大切にしたい日本のおいしい「塩干」

ワタクシが毎日をご機嫌に過ごせている秘訣。
それは、日々の暮らしに
「好き」がいっぱいあることだと思うのです。

たまに落ち込んで涙したり、
イライラもしますが、
すぐに自分を笑顔にしてくれる
大小さまざまなお気に入りが
身の回りにたくさんあるので
ふと気づくと
楽しく嬉しい気持ちになっているのが常。

ワタクシが能天気で忘れっぽい性格なのでは?
そんなご指摘もツッコミも、ごもっとも。

でも、ワタクシは自分の「好き」を
発見することを
誇らしく日々楽しんでいます。
密かな愛用品、贔屓の店、アガる味。
旅、人、音楽、映画など。
特別なもの、些細なもの、
高価なもの、チープなもの、
もしかしたら、取るに足らないものも!?

そんなワタクシの大切な「偏愛」を
この連載ではご紹介させていただきます。
お付き合いいただけましたら、嬉しいです。

撮影・文/池水みと


「下園薩男商店」https://marusatsu.jp

「塩干」って何かご存知ですか?

初めて聞く方は
???かもしれませんが

「塩干」は
「しおぼし」ではなく
「えんかん」と読みます。

魚介類を塩漬けしたり
干して乾燥させたりした
水産加工品の総称をいうのですが

商品自体のことは
「塩干品」や「塩干物」といいます。

「おいしい塩干教室」

海に囲まれた日本は海産物の宝庫。

旬の時期に豊富に獲れる魚介類は
新鮮なうちに
全てを食べきれないので、
おいしい魚介類を大切に
長くおいしくいただくための知恵が
日本各地で育まれ、
さまざまな塩干物が生まれました。

ワタクシは
この「塩干物」の魅力を
学んで味わうワークショップを
「おいしい塩干教室」と題して
2015年から開催。

日本と世界の塩干物と
豊かな食文化をご紹介しています。

たとえば同じ塩鮭でも
どんな理由で値段に差があるのか、
どうおいしさが違うのか。

深い味わいを生み出す手間ひま、
歴史や文化背景などを
生産者や市場で取り扱っている方から
直接学び、みんなで味わいます。

「おいしい塩干教室」

「塩干物」として
思い浮かぶものはありますか?

お寿司や刺身などで
鮮魚は身近に感じていても
塩干物はピンとこないでしょうか。

でもじつは普段から
塩干物は口にしているはず。

たとえば、

アジ、カレイ、ほっけ
ししゃもなどの
干物

いくら、たらこ、明太子
数の子、子持ち昆布などの
魚卵

しらす干し、釜揚げしらす、
ちりめんじゃこ、
煮干し、たたみイワシなどの
小魚

塩蔵わかめ
乾燥わかめ

干し貝柱や桜海老などの
乾物

和定食には欠かせない
西京漬や味噌漬、
炙っておいしい丸干し

日本酒呑みの好物では
へしこ、このわた、
くちこ、からすみ…

出汁・つゆに不可欠な
鰹節、焼きあご、
マグロ節、サバ節
そして昆布。

ここまで挙げたものは
すべて塩干物です。

「さんつね」https://www.santune.co.jp

おにぎりに欠かせない
昆布の佃煮、塩鮭、
海苔なども塩干物ですし

塩辛、
塩鱈、
身欠きニシン、
するめ…
まだまだあります(笑)

「カネサ鰹節商店」https://katsubushi.com

めずらしい塩干物も
いくつかご紹介しましょう。

鰹節の元祖と言われる
「潮鰹(しおかつお)」は
丸ごとの鰹を
塩漬けしてから乾かされ、
2、3カ月かけて作られます。

お正月に
海上安全や大漁祈願のための
縁起物として神棚にお供えし
大切にされてきましたが
今では西伊豆の田子港でしか
製造されていません。

味はかなりしょっぱい!
でもお茶漬けやうどんにすると
おいしいのです。

「天たつ」https://www.tentatu.com

雲丹の卵巣を塩だけで熟成させ、
ねっとりとした旨味の濃い
「汐うに」はまさに珍味。

おいしい雲丹が日持ちするように
江戸時代に考えられた塩蔵法で
今も福井で作られていますが

耳かきひと匙程度の汐うにでも
口中においしさが広がるので
つい日本酒がすすんでしまいます。

「株式会社ヤマセ村清」 http://www.murasei.com

お正月定番「数の子」は
ニシンの卵。

魚卵は身体にいいのかしらと
敬遠気味の方もいるでしょうか?

でも実はプリン体が少なく
生活習慣病の予防に有効な
DHAやEPAを多く含みます。

そして実は
数の子を食べるのは
世界でも、日本人くらい!

正月に化粧箱入りの数の子を
買い求める方が多いと思いますが
一般的な数の子は、
冷凍ニシンから魚卵を取り出して
塩漬けや漂白をし、成形したもの。

一方、ワタクシが推したい
「にぎりこ」は
産卵調査をするために漁獲された
生のニシンから取った卵を
船上ですぐ塩漬けして作ったもの。

見た目は丸まっていて
見慣れた数の子に
比べると不格好ですが、
漂白もされていないので
卵のうまみと香りが堪能できます。

「にぎりこ」は希少なため
市場でしか見ることができませんが
年末の築地と豊洲市場には
並んでいますので
機会があればぜひ!

「数の子おじさん」

そして、
数の子界の絶滅危惧種と言われる
「干し数の子」も
忘れてはなりません。

よりすぐりのニシンの卵を
カチカチに硬くなるまで
手作業で裏返しながら
天日と浜風にさらして作るので
手間も膨大。

しかも食べるには3〜5日間かけて
水で戻す必要があります。

生産量も激減していますが
独特の歯ざわりを好む通もいるので
料亭などでは今も干し数の子を
使うところがあります。

ちなみに「干し数の子」のセリは
豊洲市場で年にたった一回だけ!

「株式会社ヤママル」https://yama-maru.com

こうした魚食文化は
かつては築地、今は豊洲といった
魚市場に支えられてきました。

市場では
マグロ専門、海老専門、
高級食材を扱う特殊物専門など
カテゴリーごとに専門のプロ集団が
日々魚を取り扱っていて、
塩干物専門のプロもいます。

一方で自由な流通も盛んになり、
小規模でも熱意のある生産者が
全国の直接飲食店や消費者に
直接商品を届けることも
増えてきました。

ですが、国内の魚の消費量は
平成13年(2001年)頃をピークに
減少しているのが現状。

特に一般家庭では
回転寿司や定食屋など
外食で魚を食べる機会はあっても、

自宅調理では肉の方が好まれて
魚が登場する機会がめっきり減り
「魚離れ」が叫ばれています。

「おいしい塩干教室」

そんな現在
スーパーなど量販店で
よく売れる塩干物の定番は

・鮭
・しらす
・明太子&たらこ
・塩サバ
・アジの開き

といったラインナップ
なのだそうです。

焼き立ての魚、
香ばしくてふっくらして
魚の脂がじんわりとして、
おいしいですよね。

この写真のお魚の開きは
国産のものですが
量販店の鮭や塩サバは
約8-9割が輸入物。

例えばチリ産の鮭は
数年前は
1キロ800-900円でしたが
今は1キロ1200円にもなるそう。

近年は海水温の上昇など
環境変化もあって
魚の獲れるエリア、
漁の最盛期、漁獲高も変化。

日本では陸上養殖も盛んに
取り組まれていますが
燃料などコスト高も
気になるところ。

日本の食卓はどうしても
海外の魚に依存気味ですが
ワタクシとしては
日本の魚食文化を
盛り上げたいと思っています。

「株式会社ヤマセ村清」 http://www.murasei.com

釜揚げしらすは
程よく大きさもあり、
やせていない丸っこいものは
舌触りがよくて。
ワタクシも大好きです。

本来ならば
春先の3~5月が旬ですが
2022年は黒潮が大蛇行。
水温が冷たすぎて
しらすの群れも離岸してしまい
春先にあまり漁れませんでした。

近年は
しらすがよく漁れるとされる
時期のピークがずれ
以前の経験則が通用しないそう!

塩干物を専門に取り扱う
仲卸「ヤマセ村清」の
代表取締役社長で
「しらすの目利き」でもある
山崎祐嗣さんに
昨今の塩干物事情について
聞いてみると、

コロナウイルスの影響で
外出控えが加速して
一般家庭での魚消費が増え、
スーパーなど量販店での
販売は伸びましたが
飲食店には大打撃。

2022年4月以降は
一般家庭も外食するようになり
飲食店も持ち直してきたら
今度はウクライナ問題、
円安、原油高騰。

塩干品にとっては、
輸送費高騰で
原料の鮮魚が値上がりはもちろん、
加工するための材料となる
鮮魚自体が
確保できなくなる可能性も!

日本中・世界中から集まる
塩干物を各地に送り出す
豊洲市場も
先行きの不透明さに
悩まされているそうです。

「おいしい塩干教室」20回目記念感謝祭

時代を超えて受け継がれてきた
知恵や技術、そしてうまみが
たくさんつまった塩干物。

「日本の食卓」には
塩干物が欠かせないですし

日本の各地域の気候風土に
根づいた塩干物がたくさんあって、

日本の魚食文化の豊かと奥深さは
知れば知るほど面白いものです。

コロナ禍のこともあり
「おいしい塩干教室」は
2020年以降のリアル開催を
休止していましたが
そろそろ再開できたらと
考えています。

ここではほんの少ししか
紹介できませんでしたが、
塩干物の魅力やおいしさを
たくさんの人に共有していけたら。

ぜひ一緒に日本の魚食文化を
楽しんでみませんか?!


【TIPS】

最近めっきり
魚を食べる機会が減っている方にこそ

どの量販店でも売っていて
手軽に食べられる
しらすは
特におすすめですが、
ここでひとつアドバイスを。

冷凍輸送されたものよりも
チルド輸送のものの方が
劣化が少なく
しらすの食味がいいので
量販店で購入する際には
「チルド」のしらすを
選んでみてください。

「解凍」と書いていない場合は
チルド品です。

ただし、
購入直後に冷凍庫に入れる場合は
チルド品を買う必要はありませんよ〜

【インフォメーション】

おいしい塩干教室
facebook:https://www.facebook.com/enkan.daisuki/

株式会社ヤマセ村清
http://www.murasei.com/

池水みと / MITO Ikemizu
鹿児島ルーツの東京育ち。プロデューサー・編集者・ライター。リクルート在職中にアロマセラピスト資格を取得。フリーランスになってから調理師免許を取得。築地・豊洲の目利きと一緒に日本の伝統的な魚食文化の魅力を紹介するワークショップ「おいしい塩干教室」を主宰。「東京すし和食調理専門学校」が欧州に和食文化を伝える研修活動など海外向けプログラムに企画・通訳で関わる。幼少期にフィリピン、高校時代にブラジルに暮らしていたことから、日本文化への興味が強く、趣味は三味線・茶道・和菓子作り。最近の関心事は健康と予防医学。夢は自作絵本の出版。