幸せにつながる趣味・ライフワーク

新型コロナウイルス感染拡大は、人々の生活に大きな影響を与えました。外出自粛を求められ、思うように人と会うことも仕事をすることもできない生活を余儀なくされました。そうした中で、自分の生き方を見つめ直すようになったという人は少なくないようです。
特に感染が広がる中、命にかかわること以外を「不要不急」とされ、多くの人々から「趣味・ライフワーク」を楽しむ生活をも奪いました。しかし、そのような状況になって、改めて自分の人生にとっての趣味・ライフワークの価値を考えるようになり、生き方を見つめ直すようになった人も多いようです。今回は、コロナを経験して浮き彫りになった人々の人生における趣味・ライフワークの価値について考えます。

文/的場康子(まとばやすこ)
第一生命経済研究所ライフデザイン研究部 主席研究員
専門分野は、労働政策、子育て支援など
イラスト/ながおひろすけ


人気のある趣味・ライフワークは?

みなさんは、どのような趣味・ライフワークをお持ちですか?
昨年、アンケート調査でたずねたところ、多くの人があげた趣味・ライフワークの内容は、「旅行」「芸術・エンターテインメント」「読書」などでした(図1)。ただ、年代によって回答傾向が異なりました。年齢の若い人は「芸術・エンターテインメント」「ゲーム」、高齢になると「旅行」や「読書」「自然」の割合が高くなっています。「料理・菓子づくり」も若い人の間で人気のようです。図には性別を示していませんが、実は若い男性からの回答も多く、「料理男子」が少なくないことがうかがえます。共働き家庭が増える中、コロナによって在宅勤務が広がり、男性も料理をする機会が増えたことで、料理の魅力に気づいた人も多いのかもしれません。

趣味・ライフワークは人生を豊かにするもの

皆さんにとって趣味・ライフワークは、どのようなものでしょうか。
趣味・ライフワークを持っている人にたずねたところ、「自分が好きなもの」が最も多い回答でした(図2)。次いで「自分の人生をより豊かにするもの」「時間が過ぎるのを忘れて夢中になれるもの」等が続いています。「生きるために必要なもの」にも約3割の人が回答しています。

趣味・ライフワークは、多くの人々にとって「好きなもの」ですが、そのような好きなものを持っていることによって、人生が豊かになる、生きるエネルギーがもたらされると認識している人が少なくないことがわかります。
性別にみても、あまり差はみられませんが、強いて言えば「仕事に活かせるもの」「スキルや能力を極めたいもの」への回答割合が男性のほうが若干上回っています。男性は女性よりも、仕事に結びつけて趣味・ライフワークを考えている人が多いのでしょうか。

最近では、自分の興味のあることを活かして、副業や起業をする人も増えています。例えば、読書が趣味という人は書評ライターとして、得意なスポーツがある人はインストラクターとして、プログラミングが好きな人はWEBサイトなどの制作の他、プログラミング教室の講師としてなど、自分の「仕事」の可能性を広げている人もいます。

また政府は2022年を「スタートアップ創出元年」とし、小中高生を対象とした起業家教育も後押ししています。子どもたちの興味あるものに対する純粋な「好き」という思いを大切にし、それを「もっと学びたい」「社会をよくしたい」という意思につなげることで、新しいビジネスの創造に発展させることができることを学校教育の中で伝えようとしています。

趣味・ライフワークと幸せとの関係

自分が好きなものに没頭できれば、たとえ不安なことや心配事があってもそれらをうまく紛らわせたり軽減したりして、心を落ち着けて安定した時を過ごせます。それは心身の健康にもいい影響をもたらします。また、一緒に活動する仲間を得ることができれば、人とのつながりも広がります。さらに、趣味・ライフワークを通じて何かスキルを得ることができれば、それを活かして社会貢献もできるでしょう。ですから、趣味・ライフワークは人々に豊かな人生を生きる力をもたらすものであることがわかります。

趣味・ライフワークを持っている人と持っていない人との間で幸福度がどのように異なるかをみたものが図3です。趣味・ライフワークがある人は、ない人よりも幸福度得点が高く、幸せと感じている人が多いです。趣味・ライフワークのある生活は、人々に幸せをもたらしていることがわかります。

一般的に、幸福度は50代が最も低く、60代になると上昇すると言われています。50代は定年を前にして、自らのキャリアに不安や危機感を感じやすく、また家庭生活でも、子どもの教育や親の介護など、経済的にも精神的にも負担が大きくなるためです。60代になると、人生の方向性が見えてきて、落ち着きを取り戻していくようです。

ところが、趣味・ライフワークがある人は、50代でも幸福度が下がりません。やはり趣味・ライフワークがない人の幸福度得点は50代が最低となっていますが、趣味・ライフワークがある人は50代も40代までの幸福度得点と同じくらいの水準を維持しています。趣味・ライフワークがあれば、「50代の危機」を乗り越えることができるようです。

オンラインで広がる趣味・ライフワークの楽しみ方

コロナ禍でオンラインの活用が広がったこともあり、趣味・ライフワークにも新たな楽しみ方、参加の仕方が可能になり、自分の関心のあるものにアプローチしやすくなりました。

例えば、芸術・エンターテインメント(オンライン鑑賞)、読書(電子書籍、電子図書館)、スポーツ(ライブ配信)など、多くの趣味活動がオンラインで展開されるようになりました。料理も、レシピ動画やオンライン教室など、オンラインの活用が広がっています。中でも、中高年男性の間でオンライン料理教室への関心が高まっています。在宅勤務になったことで家事に目を向けるようになったのは若者層だけではないようです。これからは、定年後の生活に向けて料理を習い始める「料理男子」も増えることでしょう。

また、「オンラインボランティア」の広がりも注目されています。これにより、社会貢献活動の活動形態の多様化ももたらしました。オンラインであれば、自宅にいながら、全国の支援団体が求める社会貢献活動に参加できます。自らの専門性や得意分野を活かし、翻訳や資料作成、子どもの学習支援などの様々な活動をおこなうことができます。こうした活動を通して、新たな人脈やスキルを得ることができれば、つながりの拡大による楽しみのほか、本業の仕事にも活かすなどの派生効果も期待できるでしょう。

このように、オンライン化が進み、仕事も趣味も自宅でおこなうことができるようになったことで、趣味・ライフワークのメニューも広げやすくなりました。また、働き方の多様化も進み、在宅勤務により通勤時間が削減されたことで、趣味を楽しむ余裕ができた人も少なくないようです。今後は、仕事と趣味・ライフワークとの両立した生活を可能にし、自分らしいライフスタイルをデザインできる人も増えるのではないでしょうか。

今回のコロナは生活様式の変化をもたらしていますが、同時に自分の生き方を見つめ直すチャンスでもあります。皆さんも、これを機に、何か好きなものを見つけて、新しいことに挑戦してみてはいかがでしょうか。