トータルフードコンサルタント 小倉朋子さん

食生活はこころとからだを満たして、気分よく歳を重ねるための重要なカギ。
「料理をつくること」は、日々の暮らしの豊かさと深くつながっています。
今回、お話を伺ったのは、トータルフードプロデューサーの小倉朋子さん。
食とテーブルマナーの総合教室『食輝塾』を主宰し、
飲食店のコンサルティングやメニュー開発、伝統食、トレンド、食育、食文化、箸文化、
ダイエット、地球食環境などトータルで幅広い専門を特徴とされています。
食べることと生きることはイコールに近い、表裏一体のものと言う小倉さんに、
料理を含む食全般について、語っていただました。

お話をうかがった人/トータルフードコンサルタント、食輝塾主宰:小倉朋子
聞き手/ウェルビーイング100 byオレンジページ編集長:前田洋子
撮影/原 幹和
文/岩原和子


自分の「食べ方」を深堀りしていくと、とことん自分の内部を見ることになる

前田 本日はトータルフードコンサルタントの小倉さんに、料理を含め「食べること」全般についてお話をうかがいたいと思います。最初に、主宰されている『食輝塾』について簡単に説明していただけますか。

「食の総合教室で食の知識とテーブルマナーの2部構成になっています。とにかく食べ方をとことん見ていきます。いきなりナイフをこう持ってこう食べますよ、からは入りません。和食、洋食、中華を中心に、そこの国や地域の文化とか歴史、調理法、食材のことなど、いろんなことを話すんです。それで、ああ、だからステーキのあとにサラダがくるのかとか、だからフランスではワインを飲むのかとか、だから左側から座ったほうがいいとされているのか、などを理解していただく。マナーに関する理由や背景をひもといていって、最終的にその方ご本人も気づかない、食べぐせ、手ぐせに気づいていただき、美しい食べ方を身に着けていただく感じですね。食べ方は見違えるように変わられますが、食べ方だけではなく生き方も変わられる方がとても多いです。
マナーをツールとしてというか、自分の食べ方を深堀りしてみることは、自分自身の内部をとことん見ることになるんです。そして自分自身の柱を作っていただく。そうしてストレスに負けないように凛と生きていこう、ということを目標にしているんです」

前田 自分の食べ方を意識することで、自分を客観視することができるわけですね。

「そうです。ご本人の気づかない食べぐせというのがあって、たとえば、ナイフ・フォークをどういう角度で持つかとか、ハンバーグの一口を何回くらい噛むかなどの癖はひとりひとりほぼ決まっています。そういうのは習慣になっていて、習慣って自分では意識していないですよね。ですので、そうした無意識な食べ方を意識化すると、わぁ、私、こんな食べ方だったのとか、いろいろと自分に対する気づきに繋がるんです」

前田 その教室をもうずっと長くなさっているんですよね。

「22年目です。それで、生徒さんの変化には私も驚いているんです。メンタルがすごく改善されたり、長年の持病が治られて健康体になったり、結婚されたい方はされたり、やりたい仕事のご縁があったりと、本当にいろいろあって。不思議だなと思う一方、変化が出るのはあたりまえだなとも思うんです。食っていうのは本能で、食べないと命が終わります。これだけは世界共通で例外がないですよね。どういう環境にしろ、誰もが何かしらを選んで、食べることをしている。それで命をつないでいるわけですから、少しだけ変えるだけでも、いろいろ波及効果というのが出る可能性はあるんだろうとは思うんですね」

前田 ほかにあるようでない教室ですよね。単に食べ方のマナー教室だと思って入ったら、びっくりしてしまうんじゃないですか。

「かっこよく食べたいだけ、といった御意向の方は続けられないですよね(笑)。でも、ライフワークになるとおっしゃってくださる方もいらしてありがたいです。」

食卓を中心とした、両親によるトータルな教育。「食べるとは?」「食べ物とは?」を考え続けた学生時代

前田 そういう教室をやっていらっしゃる小倉朋子さん、というのは、どういうふうに生まれたのか。どうして食に興味を持つようになったのか、教えていただけますか。

「性(さが)です(笑)。よく聞かれるのですが、性、 DNAなのかな」

前田 へぇーっ、性ですか!?

「今思うと子どものときから食を優先し沢山の時間を使って、子どもなりにとてもこだわって生きていたな、という感じなんです。で、親が食卓っていうものを中心に、いろいろ教育してくれたということがあって。母親は徹底した手作り、自然、健康を優先していて、それはもう本家から脈々と代々徹底しているんですね。母の両親は湘南に3つ庭を持っていて、ありとあらゆる果物や野菜の栽培を土づくりからやっていたんです。完全な趣味として。結構大変そうでしたけど、そのおかげで完全無農薬の素朴な味を味わえました。
加工した品物と手作りのものとの違いを肌で感じることができましたし、素朴な野菜や果物で手作りのお酒やジャムなどを季節ごとに作りました。
いっぽう父親は、今ではかなり変わって健康面を気にして食を選びますが、もともとはおいしいものとか新しいものとかに対する探求心やグルメ嗜好があったんですね。父親は仕事がとても忙しくてお休みのない人だったので、一緒にごはんを食べたり外食したりするときだけが、唯一の会話の時間でした。そこでいろんなことを、食べ物を残さないで食べることや、テーブルマナーやお店とのコミュニケーションの仕方、ビジネスのこともいろいろ教わりました。海外や地方での食事では地域の文化や歴史、経済などを交えてその料理やその国を感じたり。トレンドの移り変わりを知ったり。行事食をいただきに旅行をする、など文化面でも子供の心に残りました。
私は、その父方と母方のミックスみたいな感じで、そういう点が、少し珍しいのかなと思っています。」

前田 家庭環境が大きいですよね。お父様とお母様が対照的で。お母様が教えてくれた世界っていうのは、食べるということを内側から、素材から考える。お父様は食というものを社会的な意味も含めて、いわば外側から考えるというか。

「そうですね。父は子どもの頃に戦争体験をしている世代なので、おなかいっぱい食べられる幸せみたいなものを実感していて、それで、おいしいものを食べに連れて行こうと思ったと思うので、単純にいわゆるグルメ思考というものではないと思うんですね。
例えば、フォアグラ用のガチョウを飼育する場や、豚の解体の場など普段は入れない場所にも連れていってもらったので、命の大切さ、食べるということは何なのか、といったことも子どもに伝えたかったのだと思います。中学生の時だったので、衝撃的で今も鮮明に覚えています。

前田 それはすごいですね! 

「私たちは普通、豚とか牛の生きている姿が想像できる状態のものは買わないですよね。食べ物としてパッケージになっているものを買います。だけど生き物から食べ物になるまでの経緯を考えると、ああ、命をもらっているんだなぁと。でも、そういうことがかわいそうだから、お肉を食べたくなくなっちゃうという思考には、私はならなかったですね。ちゃんと向き合って食べよう、大切に食べよう、とは思っていて、それは動物性のものだけでなく食材や飲料、口に入るもの全てに思うようになっています」

前田 「私、二度ととんかつ食べられないわ」とはならずに……。でも本当にお父様、すごいですね、娘を屠殺の現場に連れて行く父親って初めて聞きました。

「そういう体験って強烈なので、いろいろ考えさせられましたね。たとえば、牧場で羊を見ると『かわいい!』って思うのですが、それでも私はマトンのお肉が大好きですし。生き物としてかわいいと思うところから、どこの時点で食べ物だと認識するのか。どこから私は食べ物だと思うのか。人間の食欲の生まれ方や、食の趣向の育ち方などとの関係性ですとか、子どもですが、そんなことも考えました。
それで、食べ物とは何? 食べるとは何? などを学生時代も考えていました。そういうことも追加されて、様々な角度から食と人生や社会など、考える人になったのかもしれないです。マーケティングやテーブルマナーや調理にも結び付きが強いんですよね。食は全て繋がっているので。そうやってオタク度数が益々加速してしまった感じです(笑)」

「自分一人だから……」と食事を適当にすますことは「自分なんてどうでもいい」と言っていることと同じ

前田 食べるという行為は、先ほどおっしゃったように、基本、生きるために食べるのですが、生きるため以上に、どのくらいの広がりを持っているものなんでしょうね。食べるという行為が人間にもたらすものって、もちろんエネルギー補給なのだけれども、それ以外にどんなことを人にもたらすものだと小倉さんは思われますか。

「私が食のオタクだからなのかもしれないですけど、食べることって、その人のすべてを担うくらいの大きなものじゃないかなとは思っているんです。
たとえば、料理に関して言うと、お料理を全くしない、買って食べることしかしない人は、すでに商品としてパッケージされているものを買うわけですね。パッケージされた商品の場合、匂いがなく、五感の中の視覚からしか情報がない。でも、利便性に富む世界です。
また、その容器が使い捨ての容器のことも多いと思うのですが、その場合は、私たちはその容器を食べ終わったら捨てるわけです。ですから、日常の中で捨てるという行為をやることになるわけです。洗ってしまう行為は必要ありませんからとても便利です。片や、料理をつくるとなると、たとえばカレーなら、にんじんやじゃがいもを吟味するところから入って、それを洗って切ってといった経緯が必要です。ですが、あえてその手間と時間を使うことを選択する、ということも現代の私たちはできます。
食べ物をどう選ぶのか、どう食べるのか、といった選択ができる現代において、食べる行為は、その人なりの物事の価値観などにいろいろと影響が出てくるんです。面倒をあえて重んじる食べ方を繰り返すと、仕事や生活や人間付き合いなども変化します。食輝塾の生徒さんでも、料理やマナーの変化によって、生活や人生観まで変わられていくのを長年見てきました。ただ買ってきたものを食べるのが悪いわけじゃなくて、それがその人の個性の一つになるんです」

前田 買ってきたものを食べる、それも一人で食べるとなると、食べ方とかあんまり関係なくなっちゃいますよね。

「うーん、でも私は一人食ほど贅沢で、これほど楽しい時間はないと思っています(笑)。世の中で一番大事な人は誰ですかって聞かれれば、勿論家族が何より大事などもいえますが、同じようにやはり自分が一番大事といえるのではないでしょうか。
人との会食ももちろん楽ししいんですけれど、会話ををするので、目の前の食事だけに意識をフォーカスできないですよね。でも一人ごはんは、自分の体調や心の状態と相談して、今まさに自分が求めているもの、欲しているものを食べることができる。自分の命の糧ときちんと対話ができる、すばらしく贅沢な時間、世の中で一番大事な人=自分を愛でてあげられる時間なんですよ。そこをみなさんね、自分一人だから、なんだっていい、ですとか、一人だから5分で食べ終わっちゃうとか、おっしゃるので、なんてもったいないんでしょうって思うんですよ。もっと大切なご自身を感じて、いたわってあげましょう、と思います。」

前田 あー、なるほど、そうですか。そういうことをちょっと忘れていた気がします。どうせ一人なんだから適当でいいやって“食事を済ます”感じになりがちですよね。

「とりあえず満腹にさせる、じゃなくて、“満足”にしようよってことなんですよ。満腹より満足。そうすると人生が、変わるっていうと大げさかもしれませんけど。どんなに忙しくても意識をちょっと変えるだけで、満足な食事になっていくんです。そして、一日3食だとすると一日に3回は何かちょっと満足できる時間があることになるから、それは人生の喜びに変わるんですよね」

前田 やっぱり食べることとウェルビーイングは、すごく重要な関係がある気がしますね。

「そうですね。食べ方と生き方って、私にとってはイコールに近い状態で、表裏一体みたいな形で捉えているんですよね」

前田 小倉さんのご著書の『私が最近弱っているのは毎日「なんとなく」食べているからかもしれない』を読みましたが、自分に自信が持てなかったり、私なんかだめだと思っている人に、小倉さんが一番伝えたかったことは何なんでしょう?

「心の機微ってすぐ食行動に出るものなんですよね。ストレスがたまると甘いものを一気に食べたくなる人、焼き肉を食べたくなる人、反対に何も食べたくなくなる人…。食行動って心が表れやすいものだと思うので、自分に自信がないとか、疲れがとれないとか、何かうまくいかないな、と思っている方は、食べるという行為に対して自己否定をしないでもらいたいなって強く思います。できる限り、自己肯定する食べ方をしたいですねって思うんですよ。
どういうことかと言えば、先ほどの一人食だと、ま、どうでもいいな、一人だから、といった感覚で食べることは、“自分に対してもどうでもいいな”って言っていることにつながってしまうんです。肯定的に、ワオ! 一人だからワクワクするなって思えたら素敵。たとえば残り物を食べなきゃというときも、“処理”とかではなく、もう少し肯定感の強い行為に変える。食べ物を無駄にしない自分になろう、みたいな感じで能動的に」

前田 仕方なく食べる、っていうんじゃなくて。

「ちょっと意識して気持ちを肯定に変える。そのところはマインドコントロールするわけですよ、自分で自分を。これでいいんだ、という肯定感の強い人生へと変える方法の実践が、食はさまざまにできるんです」

前田 しかも、そんなに難しいことじゃないですよね。

「そうなんですよ。誰でも何かしら選択して必ず食べる。必ずやることなんですよね、食べるという行為は。その時の向き合い方やメンタルを少し意識化するだけなんです。私のメソッドはすぐに実践できる方法だけなんです。でも確実に効果があります。」

手料理は自分が欲しているものと対話して、食べたいものを食べたい量つくれるもの

前田 先日ある企業の人に、自炊しない人が自炊するようにするにはどうすればいいんでしょうって聞かれて、うまく答えられなかったんですけど、どうしたらいいんでしょうね?

「答えはひとつではなくて、その方の生活習慣や環境などいろいろ伺って、方法をその人に合わせて普段はご提案しています。食生活が偏った場合のひずみから危機感を持っていただくこともありますし、料理の楽しさを具体的に伝えることもあります。」

前田 料理をつくることが偉いわけじゃないですけど、つくるといいことがありますよね。

「料理はストレスセラピーだと思います。よく言われることですけど、料理は五感を駆使するので、五感の訓練になっていくわけです。それで訓練で終わらずに、最後に必ず食べるという“ごほうび”がありますから、満足度が高いと思うんですね。
そこで、料理に関しても考え方をちょっと肯定的に変えることをしてみる。それこそ最後は食べるっていう目的があるわけなんで、大事な自分に“ごほうび”を与えるためにやることなんだからすごく楽しいことだと。その相手が、自分だけではなくて、もちろん家族や友人、他人でも同じで、人を喜ばす目的の作業と思えば、面倒なことではなくなる気がします。
外食や買ってきたものっていうのはもちろんおいしかったりしますけど、それは自分専用につくられているわけじゃないですよね。だから、自分が本当に欲している量とか質とか素材とかではない。でも手料理って慣れてくれば、本当に自分が欲しているものと対話して、食べたいものを食べたい量つくることが可能なんです。そういうふうにちょっと、自分を愛おしむ時間の一環みたいに思っていただけると、面倒くさいものではなくなりますよね」

前田 考え方の経路を、面倒だとか大変とかのほうじゃなくて、ちょっと時間がかかるけど、自分を喜ばせられるというようなポジティブな方向に向けられるといいですね。

「そうですね。やっぱり疲れていると料理が面倒くさいって、皆さん、それが通常の流れかと思うんですけど、私は疲れている時ほど手料理したくなるんですね。疲れているときこそ自分の欲しているもので治めたいって思うんです。
お料理は味つけまでやろうとするから大変になるんで、単に肉と野菜をただ加熱するだけ、という方法が、著書にも書いた私のメソッドの一つなんです。例えば炒めるだけだと数分で済んで、買ってきたものをレンジで温めるのとそんなに所用時間は変わらないです。それで、食べる時にシンプルな調味料をかけて食べれば、楽ですよ」

前田 食べるときに自分の好きな味をつける。それっていいですね。

「レシピの分量通りということに捉われてしまうと、慣れないと面倒に思ってしまいますよね。そこはもっと自由度があってもいい。ただ、手間ひまかけるよさみたいなものもあると思っているので、手始めのうちは炒めるだけでも、そこから少しブラッシュアップできればいいですよね。手間ひまかけたものを食べるということは自分自身を大事にすることにもなるわけですし、面倒くさくないことばかりを選んでいる自分よりは、面倒くさいことを選択してそれをやる自分でいることは、ある意味では、自己肯定になるものなんです。凝ったものをつくって、あー、私ってだめだわって思う人はあまりいないですよね」

前田 料理をする人のウェルビーイング度が高いっていうのは、そのへんにあるのかもしれないですね。

「料理をして自分を嫌だなって思う人はいないんですよ。嫌だなって思ってしまうのは失敗したとか、おいしくなかったからで、そこは自己否定になりやすい。そうなってはいけないですから、まずは簡単なところから始めたらいいと思います。でも最終的には手間ひまかけたものも楽しめるようになるといいですね。そうして、再び研ぎすまされてシンプルに帰っていったり。料理もテーブルマナーも食に関わることはその人を表すので、やっぱり大事だなと思います」


小倉朋子(おぐらともこ)
(株)トータルフード代表取締役/食の総合コンサルタント/亜細亜大学・東京成徳大学講師 /食輝塾主宰/日本箸文化協会代表 
飲食店、食品企業のコンサルティング、メニュー開発のほか、世界の食事マナーと総合的に食と生き方を学ぶ「食輝塾」を22年間主宰。「食と心」を柱に、トレンド、食文化、マナー、栄養、ダイエット、食育、箸など専門が広いのが特徴。
ベストセラー「世界一美しい食べ方のマナー」、「やせる味覚の作り方」、「私が最近弱っているのは毎日なんとなく食べているからかもしれない」ほか著書監修本70冊以上
NHKレギュラー講師、「世界一受けたい授業」「芸能人格付けチェック」「チコちゃんに叱られる」などメディア出演多数
http://www.totalfood.jp

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