eスポーツがもたらすつながり

柏村祐(かしわむらたすく)
第一生命経済研究所 主席研究員
九州大学グローバルイノベーションセンター客員教授
専門分野はテクノロジー、DX、イノベーション


1. eスポーツとは何か

eスポーツ(e-Sports)という言葉を聞く機会が増えています。「eスポーツ(e-Sports)」とは、「エレクトロニック・スポーツ」の略で、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称です。ゲームで対戦することをスポーツと捉えるようになったのは、ここ数年のことです。コンピューターゲームというと、ロールプレイングゲームや対戦系のゲームを思い浮かべる人も多いかもしれませんが、今では麻雀や将棋、囲碁などのゲームを楽しむシニア世代が増えてきています。コンピューターゲームは、自宅にいながら、世代も性別も言語も超えられるコミュニケーションツールとして注目を集めています。コンピューターゲームというと、1人で淡々と楽しむイメージですが、eスポーツではオンラインで顔が見えない世界中の誰かとつながり、対戦することが前提となります。

ここ数年、eスポーツの国際的な大会が大規模スタジアムなどで開催されることも多くなりました。賞金額は1億円を超える試合もあり、プロのスポーツプレイヤーや、チームも出てきています。eスポーツのはじまりは、1990年代に流行した格闘対戦ゲームといわれています。ゲームセンターや家庭用ゲーム機で楽しめる格闘対戦ゲームのユーザー数の増加に伴い、ゲームセンターや企業主催のゲーム大会が開催され、対戦プレイヤーと観客が集うコミュニティも誕生しました。2000年代に入るとインターネット回線がより高速になり、離れていてもつながることができる環境が整備されたため、1つの場所に集まらなくてもeスポーツを楽しめる時代を迎え、現在に至ります。また、最近ではeスポーツに関連するプロ選手やゲーム開発者などの人材育成や、専用ウェア、専用チェア、ゲーミングPC、専用マウスといった関連する機器市場の拡充、イベントや施設に人が集まることで創り出されるコミュニティビジネス・大会運営といった経済効果が見込まれています(図表1)。

eスポーツ市場の拡大が期待される中、その実態を調査したアンケート結果を見てみましょう。eスポーツの参加経験や認知状況について2022年8月にマーケティング・リサーチ会社のクロス・マーケティングが全国15~69歳の男女1,875名を対象に実施した調査によると、「eスポーツの大会に参加したことがある」は全体で2%程度に止まり、「eスポーツの大会やイベントを観戦・視聴したことはあるが、参加したことはない」は15%となっています。その中でも男性10~30代の参加・視聴経験は3割前後と他世代に比べ高くなっています。また、eスポーツが行われているジャンルごとの認知状況を尋ねたところ、認知状況が高いゲームジャンルとして、「パズルゲーム」53%、「格闘ゲーム」44%、「スポーツゲーム」36%が挙げられる一方、FPS(シューティングゲームの一種)、デジタルカードゲーム、ストラテジーゲームなどの他ジャンルの認知は2割に満たない状況となっており、一言にeスポーツと言っても参加状況や認知状況は年齢や性別により異なっています(注1)。

2. eスポーツがもたらすつながる場所

eスポーツは、経済効果のみならず、さまざまなつながりも生み出しています。近年発展を遂げているeスポーツですが、ここではeスポーツを人と人とのつながりを創り出す「場所」であるという視点で考えてみましょう。インターネット上の仮想空間に人が集まる「場所」と、現実に人が集まる「場所」の双方の場を持つことがeスポーツの特徴ですが、どのようなつながりが生まれるのでしょうか。

まず、インターネットの仮想空間が創り出すeスポーツを体験できる場所は、物理的な距離を意識することなく、世界各国のeスポーツを趣味とする人たちとつながることができます。現実のスポーツは、学校や会社のクラブ活動、スポーツイベントなどで行われることが多く、同レベルの運動機能を有する人が集まり競技する傾向にあります。ところがeスポーツでは、身体機能に制限があり思うように動けない人が、いつでもどこでも参加できるため、さまざまな人とのつながりを持つことができるのです。今後、5Gなどの通信技術がさらに普及することで、いつでもどこでも高速につながるネット環境の整備が進むため、パソコンのみならず、スマートフォンで楽しめるeスポーツも拡大していくでしょう。

一方、現実に人が集まるeスポーツを体験できる場所では、eスポーツを趣味とする人たちが集まり、競技の合間にプレイヤー間のコミュニケーションが生まれ、同好の士として人間関係を築くことができます。すでに大学やスポーツ界では、eスポーツの場を整備する動きが進んでおり、プレイヤー同士がつながるきっかけとなっています。eスポーツ先進国である米国の大学では、競技団体やリーグが多数存在しており、複数の大学がeスポーツ奨励プログラムを提供しています。たとえば、カリフォルニア大学アーバイン校では、2016年からスポンサーの後援を受けてストラテジーゲームLeague of Legendsのeスポーツ奨励プログラムが開始されました。奨励プログラムには毎年10人の枠が用意されており(注2)、コミュニケーション能力や実績やトライアウトを通じて潜在能力の高い選手が選抜されます。さらに学校には広大なeスポーツ専用施設があり、学生は、数十台の専用PCにてトレーニングできます。このように、eスポーツを学べるコミュニティは他の大学にもあり、大学リーグや練習会を通じてプレイヤー同士がつながる環境をもたらしているのです。

3. 高齢者や障害者も参加するeスポーツ

eスポーツというと、若い人たちばかりが出場すると思われがちですが、実際は高齢者も多く参加しており、2020年9月には日本でもシニアのeスポーツチームが誕生したとニュースになりました。そのチームは、秋田に本拠地を置く「マタギスナイパーズ」です。この平均年齢65歳以上のシニアプロチームは、高齢者のeスポーツを単に「健康」や「認知症の予防」といった分野で終わらせるのではなく、「孫にも一目置かれる存在」を目指すことで、世代横断型の地域コミュニティの育成を目指しているそうです(注3)。

また、世界を見渡せばすでに大会で優勝した実績をもつシニアプロチームも存在しています。世界初のシニアスポーツチームとして誕生したスウェーデンの「シルバースナイパーズ」は平均年齢70歳以上のメンバーで構成されていますが、DreamHack Summer2019という世界大会を制覇しています。eスポーツは、一般のスポーツと比べて競技するうえで身体面のハードルが低いことから、高齢者や障害者でも参加する人が増えているのです。

さらに、障害者のeスポーツへの参加も始まっています。筆者は障害者eスポーツ団体「ePARA」が主催する視覚障害者や車椅子を利用する障害者による格闘ゲームの練習会に参加しました。視覚障害者による格闘ゲームでは、障害者と障害のない人がチームとなって、互いに助け合いながら競技します。障害のない人は目の役割を担い、視覚障害者がコントローラーを巧みに操り、パンチ、蹴り、必殺技などを繰り出してプレイします。格闘ゲームでは対戦相手のキャラクターの位置が画面上で左右に入れ替わるため、その都度、障害のない人は、視覚障害者が操るキャラクターの位置を声かけすることにより伝え、視覚障害者は自分自身が操作するキャラクターの位置を把握します。練習会が終わった後は、オンライン会議を通じて反省会が行われ、障害の有無を越えたプレイヤー同士のつながりが創られます。

そもそもeスポーツは、年齢・性別・国籍・障害の有無に関係なく、誰でも参加できるオンラインでの対戦ゲームが基本です。eスポーツは、多くの人に新しいつながりをもたらすきっかけとなり、その流れは拡大していくのではないでしょうか。

(注1)株式会社 クロス・マーケティングHPより「ゲームに関する調査(2022年)eスポーツ編」
(注2)スカラーシップドットコムHPより「https://news.uci.edu/2016/03/30/uci-to-launch-first-of-its-kind-official-e-sports-initiative-in-the-fall/
(注3)MATAGISNIPERHPより「https://matagi-snps.com/