バーチャルオフィスが創り出す新たなコミュニケーション

文/柏村祐(かしわむらたすく)
第一生命経済研究所 主席研究員
九州大学グローバルイノベーションセンター客員教授
専門分野はテクノロジー、DX、イノベーション
イラスト/ながおひろすけ


バーチャルオフィスの登場

新型コロナウイルス感染症の感染拡大をきっかけに、新しい働き方としてテレワークが拡がっています。テレワークではオフィスに出勤する必要がないため、通勤時間を家事や育児などにあてることができ、ワークライフバランスの充実につながります。また、一人で仕事に集中できる環境を作りやすいというメリットもあります。

一方で、デメリットも指摘されています。内閣府が令和4年7月22日に実施した「第5回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によると、テレワークで不便な点として「社内での気軽な相談・報告が困難」、「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」、「取引先等とのやりとりが困難」などが挙げられています(図1)。

顕在化したこれらテレワークの課題を解消する対策の1つとして、いま「バーチャルオフィス」が注目されています。バーチャルオフィスとは、インターネット上に再現された仮想のオフィスのことで、従業員は「アバター」で出勤します。アバターとは、ネットの中で登場する自分自身の分身となるキャラクターのことで、物理的に離れていても、アバターを使うことによって仮想オフィスで皆と一緒に働いているという感覚を持つことができます。

バーチャルオフィスは、2次元タイプと3次元タイプのものに大別されます。2次元タイプのバーチャルオフィスでは、「ビジュアルマップ」といわれる職場の地図がパソコン画面上に表示され、その中で同僚や上司のアバターの動きを確認したり、打ち合わせしたりするなどのコミュニケーションをとることができます。
3次元タイプのバーチャルオフィスでは、Mixed Reality(目の前に見える世界にデジタルの情報を重ね合わせて表示する、複合現実と呼ばれるテクノロジー)によって、オフィスや従業員のアバターが専用の眼鏡型機器、または普段使っているスマートフォン、タブレット、パソコン上に表示されます。現実のオフィスに勤務する従業員と、遠隔から立体映像で参加する従業員が3D空間を共有し、まるで同じ空間にいるかのような感覚で会話をしたり、資料や製品を共有したりすることができるのです。

オフィス勤務とテレワークをつなぐバーチャルオフィス

筆者は、実際にスタートアップ企業が提供している2次元タイプのバーチャルオフィスを体験してみました。ログインすると自分のアバターがビジュアルマップ上に出現します。自分のアバターの状況は「応対可能」、「離席中」、「取り込み中」、「話し中」などに任意で変更できるため、アバターオフィスに出社した社員の状況は一目でわかります。
筆者が体験したアバターオフィスでは、ビジュアルマップに表示された会議室で5人の従業員アバターが打ち合わせをしていました。休憩室ではドアを閉めて2人が休憩中、執務室では3人が仕事をしていました。もし会議に急遽参加してほしいメンバーがいた場合、招待リンクを送付すれば、途中から参加してもらうことができます。また、ドアが閉まっている休憩室のメンバーに急用があった場合、現実のオフィスでの行動と同じようにドアをノックし、中にいるメンバーが入室を許可すると入ることができるようになっています。

このように、2次元タイプのバーチャルオフィスでは、実際にオフィスにいる人もテレワークしている人も、同じオフィスで仕事をしているような状況をインターネット上に作り出し、皆が現実のオフィスにいるかのような感覚で会議や資料のやり取りを行うことができます。

3次元タイプのバーチャルオフィスの開発も進んでいます。3次元タイプの特徴は、「どこからでも接続」でき、「お互いの存在」を感じながら、「一緒に体験を共有」できる3点に集約されます。インターネット環境があれば「どこからでも接続」することができ、専用の眼鏡型機器、または普段使っているスマートフォン、タブレット、パソコンを通じて体験できます。

専用の眼鏡型機器を利用すれば、3次元タイプのバーチャルオフィスの世界は立体的に表現されるため、そこで感じられる没入感は、2次元タイプの平面的な世界に較べて格段に高くなります。ただ、専用の眼鏡型機器は高額なため、当面は、普段使いのスマートフォン、タブレット、パソコンの利用が中心となるでしょう。また、3次元タイプのバーチャルオフィスでは、「お互いの存在」を感じるための仕組みとして、自分自身の写実的なアバターが活用されています。そのアバターを通じてお互いに目を合わせたり、顔の表情を変化させたり、身振り手振りを使い、物理的なオフィスと変わらない意思疎通が可能となります。そして、「一緒に体験を共有」することを通じて、海外も含め住んでいる場所が異なっていても、空間を共有し共同作業を行うことができるのです。

バーチャルオフィスを利用することにより、どのような新たな価値の創造につながるでしょうか。例えばグローバル企業では、物理的な拠点が世界に点在し、一か所に集まって働くことは難しいですが、バーチャルオフィスを利用すれば、空間や時間の制約を受けない多様な働き方が可能となるでしょう。また、国内においても、拠点が複数ある場合には同様の効果が見込めます。加えて、自分自身の写実的なアバターを投影したコミュニケーションは、現実と変わらない感覚が再現されるため、対面会議の代替も可能です。従来のオンライン会議システムでは、上半身の2次元表現しかできませんが、写実的なアバターが再現される3次元タイプのバーチャルオフィスは、ちょっとした雑談や、社員の様子を確認できる現実のオフィスの代替となりうるでしょう。3次元タイプのバーチャルオフィスは、世界中で利用者が拡大しているオンラインビデオ会議の拡張機能として展開されることが、大手ソフトウェア企業から発表されています(注1)。

(注1)MicrosoftHPより「https://news.microsoft.com/innovation-stories/mesh-for-microsoft-teams/


 バーチャルオフィスの活用は、現実のオフィスの再現に留まりません。たとえば、お客様への商品説明会をバーチャルオフィスで行う場合は、バーチャル空間に再現された試作品を顧客と一緒に見ながら説明することもできます。もし顧客が修正を希望した場合には、その場で一緒に試作品を見ながら修正を加えていくことができ、今より優れた濃密なコミュニケーションが可能となるのです。

また、コロナ禍でリアルな懇親会や慰労会が自粛傾向にあるなか、バーチャル空間に再現された懇親会場に社員が集合し、3D化されたグラスを持ちながら懇親することも可能となり、社員間のコミュニケーション活性化につながります。

最近では、社外の人とつながる場として、異業種交流会や大規模な会議などにもバーチャルオフィスが活用されています。これにより、主催者にとっては物理的な会場の準備が不要となり、参加者にとっては、気軽に、いくつもの会に参加できるため、人と人とのつながりの拡大を図るツールにもなります。

地域課題も解決する新たなオフィスの可能性

以上みてきたようにバーチャルオフィスは、テレワーク普及に伴い顕在化した「社内での気軽な相談・報告が困難」、「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」、「取引先等とのやりとりが困難」などのコミュニケーションに関する課題を解消する、新たなオフィスの形となる可能性があるでしょう。

筆者は、バーチャルオフィスの価値は、「時間や空間の制約を超えてコラボレーションできること」と考えます。現実空間と仮想空間のデータが高度に同期されるバーチャルオフィスが普及することにより、柔軟な業務展開、コミュニケーションが拡大するでしょう。例えば、遠隔業務環境となるバーチャルオフィスでは、現実空間と遜色ないコミュニケーションと資料共有のためのコラボレーションツールや可視化技術(現象や知識が目にみえるようにする技術)が進化し、業務効率性の向上が期待できます。

さらに、人が現実空間に集まることを前提とした集約型企業が、地理的に分散した労働者からなる分散型企業に変貌することも考えられるでしょう。バーチャルオフィスによるリモートワークの拡大は、地理的限界の問題を克服し、雇用機会の提供につながるのではないでしょうか。また、都心の住宅事情や交通渋滞などの都市部の過密化問題、地方の人口減少問題を解決する対応策の1つとして貢献できるでしょう。国境を越えて共働することが容易になり、地球規模の人口分散効果にもつながるかもしれません。

バーチャルオフィスを積極的に活用することは、いつでもどこでも仕事ができる環境を整えることにつながり、働く人に寄り添った社会を創ることになるでしょう。

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