コロナ下の家族~暮らしのDX化が家族にもたらした気づき

感染拡大と収束を繰り返すコロナの脅威、日常の問題となった気候変動に伴い、企業と個人の行動の変容を余儀なくされる環境問題、デジタル化が進む中で拡大する経済格差、非接触が求められる中、変化する人間関係……。今、なぜ「ウェルビーイング」なのか。
コロナ以前から四半世紀以上にわたり大規模な生活者定点調査を実施してきた第一生命経済研究所の膨大なデータと分析は、私たちの「越し方、今、行く末」のとらえ方のヒントになり、行動の指針となるはずです。

文/北村安樹子(きたむら あきこ)
第一生命経済研究所ライフデザイン研究部 主任研究員
専門分野は、家族、ライフコースなど
イラスト/ながおひろすけ


3年目を迎えたコロナ下の暮らし

コロナ情報を気にかける暮らしが始まってから、3度目となる夏が近づいています。
2年前の緊急事態宣言では、不要不急の外出や他者との対面接触の自粛といった行動制限が全国的にはじめて要請され、以来、私たちは様々な形で暮らしの変化を経験してきました。
コロナ下での生活が長期化し、常態化した現在では、対処方法がわからなかった当初に比べ、マスクの着用や手洗い、人と人との距離の確保、換気といった基本的な感染対策を行うことがマナーとして定着してきました。終息へのシナリオが依然みえないことに複雑な思いを抱きながらも、これらの新たな暮らしのスタイルを静かに受け入れてきた人も多いのではないでしょうか。

5月には、全国的に行動制限のない大型連休を3年ぶりに迎え、帰省や外出などによる人々の移動が活発化した可能性があります。感染対策を継続し、感染状況がこのまま落ち着くことを願いながら、日々暮らしている人は多いでしょう。

急速に進んだ暮らしのDX化

コロナ禍以前から始まっていた暮らしのDX化は、コロナ禍をきっかけに私たちの日常に一層深く急速に浸透しています。
近年では、小学生以下の子どもたちから70歳以上を含む幅広い世代にまで情報通信機器やインターネットの利用が広がっています。このなかには、1人で複数のスマートフォンやパソコンを所有し、自分専用のタブレット端末やゲーム機、スマートウォッチ等を目的に応じて使い分け、必要に応じて併用するという人もいれば、家族と共用して利用する機器があるという人もいるでしょう。

コロナ下では情報通信機器やインターネットを介して、自宅でテレワークを行う人や、離れて暮らす家族とコミュニケーションを行う人も増えました。このなかには、自宅で仕事をするため、仕事上の作業やコミュニケーションへの差し障りがないよう、テレワークのためのスペースを作ったり、通信設備・機材を新たに整えたりしたケース、家族がふだんと同じように過ごすための環境を整えたり、家事や仕事の時間帯を調節し合うなどライフスタイルを工夫したケースもあったでしょう。

また、家族が自宅で仕事に取り組む姿や、家事や家族のケアを行う姿をお互いに目にする機会が増えたことで、家事の役割分担を見直すなど、ライフスタイルを変える必要性を感じた人もいたかもしれません。

DX化がもたらした時間利用の変化

デジタル技術の広がりは、私たちがいつでもどこでもつながって、コミュニケーションや情報収集を行うことを可能にしました。
外出を自粛する必要のあった時期や地域では、ステイホームの経験を通じてテレビやビデオ、配信動画の視聴やゲーム、SNSやウェブサイト利用など、情報通信機器やインターネットを介して行う趣味・娯楽時間が増えたケースも多くみられました。家族が各々の部屋やスペースで思い思いの時間を過ごしたり、テレビ画面で同じ番組を見ながら手元のスマートフォンで関連情報を検索したり、友人・知人とのコミュニケーションを行って“ながら時間”を過ごす風景は、コロナ前からよくある日常の1コマでしたが、このような場面が増えた家庭も多かったでしょう。
コロナ禍から1年余りが経過した第3波の渦中に行った当研究所の調査でも、同居する家族が自宅等で同じ場所にいながらスマートフォン等を介して別のことをして過ごすことがあると答えた人は、8割近くを占めました(図1)。このように、暮らしのDX化は、自宅という限られた場で家族が互いの気配を感じながら、各々の活動に集中したり、それらの時間を効率的に使ったりする場面を増やしたと考えられます。

また、暮らしのDX化を通じて、家族間のコミュニケーションが増えたり、より豊かなコミュニケーションが生まれたりしたケースも多かったでしょう。そのなかには、異なる世代が時代を超えて同じものに共感したり、親や祖父母が子どもや孫の既成概念にとらわれない新しい感性を知ったり、家族が過ごした時代を振り返ったり互いの今を伝えたりすることを通じて、これまでにない豊かなコミュニケーションの時間を過ごしたケースもあったのではないでしょうか。

ただ、家族の各々がリアルに流れる時間と各々の時間の間を行き来しながら過ごしたり、オフタイムも情報通信機器やインターネットに接する時間が長くなったりしたことで、目の疲れといった健康面や、睡眠不足などの生活習慣が心配になった人もいるようです。また、家族が仕事の都合を優先しなくてはならない場合や、各々の時間や活動に集中し過ぎているのを感じた場合に、スマホやインターネットが家族の時間を侵食しているように思えた人もいるかもしれません。

家族間コミュニケーションの光と影

家庭内のDX化は、コロナ下で在宅時間が増えた家族の暮らしに様々な影響を与えてきただけでなく、リアルのコミュニケーションとインターネットでのオンラインのコミュニケーションが、同時に発生する機会を増やし、家族間のコミュニケーションにも影響をもたらしています。
当研究所が行った先の調査でも、スマートフォン等を介した家族間のコミュニケーションについて、「対面でコミュニケーションをとりにくい家族とのコミュニケーションを行える」「対面での会話が少ない家族やできない家族へのサポートになると感じる」といったポジティブな影響をあげる人が多いことを確認できます(図2)。コロナ下で帰省や訪問がしにくくなり、離れたところに住む家族へのサポートや、生活時間等が違う家族とのコミュニケーションなどにスマートフォン等の情報通信機器が役に立っている様子がうかがえます。

一方で、「対面での会話が少ない家族やできない家族とのコミュニケーションがますます減ると感じる」「家族のつながりが弱まると感じる」といったネガティブな影響をあげた人もみられます。ポジティブな影響をあげた人に比べると少ないものの、対面で行うコミュニケーション機会が失われることや、家族関係が疎遠になることに不安を感じる人もいると考えられます。また、「あてはまるものはない」とした人も一定の割合を占めました。

このような評価には、情報通信機器の利用の仕方や、コミュニケーション手段としてどの程度積極的に利用したいか、家族とのコミュニケーションの重視度や必要性等も関連するでしょう。こうしたツールの利用を好まない人や利用が苦手な人、直接会うことを重視する人等にとっては、否定的な印象をもつ場合もあるようです。双方の心地よいコミュニケーションのためには、コミュニケーション手段の選択や使い方に配慮することが大事な場合もあるのかもしれません。

暮らしのDX化が家族にもたらした気づき

コロナ下で会う機会が減った家族や、ライフスタイルにすれ違いのある家族の暮らしにおいて、情報通信機器を介してコミュニケーションを行えることは、大きな安心感につながったと考えられます。また、コロナ禍をきっかけに急速に進んだ暮らしのDX化は、人々が自宅で過ごす時間の使い方の可能性を広げ、家族間のコミュニケーションに多くのポジティブな影響をもたらした一方、情報通信機器やインターネットの使い方への問題意識や、家族関係に不安を感じさせたケースもあったでしょう。

私たちはコロナ禍を通じて、情報通信機器やインターネットを家族のよりよい暮らしのために利用することの大切さに気づく機会を得たと考えられます。よりよい時間の使い方を考えたり、コミュニケーション手段に対する相手の考え方に配慮した行動を取ったりすることが、自分や家族のウェルビーイング実現にも繋がっていくのではないでしょうか。