんだよね。

酒井:肩に力が入っているというのは「やってやろう」「人に勝ってやろう」みたいな。

久住:そうですね。「みんながおもしろいものを見つけよう」なんてキョロキョロしていると、足下にあるおもしろいものを見逃すね。だから「いい店に入るポイントは何ですか?」とかよく聞かれるけど、ポイントなんてことを考えると、おもしろいものを見逃すんですよ。

酒井:ほんとに肩の力を抜かないといけませんね。今日はお忙しいところありがとうございました。


久住昌之(くすみ まさゆき)さん
1958年、東京都三鷹市生まれ。法政大学社会学部卒。美学校・絵文字工房で、赤瀬川原平に師事。1981年、泉春紀と「泉昌之」名でマンガ家デビュー。谷口ジローが作画を担当した『孤独のグルメ』は2012年にテレビドラマ化され、2022年10月からはseason10が放送されている。劇中のすべての音楽の制作・演奏、脚本監修、最後にレポーターとしても出演。マンガ『孤独のグルメ』はイタリア、フランス、スペイン、ブラジルなど世界各国で翻訳出版され人気を博す。エッセイストとしては『東京都三多摩原人(朝日新聞出版)』『勝負の店(光文社)』など著書多数。またミュージシャンとしても年間60以上のステージに立つ。

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