土からつくる、ヨーグルト&チーズ

ワタクシが毎日をご機嫌に過ごせている秘訣。
それは、日々の暮らしに
「好き」がいっぱいあることだと思うのです。

たまに落ち込んで涙したり、
イライラもしますが、
すぐに自分を笑顔にしてくれる
大小さまざまなお気に入りが
身の回りにたくさんあるので
ふと気づくと
楽しく嬉しい気持ちになっているのが常。

ワタクシが能天気で忘れっぽい性格なのでは?
そんなご指摘もツッコミも、ごもっとも。

でも、ワタクシは自分の「好き」を
発見することを
誇らしく日々楽しんでいます。
密かな愛用品、贔屓の店、アガる味。
旅、人、音楽、映画など。
特別なもの、些細なもの、
高価なもの、チープなもの、
もしかしたら、取るに足らないものも!?

そんなワタクシの大切な「偏愛」を
この連載ではご紹介させていただきます。
お付き合いいただけましたら、嬉しいです。

撮影・文/池水みと


茨城県石岡市にある
「石岡鈴木牧場」は
循環型の酪農に
真摯に取り組まれている
小規模な牧場です。

鈴木さんご一家は
2代目 鈴木昇さん・ともえさん、
3代目 鈴木績さん・美登里さん、
そして
2019年に誕生した「健土」君。

こちらの牧場に併設された
工房で作られる乳製品は
牛乳の風味がしっかり感じられて
ほっとする味わい。

なんて優しい味!
とってもおいしい!

鈴木牧場の
ヨーグルトを初めて口にした時に
ワタクシは小躍りしました。

これが
鈴木牧場のヨーグルトです。

使いやすい広口の
透明ガラス瓶に入った
1個400グラム入り。

かつて牧場で飼われていた
美人牛「アイス」をモデルにした
ロゴマークが可愛くて印象的。

(この瓶が欲しくて
買いに来る人も多いそうです!)

ブルーは微糖(国産甜菜糖入り)
ブラックは無糖です。

プレーンでも甘味があるので
酸っぱさなどは気にならず。
そのまま食べられます。

牛乳は
草色グリーンのガラス瓶。
1本720ml。

無添加で調整剤不使用のため、
季節によって牛乳の味わいや
滑らかさに変化がありますが、

鈴木牧場は
「自然はいつも同じではないことを
大切にしています」
というスタンス。

夏はあっさり、
冬はこっくりした味。

殺菌以外は手を加えない
ノンホモ牛乳*なので
脂肪分のクリームが
瓶の上部にたまります。

*ノンホモジナイズ(ノンホモ)牛乳とは、ホモジナイズ(均質化)処理をしていない、しぼりたての生乳により近い風味が楽しめる牛乳です。均質化をする場合は、生乳に圧力をかけるなどして脂肪球のサイズを均一にしますが、ノンホモ牛乳は、物理的なダメージを与えられていないので、まろやかな風味が楽しめます。静置しておくと上部に脂肪分が浮いてクリームラインと呼ばれるクリーム(脂肪)の層ができますが、成分は均質化したものと変わりありません。ノンホモ牛乳を使うと、手軽にバター作りもできますよ。

昨今の乳製品では
プラ容器と紙パックが主流ですが
鈴木牧場のヨーグルトと牛乳に
使われているのは
昔ながらのリターナル瓶。

繰り返し利用が可能なので
瓶の製造にかかる
環境負荷を低減できます。

鈴木牧場では、ヨーグルトの瓶を
購入先に返却すると100円返金。
牛乳の瓶には40円返金して
回収率を高めています。

牛乳は毎日気兼ねなく飲めるようにと
価格を抑えていますが、
瓶の回収・再利用ができないと
採算性が悪くなってしまうので
牧場や取扱い店舗など、販売の主軸は
県内にこだわっています。

余談ですが、もし万が一割れても
リサイクルシステムが
しっかりある透明ガラス瓶は
再利用が可能です!

鈴木牧場では、回収した瓶の殺菌に
薬品は一切使用せず、
一個ずつ洗剤で手洗い洗浄してから
100度で高温殺菌。

ヨーグルトの風味を損なわないために
この消毒方法を採用していますが、

ヨーグルトや牛乳をガラス瓶で
商品出荷〜回収〜再利用までを
一貫して行う前例がなく、
保健所からの許可を得るには
苦労があったそうです。

今年2月、しばらくぶりに
鈴木牧場を再訪しました。

牧場が現在飼育しているのは
30頭の乳牛マダムと
まだ小さい牛たち25頭。
約60頭の牛すべてに名前をつけ
家族のように大切に育てています。

仔牛は誕生してから2カ月間は
胃袋が十分に発達しておらず
草が食べられないため
煮沸したミルクのみで育てられます。

次第に、食べ遊びをしながら
お腹に微生物を増やし、
草を食べられるようになります。

牛舎では
年齢別に牛たちが分けられています。
体重は1歳で約300kg。
2歳で約500kg。
2歳すぎるとお産が可能になります。

鈴木牧場の牛たちは皆元気。
しかも年々寿命が延びているそうで
現在の最高齢は11歳!
お産を控えたママ牛もいます。

近づいて写真を撮ろうとしたら
全員総立ちになってしまいましたが…

どの牛も毛艶よく、
くつろいだ様子で横になりながら
奥歯を磨り潰すように
もぐもぐ、も〜ぐもぐ。
口をずっと動かしていました。

それにしても、臭いがしない!

牧場や動物園に行くと
独特の臭いを感じることありますが、
こちらの牛舎は全く臭くありません。
(目の前でモリモリ糞をしていたのに!)

むしろ土や森のような
自然な香りが漂います。

…実はこれこそが
健康な飼料で
健康に育った牛の証なのです。

突然ですが、
これは何だかわかりますか?

これは鈴木牧場の畑で育てた
飼料用トウモロコシを
皮も芯も身もすべて細かく断裁し、
2カ月かけて発酵させたもの。

お漬物のすぐきのような
良い香りがします!

牧草やトウモロコシだけでは
産乳のためのカロリーが足りないので
ほかにも穀類の飼料を給与しますが、

鈴木牧場の飼料に
ブレンドされているのは、
・麦
・ふすま
・細かく粉砕した大豆
・ミネラル類
・粉砕したトウモロコシ
など。

輸入の子実トウモロコシを与える
酪農家が一般的には多い中、
コストよりも安全性の高いものを
使いたいと考える鈴木牧場では、
千葉県の農家から
国産品を直接入手しています。

日本の多くの酪農家は
こうしたペレット状の飼料や
トウモロコシなど
栄養価の高いエネルギー飼料を
たくさん牛に与えて
乳量増加を図ります。

それに対して鈴木牧場では
与える飼料のうち
穀類はわずか2割程度。

本来、草食動物である牛には
草をたくさん食べさせて
健康に飼いたいと考えているからです。

鈴木牧場では
飼料用トウモロコシのほかに
牧草も自給しています。

初夏に収穫した牧草を
ロール状にして保管し
1年間かけて消費するのです。

ロールを解くと、
牧草は少し湿り気がある状態。
しかも発酵しているので、
自家製トウモロコシ同様に
漬物のすぐきのような香り〜!

実際に草を口に含んでみると、
ほんのり甘さがあって、
心地よい酸味もあって、
フルーティに感じるほど!

噛めば噛むほど味が染み出し
口の中には唾液が!

この自家製牧草を
鈴木牧場の牛たちは
1日1頭あたり約30-40kg
食べているそうです。

1日2回の食事では
穀類などをあげた後、
ラストに発酵した自家製牧草を
与えるそうですが、

「どんなにお腹がいっぱいでも
これだけは別腹みたいで
牛たちはいつも全部ペロリと
食べてしまうんですよ」と
美登里さん。

こんなにおいしい牧草を
たっぷり食べさせてもらえて!
しあわせ者な牛たち。
その食べっぷり(速い!)からも
食欲旺盛な健やかさが分かります。

さてこちらは、輸入物の牧草。
完全に乾かされた状態で
短く裁断されています。

胃袋の容量がまだ限られる
仔牛にとっては
こうした乾草が食べやすいので
牛の成長に合わせて
牧草の配合を変えているそう。

ですが、コロナウイルスや
目覚ましい中国の経済成長の
影響もあって、
乾草の輸入調達が
困難になっていることを
お聞きしました。

2月時点、牛舎に隣にある畑には
牧草となるイタリアンライグラスが
育っていました。

腰丈まで育つ5月には
牛が噛むのにちょうど良い硬さの
タイミングを狙って刈り取り。
(この見極めが難しい!)

牧草を育て終わった畑は
再び興され、堆肥をすきこんでから
トウモロコシを栽培。
10月には収穫します。

鈴木牧場では
農薬除草剤を使用せず、
化学肥料は一切使いませんが

かなりの労力をかけて
堆肥づくりをして
おいしい飼料を育む
良質な土をつくっています。

牧草畑の奥に見える建屋は
堆肥づくりのスペースです。

堆肥は、集めた牛の糞に
茨城産の木の根や幹などのチップ
米糠などを混ぜて堆肥場に置き、
微生物の働きでつくります。

堆肥を少し掘ると湯気が!
なんと中の温度は約70度!
悪い菌は死滅してしまいます。

白い粉末に見えるのは、放線菌。
糞の香りは皆無で
山の土のような良い香り〜!

半年ほどかけて作った堆肥は
さらに半年ほど寝かせてから使います。

シンプルなようですが、
この堆肥作りの方法に行き着くまでに
2代目の鈴木昇さん・ともえさんは
10年間を費やしたそう。

取り組み始めて最初の5、6年は
全くうまくいかず。でも
堆肥の質が少しずつ上がるにつれて
畑でつくる飼料の質も良くなり、
牛も病気知らずになって、
ようやく確信をもてたそう。

よい堆肥づくり、土づくりは
一朝一夕では為し得ませんが、
まさに酪農の根本なのです。

鈴木牧場の
飼料自給率は約6割ですが
この先は
牛に与える牧草やトウモロコシを
できる限り自家産にして、
穀類は地元で作られた
国産飼料に切り替えていきたいそう。

すでにコロナ禍中に畑を増やし、
現在の総面積は9ヘクタール。
(同じ畑で1年に2回作物をつくるので
作付面積はのべ18ヘクタール!)

ただ、農地は増やしても、
牛の頭数は増やさずにいるそうです。

畑に良質の堆肥をすきこみ、
そこで育った牧草や
トウモロコシを牛が食べ、
健康に成長して、
その糞がまた堆肥となる…

この循環型の酪農の
質を高めていくことを
鈴木牧場は目指しているのです。

美登里さんの話で印象的だったのは

「新しいものを次々つくることだけが
前に進むことではないと考えています。
目指しているのは、
食べ飽きないヨーグルト、
安心できる牛乳をつくること。
牛を大切に健康に飼って、
もっと良くしていきたい」

という心意気。

誰かの生活の一部、
定番の味になること。

でももしかしたら、
そこを追求することが
一番の本質なのかも。

鈴木牧場のヨーグルトやチーズは
嗜好性のある個性派ではなく、
子どもが食べても安心。
プレーンで実直でやさしく、
牛さんの存在感を感じるような
包容力のある味わい。

ワタクシも実は乳製品が
得意ではないのですが、
鈴木牧場の乳製品はどれも大好き。

牛乳と乳酸菌しか入っていない
ヨーグルトは、
そのまま食べても
料理に使っても良いですが、

ワタクシのおすすめは、
微糖タイプを
ほんのり温めた金鍔や芋羊羹にかける
組み合わせ方。
アップルパイにかけても
おいしいかもしれません。

途中まで食べ進めた
ヨーグルトの瓶の中に
ドライマンゴーを入れておけば
しっとりプルプルな
食感最高のおやつに!

モッツアレッラチーズは
ミルキーでとろけます。
シンプルにいただくのがベスト。

受注生産で販売されている
リコッタチーズは
とてもミルキーでふんわりして
軽く食べられます。

さけるチーズは食感むっちり!
子どものおやつにも最適。
クミンやペッパー、バジル味は
晩酌にも◎

さて、多様なオリジナル商品があり
地元にファンも多いというのに

鈴木牧場で搾乳される生乳のうち
7割は牛乳メーカーに卸していると
お聞きして、驚きました。

残り3割を
自家製チーズやヨーグルトに加工して
直接消費者に届けているのです。

あんなにこだわって作った牛乳を
他の牧場の牛乳と同単価で売り、
しかも他の牧場の牛乳と
混ぜられてしまうなんて…

…もったいない!良いのですか?

すると美登里さんは
「製造の手間、売り切る手間、
配達なども考えると、
7:3が今のベストバランス。
7割が牧場経営の安定基盤。
3割はクオリティを上げる原動力。
消費者との接点も大事ですが、
経営を成り立たせるには
どちらも必要。」

ちなみに現在では
加工品販売が生乳販売よりも
売り上げで上回っているそうです。

「外注も委託もせず
4人家族とパートさんで
運営している牧場なので
いかに【適正規模】で運営するかを
考えることが大切なのです。
環境負荷への意識も高くありたい!」

サステナブルな酪農の
本質的なスタンスを
見せられた思いがしました。

チーズやヨーグルトは
牧場での直売もしていますが、
茨城県内では常総生活協同組合や
取扱店舗、マルシェで販売。

茨城県では10店舗ほどの
こだわりのカフェやレストランで
メニューでの取扱いがあり、
地元の人たちに支持されています。

都内からだと
ネット通販のみとなりますが

Blue Bottle Coffeeの
青山・六本木・渋谷の
カフェ3店舗では
鈴木牧場のヨーグルトが
オンメニューしているそう!

ケーキに練り込んで使っていたり
グラノーラと一緒に提供されて
いるのだとか。

(しかもブルーボトルは各店舗が
自費で空き瓶の返却発送を実施。
意識が高い!)

効率や搾乳量最優先ではなく
牛の健康を第一に
愛情たっぷりに
地域に根差しながら
家族で経営されている
鈴木牧場の乳製品は
「牛乳臭いのはが苦手」
という方にこそ味わって
いただきたいなあ!

ほんとうに
幸せな気持ちになりますから!

そして今はコロナ禍のため
親子参加ができると大人気の
「牧場見学&チーズ作り体験」が
お休み中ですが、
再開が待たれます。

牛に触れて、土を匂って
牛乳のおいしさの理由を
全身で体感しながら
おいしい食べものがどう作られ
自分の手元に届いているのか
食べる側の意識も変わる
楽しくて勉強になるので
機会があればぜひ!

【インフォメーション】

石岡鈴木牧場ヨーグルト・チーズ工房
茨城県石岡市大砂10383-1

営業時間:10:00-16:00
定休日:水曜日

TEL&FAX:0299-23-1730
ishiokasuzukifarm@gmail.com

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通販注文先
*牛乳は店頭販売のみ。通販不可
https://form.run/@ishiokasuzukifarm

池水みと / MITO Ikemizu
鹿児島ルーツの東京育ち。プロデューサー・編集者・ライター。リクルート在職中にアロマセラピスト資格を取得。フリーランスになってから調理師免許を取得。築地・豊洲の目利きと一緒に日本の伝統的な魚食文化の魅力を紹介するワークショップ「おいしい塩干教室」を主宰。「東京すし和食調理専門学校」が欧州に和食文化を伝える研修活動など海外向けプログラムに企画・通訳で関わる。幼少期にフィリピン、高校時代にブラジルに暮らしていたことから、日本文化への興味が強く、趣味は三味線・茶道・和菓子作り。最近の関心事は健康と予防医学。夢は自作絵本の出版。