世界に広がるWASHOKU:和食

ワタクシが毎日をご機嫌に過ごせている秘訣。
それは、日々の暮らしに
「好き」がいっぱいあることだと思うのです。

たまに落ち込んで涙したり、
イライラもしますが、
すぐに自分を笑顔にしてくれる
大小さまざまなお気に入りが
身の回りにたくさんあるので
ふと気づくと
楽しく嬉しい気持ちになっているのが常。

ワタクシが能天気で忘れっぽい性格なのでは?
そんなご指摘もツッコミも、ごもっとも。

でも、ワタクシは自分の「好き」を
発見することを
誇らしく日々楽しんでいます。
密かな愛用品、贔屓の店、アガる味。
旅、人、音楽、映画など。
特別なもの、些細なもの、
高価なもの、チープなもの、
もしかしたら、取るに足らないものも!?

そんなワタクシの大切な「偏愛」を
この連載ではご紹介させていただきます。
お付き合いいただけましたら、嬉しいです。

撮影・文/池水みと


10年余の会社員生活から離れた後、
調理専門学校に入学して
和食を学びました。

ワタクシの母校である
「東京すし和食調理専門学校」は
和・洋・中・イタリアンと
さまざまな料理を教える
世の大半の調理学校とは異なり、
寿司と和食に特化した
めずらしい専門学校で
調理師免許も取得可能。

ミシュランの星を毎年獲得する
実力のある会席料理店
「銀座小十」の奥田透氏が
カリキュラムを監修し、
彼の店で活躍していた
現役料理人が教師として指導。

店で実際に出しているメニューも
直接手ほどきしてくれるなど、
授業内容のオリジナリティと
本格志向な意気込みを魅力に感じ、
2016年に入学しました。

韓国・中国・香港・台湾
モンゴル・ベトナムなど
アジアから来日している
10代〜20代の留学生が
学生全体の約半数。

来日してまだ2年程で
日本語がおぼつかない留学生も
少なくありませんでしたが

学校を卒業後は
しばらく日本で働いて経験を積み
「日本料理」を「日本で」学んで
箔を付けてから自分の国に戻り
日本料理店をやりたいと語る
真剣な留学生もいました。

(実際に何人かは有言実行で
自国に店を構えていてスゴい!)

聞けば、日本の調理専門学校で
日本人学生が選ぶ進路の
筆頭はイタリアンやフレンチ。
日本料理に進みたいと考えるのは
学生の10%にも満たないそうです。

日本料理の担い手が少ないのは
残念な限りですが、一方で
日本料理の需要が高い海外では
伸びしろがまだありそうです。

こちらが東京・池尻大橋にある校舎。

ここからは
当時のワタクシの授業録を
回想していきます。

授業には座学と実習がありますが、
座学授業では
調理理論、食品衛生、栄養、
日本文化、サービス作法などを学び、
実習授業では
基礎技術から行事料理まで学びます。

*注釈
ワタクシの在学当時は寿司コースと和食コースが独立した別クラスでしたが、
その後、寿司と和食を包括的に学ぶ内容に進化し、
現在は2年制と3年制のふたつのコース設定になっています。

一年次の実習授業は
とにかく基礎固め。

和包丁の取り扱いでは、
片刃の菜切包丁に悪戦苦闘。
大根の桂むき、里芋の六方むき、
梅人参や菊花蕪などの飾り切り。
そして
砥石を使った包丁の手入れなど。

試験前には放課後に調理室で
皆で桂むきを練習しました。

出刃包丁では鯵の三枚おろし、
柳包丁では刺身の練習。
平造り、へぎ造り、八重造りを
刺身のサクに見立てて
練った小麦粉の塊で反復。

なかなか上達せず
歯がゆい思いばかりでした。

出汁巻き玉子は、正直なところ
作るのも食べるのも飽きました(笑)

卵液の替わりに
片栗粉と小麦粉を混ぜた液体で
練習をしてから、卵でも練習。
緊張感の高い実力検定試験も
今ではいい想い出です。

写真は、先生によるお手本。
なめらかな食べ心地で
口に入れたときに出汁がジュワッと
滲み出る出汁巻き玉子です。

見ている分には簡単そうなのですが、
いざ作るとなると結構難しいのです!

一年次の実習献立は
旬を感じられる一汁三菜。

鯖の煮付け、金平ごぼう、
切り干し大根、鯵の蒲焼き、
けんちん汁、筑前煮、天ぷら、
和え物、茶碗蒸し、卯の花など
日本人にとっては
馴染みのあるメニューが登場します。

でも聞こえてくるのは
「人生初の肉じゃが!!」
「ひじきなんて初めて知ったヨ!」
「あたり鉢とすりこぎ、初めて使う」
「むかごって何?」

外国人クラスメイトと一緒に
てんやわんやで取り組む
調理実習はなかなか新鮮でした(笑)

調理実習では毎回
昆布と鰹節で二番出汁をひき
土鍋で炊飯します。

ひとクラス分の出汁
十数リットルを一度にひくので
最初は出汁の味の変化や
理想のバランスが
ピンと来ないのですが

数カ月も経てば、どの学生も
「先生、まだ鰹の味が薄いので
もう少し火にかけておきますね」
と味加減を狙えるように
なっていました。

味の違いがわかるのは
天賦の才能よりも
食体験の経験値なのかもしれません。

そう、多彩な味の経験は
確かに舌の感覚に変化を
もたらすようです。

1年次の春には
蛍烏賊の酢味噌和え(写真左)を
「私には美味しいとは思えません」
と断言した留学生がいましたが、

1年後の春、
蛍烏賊の黄味酢かけ(写真右)に
「不味い」という学生は
いなくなっていましたから。

さて、二年次になると
念願の会席料理です。

先付、お椀、お造り、焼物、煮物、
食事(御飯・漬物・味噌汁)、
そして最後にデザート!
たくさんの品数です。

すっぽん、鱧、鮑、河豚など
高級レア食材が登場すると
皆で盛り上がったなあ!

節分、端午の節句、七夕、
御節料理など、
日本人が料理に込めてきた
風習、習わし、祈りを学び、

ハレの日にふさわしい
季節感溢れるコース料理を
とても素敵な器やお椀に
繊細に盛り付け、
季節感の表現を学ぶのは
とっても愉しいものでしたが 

1年間かけてやっと四季は一巡。
和食の料理人として一人前になるには
年月を要することにも
うなずけるようになりました。

V字カウンターを使って
出来立ての会席料理をサーブする
実際のレストランを想定した
調理実習授業が二年次になると
数カ月に一度ほどあるのですが

料理人の一挙手一投足が
お客様に注目されるカウンター前で
刺身の切りつけと盛り付けを行い
一品ずつ料理説明をするなど、
かなり緊張感の高い実習でした。

近年ではこのカウンターを使って
年に数回、在学生による
期間限定和食店「すし和食一膳」が
一般向けに不定期開催されています。

学生自身がコース料理のテーマを決め、
料理内容、原価計算、食材発注、
器選定などトータルで行います。

献立を巻紙に毛筆でしたため、
エントランスには花を活け、
クロークや会計、接客も行うので
書道や花道、マナーのクラスでの
学びがどれも生かされます。

今年3月に
「すし和食一膳」開催時に
在校生の会席料理をいただいた際には
工夫が凝らされた献立と
留学生の流暢な料理解説、
完成度の高い料理の仕上がりに
舌を巻きました。

複数回もの試作を重ね
完成度を磨いた学生の熱意たるや!

ソーシャルディスタンスのため
現在は席数が少ないですが
興味のある方は
webサイトからも申し込めるので
ぜひ体験していただきたいです。

空前の日本料理ブームで
和食レストランの数が
海外で急増していると
ニュースで見聞きしても

ワタクシの場合は
数年前の海外旅行で出会った
“ジャパニーズフード”を思い出して
「きっとその店は
なんちゃって和食よね〜?」
なんて少し意地悪に考えたり

日本の味や日本人の精神性は
日本人だけの専売特許のように
考えてしまいがちでした。

ですが、2、3年間の在学中に
留学生が味覚を磨き
日本の味を理解して、
日本人よりも器用に
和包丁を使いこなせるように
なる姿を目の当たりにしてみると

相撲力士に外国人が多いように
そのうち日本料理店には
外国人シェフの方が多くなって、
日本の食文化の担い手には
国籍など関係なくなる予感がします。

ワタクシは2019年から
ポルトガル・リスボンにある
調理学校「ACPP」の
寿司&和食コースで
本物の和食をお伝える取り組みを
母校「東京すし和食調理専門学校」
の先生と一緒に行っています。

「欧州ではSUSHI や
TEMPURA一辺倒から
RAMEN、TAKOYAKI、
TEISHOKUなど
多彩な日本食が浸透し
もっともっと!と
ニーズが高まっている。

欧州の料理人でも
YUZU、MISO、DASHI、
KOMBU、KOJIを
使うことが増えたが
本格和食の情報や
正しい和食の情報はまだ少ない。
本物を教えたいので協力してほしい」

そうした要望をいただいて
「東京すし和食調理専門学校」が
「ACPP」と
スタートさせたこの協働では

ハンズオン形式で
ポルトガル人の教員向けの
スキルアップ研修やサポート、
学生向けのマスタークラスや
技術検定の審査など、
日本とポルトガルを実際に
行き来しながら実施してきました。

農林水産省は日本食・食文化の
海外発信を強化すべく
「海外向け調理技能認定制度」を
設けていますが、
「ACPP」は欧州で最初に
ブロンズ認定を授与できる
教育機関となりました。

ポルトガルは
サーフィンのメッカとしても知られ
国の西側が長い海岸線のため
欧州でも有数の海産物消費量と
海産物のバリエーションを誇り、
米食文化もあるので
和食との親和性が高いお土地柄。

同じポルトガル語を話すため
南米ブラジルから移り住んだ学生や
物価安が魅力で暮らすアジア学生も多く、
学生は多国籍です。

ワタクシが出汁の
ワークショップを行った時には、
同じ鰹と昆布を使っても
硬水と軟水で出汁の味の出方が
まるで違うことを体感してもらい
日本が「水」の料理であることを
紹介させてもらいました。

(出汁をとった後の昆布から
佃煮を作ってみせたところ、
フードロスの観点から
いたく感心されたのは意外でした!)

でもいかんせんコロナ禍で
ここ数年はオンラインでの実施。

料理を伝える際に
香りや味が伝えられない
難点がありますが、

なぜ箸で食べるのか
なぜその盛り付けをするのか
なぜそのサイズに食材を切るのか
なぜその食材を取り合わせるのか
ひとつひとつ説明していきます。

日本料理が海外で注目されている
ことが誇らしい一方で、
ホンモノの日本料理については
まだまだ伝わっていないことが
山ほどあります。

だからこそ
日本の食文化や和食の魅力を
丁寧に時間をかけて伝えていくこと、
長く続けていくこと。
文化発信が大事だと考えています。

2013年に「和食」は
ユネスコの無形文化遺産に
登録されました。

「和食;日本人の伝統的な食文化」
という登録名で

【自然を尊ぶ】
日本人の気質に基づいた
【食】に関する【習わし】

が強調されていますが、
これはむしろこのまま放っておくと
食文化が廃れてしまうことの表れ。

本物の和食が
世界にもっと知られることで

先人の知恵、日本の風土に
思いを馳せることができる
料理人や食べ手が増えますように!
日本の文化を大切にすることに
つながりますように!

そうした願いを込めて、
ワタクシが母校で学び
冬に作るようになった大好物、
かぶら蒸しの画像で
長文を締めくくりたいと思います。

ワタクシの偏愛話に
これまでおつきあいいただき
ありがとうございました!

【インフォメーション】

東京すし和食調理専門学校
東京都世田谷区池尻2-30-14
https://www.sushi-tokyo.jp

在校生による期間限定和食店「すし和食一膳」について
https://www.sushi-tokyo.jp/news-detail/data/1515

池水みとの「東京すし和食調理専門学校」在学時からこれまでの記録
instagram個人アカウント @washoku_info
https://www.instagram.com/washoku_info/

ポルトガルの調理学校「ACPP」
Associação de Cozinheiros Profissionais de Portugal
https://www.acpp.pt

ポルトガルの調理学校「ACPP」の寿司&和食コース
Curso Cozinha Japonesa e Sushi – ACPP – Formação Profissional
https://acpp.com.pt/inscricoes/curso-cozinha-japonesa-e-sushi/

海外における日本料理の調理技能認定制度について
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/syokubun/tyori.html

「和食」のユネスコ無形文化遺産登録 について
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/ich/index.html

池水みと / MITO Ikemizu
鹿児島ルーツの東京育ち。プロデューサー・編集者・ライター。リクルート在職中にアロマセラピスト資格を取得。フリーランスになってから調理師免許を取得。築地・豊洲の目利きと一緒に日本の伝統的な魚食文化の魅力を紹介するワークショップ「おいしい塩干教室」を主宰。「東京すし和食調理専門学校」が欧州に和食文化を伝える研修活動など海外向けプログラムに企画・通訳で関わる。幼少期にフィリピン、高校時代にブラジルに暮らしていたことから、日本文化への興味が強く、趣味は三味線・茶道・和菓子作り。最近の関心事は健康と予防医学。夢は自作絵本の出版。

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