加点法的な思考を身につけることで、どんな幸福感を得られますか?(ゲスト:文筆家/甲斐みのりさん)

これまでになかった視点や気づきを学ぶ『ウェルビーイング100大学 公開インタビュー』。第5回は、文筆家の甲斐みのりさんです。お菓子の包み紙、レトロなお店、地元パンやおやつ……。あらゆる好きなものにスポットを当て、それを輝かせてしまう甲斐さん。「好き」なものの見つけ方や「加点法的」な思考についてうかがう、楽しい時間でした。

聞き手/ウェルビーイング勉強家:酒井博基、ウェルビーイング100 byオレンジページ編集長:前田洋子
撮影/原幹和
文/中川和子


甲斐さんの好きなものちょこっとご紹介 その① お菓子の包み紙

子どもの頃からのときめき体質は、今の“推し”と同じ

酒井:今日は節分だったので、対面だったらみんなで恵方巻とか食べながらやれたらよかったんですけれど。ちょっとコロナの感染者数も増えてきたので、リモートでのインタビューということで。

甲斐:よろしくお願いします。

酒井:甲斐さんは旅や散歩、お菓子、手みやげ、クラシック建築やホテル、雑貨と暮らしなど、多岐にわたっていろいろな書籍を手掛けられています。『地元パン手帖』とか『お菓子の包み紙』とか『東京のおいしい名建築さんぽ』とか。建築であったり、お菓子であったり、パンであったり、もう本当に多岐にわたっていろいろなことを好きになる、興味を持っちゃう体質なのかなと思うんですけれど(笑)。興味を持つきっかけって、何か共通点があったりするんですか? それとも心惹かれる、ピンとくる、「わー、このパンのパッケージ、カワイイ」とか、そういう瞬間があるんですか?

甲斐:そうですね。もう子どもの頃からときめき体質というか(笑)。いろいろなものにときめいて、それを好きになったら、とことん追求してしまうというのがあって。子どものころは本当にそれがアイドルだったり、絵本とか普通に本とかも好きでしたし。物心つくころからお菓子の包み紙なんかが好きで。

酒井:子どもの頃からですか。

甲斐:アイドルっていうと、人というイメージがありますけれど、私の場合はお菓子の包み紙でも、お菓子とかパンとかすべてがアイドルなんですよね(笑)。好きなアイドルを写真に撮ったり応援したり。今、“推し”とか言われてますけど、それが常に子どもの頃からいて。それは人やモノ、どちらでも隔てなく自分にとってのアイドルとして、好きなものを応援して、それに向かって自分も突進する、みたいな。

酒井: “推し”の感覚なんですね。

甲斐:昔、オタクとか言われてましたよね(笑)

前田:言ってましたね(笑)

甲斐:いろいろなものが“推し”で、“推し”を持っていると、だいたいみんな擬人化してくるんです。パンでもお菓子でも「カッコいいな」とか「カワイイな」とか「紳士的だな」とか。人と同じような感覚で見えてくるというか。それが楽しいですね。

酒井:それ、すごくおもしろい視点ですね。そういうものに、どういう時にときめくといいますか、出合うんですか? 散歩していたり、お買い物していたり、旅をしている最中とか?

甲斐:私、友達と一緒に歩いていると、けっこうビックリされるんですけど、私が「わー!」って言って突然走り出したりして、危ないって言われるんです(笑)。子どもみたいに、お店の看板とか、店構えとか、自分の胸をときめかせるものを見つけると「わー!」って走り出しちゃうんですよ。

前田:(笑)

甲斐:あと、常に次の場所に行きたくてしかたなかったりして、小走りになって(笑)。「京都で見かけた」って言われたことがあって、その時も「小走りでした」って(笑)。今いる場所からさらに次の場所に向かって、そこに早くたどり着きたい、みたいな想いがあふれてしまって。

酒井:もう完全にアイドルの追っかけですよね(笑)

甲斐:でも、そうしている時が本当に幸せで楽しいですね。

酒井:その時は視界が広いんですか? 広いのか狭いのか? それともアンテナの張り方なのか。

甲斐:通常は風景の全体が見えていますが、ふとした瞬間にときめきを感じるものと目が合うんです。

前田:モノと目が合う?

甲斐:それが看板とか建物とか、お菓子とかが対象物だったりするんですけれど、そうするともう、ときめいたり、ちょっと恋に落ちる感覚っていうか(笑)

酒井:じゃあ、建築もお菓子もパンのパッケージも、ジャンルは違っていても、何かときめくみたいな感じで、出合っちゃった。その中に共通項みたいなものってあるんですか?

甲斐:はい。大きな感覚はときめくっていうものなんですけれども、そこからやっぱりそのものをもっと知りたいということで近づきたいんですよね。まず近づきたいし、触りたいし。そのものの後ろに隠れている物語を知りたいし。それで、写真も撮りたいし(笑)。もう本当にあらゆる感情が。でも、やっぱり知りたいっていう欲求がすごく多いのかもしれないです。そのものに対して。

酒井:擬人化していただいたので、すごくわかりやすいといいますか、ルックスのところが入り口になっていて、そこからちょっと人格や生い立ち、人の奥行きみたいなところに入り込んでいきたいみたいな、そういう感覚なんですか?

甲斐:そうです、そうです。で、建築物なんかもそこの中のあらゆる素材とかもそうですし、誰が建てたとか、そこでどんなことが過去に行われてきたかとか、あらゆる物語が詰まっていて、それを知ることが楽しい。

前田:知ることは楽しいですね。

甲斐:「人生、知らないことがまだまだたくさんある」と感じることがすごくうれしい(笑)

酒井:甲斐さんは、本当にどこを歩いていても楽しそうですね。

甲斐:今、自分が暮らしている街を歩くことも好きですし、旅に出て知らない街を歩くことも好きです。自分が住んでいる街でも、本当に1本道を変えたりすると、10年住んでいて初めて気がついたっていうものがまだまだたくさんあって。よく哲学的にも「無知の知」とか言いますけれど、自分がいかに知らないか、知れば知るほど「知らない」ってことを知っていく喜びになっています。

酒井:好きなこととか、ときめきがあるっていいですね。日常の中でそういうものに出合えるとか。

甲斐:私、子どもの頃からいろいろなものにときめいて、収集癖みたいなものがあったんです。でもそれは、世の中ではあまり価値がないとされるもので、ケシゴムや匂い玉とか集めたりとか(笑)。

前田:集めますね。

甲斐さんの好きなものちょこっとご紹介 その② お菓子の箱

甲斐:シールとか、そういうものを集められる範囲で集めていたんですけれど、大人になってからは喫茶店のマッチとか、お菓子の包装紙とか、そういうものを集めるのが好きになっていて。

スケッチブックを言葉で埋めようとしたら、街が違って見えた

甲斐:私はいつか文章を書きたいと思って、芸大の文芸学科というところに進学したんですが、実際芸大に入ってみると、一切将来が見えなくて。就職活動をしている人も周りにいなければ、就職できる気配もないですし(笑)。ましてや物書きになれるなんていう未来も一切見えなくて。で、大学3年生くらいの時に、ちょっと今でいう“ひきこもり”とか、うつ状態に陥ってしまった時がありまして。

前田:ああ、そうでしたか。

甲斐:ちょっとした時に涙が出てきたり、将来どうしようかと不安でしかたがないっていう、そういうところにハマってしまいまして。でも、どうにかそこから抜け出さなきゃ、って自分でもがいた結果が、一冊のスケッチブックを言葉でうめることだった。絵やデザインや他の学科の友達がスケッチブックを持って、学校に来ているのがうらやましくて。「あー、それいいな」と思うことは真似しようと思って。「じゃあ、私は絵が描けないから、文字を書こう、言葉を書こう」ってまず思ったんですね。みんなが絵を描くように言葉をスケッチブックに書いていこう、じゃあ何を書こうって思った時に、子どもの頃に『愛少女ポリアンナ物語』っていうアニメがあって、そこではポリアンナが「よかった探し」っていうことをするんですよ。

酒井:ほう。

甲斐:大変な生い立ちなんですけれども、必ず1日の最後に「よかった」って思えることを探して、それで1日終わるっていうポリアンナが好きで。じゃあ、私はよかったことというよりも、スケッチブックに自分が好きなこととか好きなもの、好きな言葉、好きっていう感情を言葉にして、このスケッチブックを1冊埋めることができたら、自分はこの先行きが見えないどん底みたいなところから抜け出せるっていうジンクスを勝手に作ろうと思って。

酒井:なるほど。

甲斐:おまじないみたいなものですね。子どもの頃に枕の下に好きな人の名前を書いて寝る、みたいな。そういうことをしていたんで、自分でジンクスを作ったんです。それで本当にスケッチブックを買ってきて、最初は自分の部屋の中にあるもの、今こうして見えている本のタイトルとか、好きな映画の名前とか、音楽の名前とか、そういった単語を書いていたんですけれども、スケッチブック1ページで、その先書くことがなくなってしまったんですよ。

前田:1ページで埋まってしまった。

甲斐:引きこもってたんですけれど、じゃあ部屋の外に出てみようと思って、自分の住んでいる街の駅ぐらいまでちょっと歩いてみたら、今まで見えていなかったカワイイ喫茶店の看板とか、商店街の風景とか、すれ違うおばあちゃんの服装がカワイイなと思えたりとか。その「言葉を書こう」という目標ができたら、見えていなかったものが急に見えるようになったんですね。

酒井:よかったですね。

甲斐:でも、自分の住んでいる街でも、すぐにまた限界がきてしまって。次は電車に乗って、街へ。大阪に住んでいたので、心斎橋に行ってみようとか、天王寺に行ってみようとか、外に出ていくようになって。それで、そこで見つけた「いいな」と思ったものを書きたくて書きたくてしかたがない。早くスケッチブックを埋めたいんで。すると今までなんとも思っていなかった街の中が急に色づき始めて、くっきりといろんなものが浮かび上がって。「あ、これはいいな」と思うものがあればるほど書けるので。言葉でスケッチブックを埋めたいという気持ちから、どんどん街の中で「いいな」って思うものが、浮かび上がってきて。

前田:すごい変化ですね。

甲斐:それをしばらく続けたことによって今の自分ができているというか、どんな場所、どんな街、どんな条件でも、わりと瞬発的に「いいな」って思えるものを、「好きだな」って思えるものをパッと見つけられるようになったんですよ。

酒井:ときめき体質がより手法化したんですね。すごく自覚的になって、それを言葉で書き出そうとするからこそ、視界が広がってきたって、すごくおもしろいですね。

甲斐みのり流、好きなことの見つけ方

甲斐:それが仕事にも活きて。初めて行く取材先でも、お店、空間に入った瞬間に「ああ、自分はここが好きだ」って、パッと判断ができて、それを一緒にいるカメラマンさんに「あそこを撮ってください」と伝えています。魅力的に見えるという部分とか、話を聞きたいということも瞬時にひらめくようになりました。最近、自治体の仕事をよくしているんですけれども、よく自治体さんって「自分の街には何もないんですよね」っておっしゃるんです。

前田:言いますね。

甲斐:「何もない街なんてありません」っていうか、むしろ何もないって言われたら心が燃える、みたいな(笑)

酒井:あはは。

甲斐:「私は見つけます! 好きを見つけます!」っていうふうに、自信を持って。それが今、喜びだったりするんですけれど。

酒井:そのスケッチブックに書き出していく言葉というのは、どういうレベル感で書き出していったんですか。単語なのか、20文字くらいの箇条書きみたいな文章として書き出すのか、書いているあいだにだんだん書き方が変わってきたのか。

甲斐:最初は単語が多かったですね。猫とかワンピースとか、単語だったのが、そのうち限界がくるので、“猫の爪”というふうにより具体化していって。

酒井:はいはい。

甲斐:どんどん言葉が増えていくんですよ。単語が「なんとかの何」になったり、それがどんどん文章っぽくなって、詩っぽくなっていったりとか。でも、ルールは作っていなくて、いいと思ったものなんでも書いていたので、街中で聞こえてきた歌のフレーズもいいし、映画を観ていてセリフも書いたりとか、もう何でも書くようになりました。

酒井:フラットに見えていた風景が、急にときめくものにフォーカスされるようになってきて、それがズームアップしていくような。ディティール、解像度が上がったりとか、もうちょっと俯瞰して見たりとか、一つの対象物でもいろいろな見方をするような感じになってきた?

甲斐:そうですね。で、それを感じたまま自由に、ルール化せずに、とにかく書くということを続けることで。ポイント、スタンプを集めるとか、子どもの頃ラジオ体操に行ったらスタンプを押してもらえるとか、ああいうのにも似ている感じで、増えれば増えるほど、自分がちょっとした達成感を得られて。それまで本当に大学生の頃は何者でもない自分みたいなことに悩んでいたんですけれど「自分ってこんなに好きなものがあるんだ」っていうことが、どんどん自信になってくるんですよね。それにすごく救われて、助けられて。あんまり自信がなくても、自分の好きなものをどんどん愛でていくことで、その「何者でもない自分」というのが埋められるんじゃないかと思ったんです。

前田:なるほど。

甲斐:実際、今も、私は小説を書いたりしているわけではないので、自分の自己表現というよりは、やっぱり自分自身の好きなものを公開する仕事なんですよね。それは、好きなものを集めてノートに書いていたのが進化している感じで。

酒井:自分の好きなことって、甲斐さんのように習慣的に取り出してみようという感じにしないと、意外とあいまいなままだったりして。「次、何しようかな?」と思った時に「何が好きだったっけ?」って、思い出そうとしてもなかなかつながらなかったり。書き出していくって、すごく大事ですね。

甲斐:昔はそれを実際にノートに書いていたんですが、最近はもうスマホのメモ機能を使っていますね。いちばんはノートに自分の文字で書けたらいいなって思うんですが、電車の中とかでそれをするのも大変なので、そういう時はスマホのメモで、いいなって思ったものを書きます。お金をかけずにどんな時間でも楽しめるので、病院の待ち時間とかでも。今、歯医者に通っているんですけれど、歯医者に行くたびに待合室でも「ああいい、好きだな」って思えるものが見つかったりして。

甲斐さんの好きなものちょこっとご紹介 その③ 成り立ちを知りたくなるお菓子

加点法で物事を見る。マイナスは語らない

酒井:今日のテーマでもある「加点法的思考」というのが、すごくわかってきたような気がします。それは「今日入ったこのレストラン、失敗だったな」って思うと、書けないわけじゃないですか。

甲斐:そうそう。そうなんですよ。

酒井:加点法なら「不味いけど店主さんの顔がいい」とか(笑)。そんな感じでも書けちゃう。

甲斐:そうそう。ノートに書き始めた頃に、大阪から京都に引っ越したんですけど、京都に今はなき「クンパルシータ」っていう喫茶店がありまして。おばあさまがされている喫茶店なんですけれど、そこはもう、行ったことのある人たちは「コーヒーが来るまでに自分は何分待ったか自慢」みたいなのが(笑)。

一同:(笑)。

甲斐:「私は1時間待った」とか。「そんなことある?」と思いながら私も行ってみたら、私は結果40分だったんですよ。「1時間、超えなかったー」みたいな。そこではみんな、出てこないのでイライラするんじゃなく、いかに自分が待ったかが勲章。そこで30分も待たされた、1時間も待たされた、とかじゃなくて。おもしろいじゃないですか。あまりに出てこないと、不安になって聞く人がいるんですよ。私は黙って待ってたんですけれど、隣の人が「えーっと、覚えてます?」みたいな(笑)。おばあさまは「わかってます、わかってます」みたいな感じなんですけど、わかっててコーヒー1杯に1時間かかるんだっていう(笑)。そういうことを経験したら、おもしろがることが自分の役割というか、本を作ったり、文を書いたり、人に伝えたりっていう役割でもあるんだなぁと思うようになったんです。

前田:おもしろいですねえ。。

甲斐:今ももちろん、いろいろなお店に入って、味が合わなかったとか不機嫌な店主にあたったとか、いろいろあるんですが、それをそのまま持ち帰るのが悔しいっていうか、貧乏性でもあるので(笑)。それを「おもしろい」に転換して、人に話したいんですよ。

酒井:いいですね。

甲斐:「はーっ」という落胆じゃなくて「おもしろかったんだよー」って話せるし、それを話せる仲間がいるってこともうれしい。

前田:それは素晴らしい。

甲斐:友達も同じように、旅先とかお店とかでいろいろな体験をしたことを、普通は「嫌だった」って終わってしまうかもしれないことをおもしろおかしく話してくれる。で、私も「ああ、またこの友達に話せる」とか(笑)。ちょっと相性が悪かったお店でもおもしろ話に転換して。

酒井:めちゃくちゃおもしろいですね。いつも退屈を感じている人に、ぜひこの加点法的思考を取り入れていただきたいと思うんですけど。そういう人は、甲斐さんみたいに、ノートに書いていけば変わっていきますかね?

甲斐:はい、ぜひ。ノートに書いてみてほしいです。あとは、いいなって思うことを集めることも、もちろんして欲しいですし。それから逆説的な捉え方で、買いたい本を検索すると、だいたい(評価する)星の数が出てきますよね。

前田:あ、そうですね。

甲斐:それで、星の数が少ない、星の数が1とか2とかばっかりのコメントを読んでみて欲しいんです、まとめて。低いものばかりを読んでみると、まず気持ちがどよーんとしますよね。星が1とか2とかっていうことが、減点法で成り立っていることがわかると気がつくんですよ。星の数が多いものを読むよりも、少ない方を連続して読んでいくと、逆に学ぶところがたくさんあるというか。いやもう、いっぱいいっぱいです、ってなるんですけど、こうじゃダメだって思えるんですよね、私は(笑)。たまにやるんですけど、それを(笑)。

前田:珍しいですね。

甲斐:もう、この思考ではいけないぞって。“いかに店や人や外の環境が自分を満足させてくれなかったか”ということを語るより、自らが”楽しもう“としていかないと、絶対に変わっていかないと思うんです。多分、延々と同じことを繰り返すと思うんです。「さあ、私を満足させてみて!」って。世の中、合わないお店、合わない場所だらけなんですよ。街や環境に飛び込んでいった時に、自分がおもしろがるようにつかみにいかないと。だから私は、合わない時はシャッターをサクッと下して、その先は語らないっていうようにしてるんです。マイナスを語らない。「合わない」「本当に合わない」「おもしろくも語れない」と思った時は(笑)、もう潔く次に行くっていうふうにしています。すると、楽になりました。

大人になると、許せないことを共有できるほうが友達になれる

酒井:マイナスとして掘り下げるわけではなく、パシャって閉じる(笑)。加点法と減点法がなんとなくわかってきたんですけれど。もう1パターンあるなと思っていて。最初から期待値を持たない、みたいに。期待するから人って傷つくんだ、みたいな感じの人もいると思うんですよね。減点法でも加点法でもなく、甲斐さんの「閉じる」みたいな感じの感覚に近くて(笑)。あえてなんですけど、その加点法が災いすることがあったりするんですか? 

甲斐:災い?

酒井:団体行動より個人で行動する方が好きになっちゃうとか。

甲斐:団体行動はやっぱり苦手で、あと基本的には人見知りも激しいですし。なじまないみたいなところはあるんですけども(笑)。自分と違うものに自らなじまないこともすごくあるんですが。でももう、よしとして諦めてきちゃったんで。中学生くらいまでは馴染もうと努力してたんですけれど「馴染まなくていいんだ」と思うようにしたから、自分の世界、好きっていうものに没頭しやすかったというのはあるんです。人がこうだからとか、流行とか、みんなが持ってるからとか、みんなが好きとか、そういうものに合わせなくていい楽さ、みたいな。で、今は、逆にこうやって好きなものを語れるようになってきたのですが、でも中高生ぐらいは好きなものは隠してました。

前田:そういうこと、ありますね。

甲斐:同級生は、X-JAPANが好きって言ってるけど(笑)、私はフリッパーズ・ギター(The Flipper’s Guitar)っていうのが好きで(笑)。それを言わずに秘めている方が、その頃は楽だったんです。大学に入ったらやっぱり、同じような人がいっぱいいたんですよ。全然対象物は違うけれど、「好き」っていう熱量をすごく持っている人たちに出会えて。だから好きなミュージシャンもみんな違うんですけど、お互いの好きなミュージシャンのライブについていき合って、私もついていくからついてきて、っていうようなことを共有できたことによって「あっ、好きなものを持ってる人と一緒にいるって楽しいんだ」って。

甲斐さんの好きなものちょこっとご紹介 その④ 乙女心をくすぐるお菓子

酒井:同じものが好きじゃなくても、好きっていうものに対する熱量が同じ人と一緒にいるっていうことが楽しかったんですね。

甲斐:そうですね。だからその頃思ったのが、友達って100人要らないなって(笑)。友達100人できるかなっていうより、濃厚な友達が身近に何人かいてくれればもうほんと幸せ、満足! みたいな感じで(笑)。もちろん増えていけばそれも楽しいんですけど。

酒井:この「ウェルビーイング100」っていうメディアも、人生100年時代のウェルビーイングについて考えてみる、みたいなメディアなんですけれど。ウェルビーイングって、心身が共に健康であるっていうのも大事なんだけれども、人とのつながりも、いい状態であるためには、とても大事なことというふうにも言われていて。そのつながりも、今、甲斐さんのお話を聞いていると、たくさんなくていいんだな、みたいな感じがします。

甲斐:大人になって、すごく思ったことって、20代くらいの頃は、好きなことが一緒の子のほうが友達になれるって思い込んでたんですけれど、大人になったら、好きなことよりも、許せないことっていうか「自分はこれはないな」って思うことが共通しているほうが仲良くなりやすいなってことに気がついて。で、好きなことっていうのは、あとからいくらでもついてくるっていうか。許せないことっていうのは、たとえば、本当に些細な、一緒に行ったお店で店員さんに怒るとか(笑)。だったらもう、一緒にいられないし。

酒井:はいはい。

甲斐:そういう些細なことなんですけど。そうじゃなくて、仕事をする上でも自分のやり方と同じだったりとか、「ありがとう」が言えるかどうかとか。そういうところが一緒だと、お互い別々に好きなものを持っていても、それを共有できたり、もしくは共有しなくても、あなたには好きなものがある、私にも好きなものがある、ってお互いに自然に認め合える関係が楽に築けるんで。大人になったら本当に、楽っていうことが今すごいキーワードで。

一同:ああ。

甲斐:20代30代、人間関係でもいっぱい傷ついてきましたし、仕事でもうまくいかなかったことがいっぱいある中で、やっぱりこの先の人生は楽にいたいなあって。つらい人間関係をうじうじと持つよりは、そうじゃないことに費やしたいなって思うように。

酒井:好きなことであったり、いろんなものでつながってる人と大切な時間を過ごしたいっていう感じですかね。そういう状態と幸福感といいますか、好きっていうものがハッキリすることとか、広がっていくこととか、幸福感ってどういう感じでつながっていると思いますか? 

甲斐:今のように思い至れるようになったっていうのも、本当にここ数年で。それまでもっともっといろいろ苦しいこともあったんですけど。あ、加点法っていうのはずっともう20年くらいやっているんですけれど。その中でもやっぱりつらいことに気をとられてしまう、もやもやすることが多かったりした中で、やっぱりこのコロナ禍とかもすごく大きい出来事なんですけど。自分に何が必要で必要じゃないか、必要だったものとか必要じゃなかったものとかも、よりハッキリしてきて、いい意味で「諦め」みたいなことも、諦めさえいいことなんじゃないかって思うようになった。諦めることは悪いことじゃなくて、自分を楽にするための1つの手段なんだなと思って。それ以上もう頑張ろうとしなくていいし。まあ、その、すごくつらい方を選ばなくていいし、とか。そういう時に、このコロナ禍の、ちょうどコロナが同じタイミングだったのか、思うことがすごく大きくて。

スーパーから日本国中へ。地図に印をつけて楽しむ

酒井:甲斐さんが「好き」を書き溜めていく、そういう習慣以外にも、日常とか旅先とかでされている習慣ってあるんですか?

甲斐:そうですね。私、旅先とかでも、ガイドブックに載っている大きな観光施設じゃなくても、スーパーとかが自分のパラダイスだったりして。

前田:スーパーですか。

甲斐:初めて行く旅先のスーパーだったら大きなパラダイスなんですけれど、最近気がついたのが、自分が住んでる街のスーパーでも1軒1軒、全部置いてあるものが違って、そのスーパーの中にはいろんな土地からやってきた食材が積まれていて、それを1つ1つ見るだけですごく楽しくて。

前田:あはは(笑)。

甲斐:旅先じゃない近所でもどんどん楽しめるようになってきて。それは旅に出られないということもあるかもしれないんですけど。旅先で道の駅とかスーパーとかデパ地下とか見るのがもともと好きで、旅に出られなくなったら、去年とかはけっこう東京のアンテナショップ巡りをしてたんですよ。

一同:ほう。

甲斐:旅気分になれるんで。でもそれがどんどん範囲が狭まって、今度は自分の住んでいる街のあらゆるスーパーを巡って。で、もう、調味料コーナー見るだけで楽しい。スーパーが違えばいろんな土地の調味料があって、裏返して見て、それだけで1日過ぎてしまうぐらい楽しい。
今すごい歩くのも楽しくて「1日に1万歩歩く」という目標を立てて。そうすると、自分の住んでいる駅から2駅分往復するくらいとか、3駅分片道歩いて電車で戻ってくるとか、そんなことでも達成感を得られるんです。歩いている途中にもスーパーがいっぱいあってそこに寄り道するのが楽しい。だから身近にこんな楽しいものもいっぱいあるなって。で、私の場合、それが食材に興味があるんですよ。どこからやってきて、何が使われていて、どんな人が作ってとか。それで興味があると、手あたり次第買っちゃうんですね。買うことが、そういう私が好きなものへの敬意だと思っているんで。欲しいものは、宝石とかブランド品ではなく、数百円で買える食材もあるので、どんどん気になったら買う。すると、食材がどんどん溜まってくんですよ。消費するために料理をするんですけど、料理が好きで料理をするんじゃなくて。この食材どうやって使うんだろう? とか。そういう消費の仕方なんですけど、でもそうすると、家にいる時間もまたちょっと楽しくなってきて。

前田:楽しそうです。

甲斐:料理を義務として、朝昼晩食べるために作るって思っていたのを、この私が好きで買ってきた食材をどう活かすかみたいな見方をすると、まったく違ってくる。この数年で料理が楽しくなったのは、その食材のおかげですね。

酒井:確かに、スーパーはおもしろいですね。

甲斐:スーパーもただ生きるための食品を買うためって思うよりも、もうちょっと1つ1つ産地とか、缶詰とかでも、デザインに目を向けています。裏側を見ることがどんどん楽しくなってきて。

酒井:裏側のどこを見るんですか?

甲斐:住所とかです。

前田:住所ですよね、おもしろいのは。

甲斐:気になったら今度、家に帰って検索するんです。ホームページを見る。見て、「ああ、こんな物語が詰まってたんだ」とか。今の私のいちばんの趣味なんですけど、地図アプリに印を付けていくんです。気になった食材の会社の住所をサッと調べて。

甲斐さんの好きなものちょこっとご紹介 その⑤ 名建築

酒井:調べて印をつける。すごいことになってますね。

甲斐:日本中にこういう印がつきまくっていて(スマホの地図中に印がいっぱいのスマホ画面を見せてくれる)。

前田:わー、すごい!

甲斐:この食品の会社のある土地にいつか行くんだって思って、どんどん印を付けていて、今とんでもないことに。それで、自分にはまだまだこんなに行くべき場所がいっぱいあるっていうのが楽しくて。こんなに私を待っている場所があると思える。自己満足がこれで満たされてるんですけど。

酒井:めちゃくちゃおもしろいですね。オレンジページで、人生100年時代に対して、アンケートを取ったことがあるんですけれども、だいたい65%くらいの人が、「ちょっと長い」みたいな感じで、あまり人生100年時代に対してポジティブに思われていないみたいな、そういうデータがあるんですけど。甲斐さん、人生100年で足りるのかな? って。

前田:足りないでしょ?(笑)

甲斐:本があったり、映画が好きになったり、知れば知るほど、見きれない、読み切れないってことがわかる。

前田:わかる(笑)

甲斐:もう世の中の本、全部読みきれないなって思うとそれさえ幸せにおもえるんです。

一同:(笑)

甲斐:日本は狭いって言われてるけど、行くべき場所っていっぱいあって、もう行ききれないなとか、食べきれないなとか思うと、もう1食1食大事なんです。(笑)

前田:ほんと(笑)

甲斐:寝る前でも電車移動中でも、お風呂とか入っていても、その地図を見ていると幸せで(笑)

前田:下手に世界に広げたら大変なことになりますね(笑)

甲斐:はい、日本でいっぱいいっぱい(笑)

酒井:そうですね。甲斐さんに「人生100年の楽しみ方」みたいな連載を持ってもらいたいぐらいです。

前田:ほんと(笑)

酒井:甲斐さんと話していると「あ、そんな楽しみ方もあるんだ」みたいな感じで、真似してみたいなって思うことがたくさんありました。最後の質問なんですけれど、甲斐さんの中で、人生ずっと気分よく機嫌よく生きるために大切なことって、何だと思いますか? 

甲斐:好きをどんどん広げていくこと。増やすことっていうか、増やさなくても、好きが1つでもあって、それがどんどん自分の世界を広げてくれるんで、1つ何かを好きになると、その好きなものがどんどん自分の世界を広げてくれるけど、私は好きが1つじゃなくて、もうすごいことになっているんですけど(笑)。100ぐらい好きなことがあったら、その100の先にさらに、今またたくさん、どんどんつながっていって、そういう広がりが自分を毎日機嫌よく楽に過ごさせてくれる、大切なものです。

酒井:ありがとうございます。冒頭のところでおっしゃっていた、好きなものを擬人化することによって、甲斐さんの場合、ジャンルレスといいますか、ボーダレスになって。「私、建築の知識とかあんまりないから、建築はちょっと……」じゃなく、擬人化して、「おっ」と思ったルックスから、その人の奥行みたいな、知りたいとか、触れてみたいとか、そういうのって、好きを広げる1つの方法かなと。

甲斐:好きってもっと軽やかでいいんですよ。専門的な知識で深くならなきゃいけないって思わなくてもいいと思うんです。気持ちを持つことが大事で。私、パンとかもすごく好きなんですけれど、作ること、発酵して作ってということには興味があるわけではなくて、成り立ちなどに興味があるんで。自分の好きになり方は自由でいいし。自由に軽やかに好きなものをつかんでいって欲しいなと思います。

酒井:軽やかに。

前田:今日、ウェルビーイングのいろいろな構成要素にピタッとくる話が多かったので、本当にすごいと思いました。ありがとうございました。

以下、甲斐さんが皆さんのご質問にお答えします。

Q:自分の好きに自信が持てなかったり、自分はセンスがないと思っているので、人に知られるのが恥ずかしい気持ちがどうしてもあります。素直に言えるようになるにはどうしたらいいのでしょうか?

甲斐:自分の好きなことに自信がないって、やっぱり人の目を意識しているってことじゃないですか。

前田:そうかもしれないですね。

甲斐:中学生くらいになって、自分はセンスがない、自分が着ている服とかも恥ずかしいなとか、確かに好きっていうのが恥ずかしいなって思っている時期もあったんですけど、そんな時にでも、やっぱり憧れのものっていうのがどんどん湧いてきて、雑誌を見て、憧れのものにどんどん近づきたくて。それは今も、この後ろにある、『Olive(オリーブ)』っていう雑誌が好きで。

酒井:『Olive』ですか。

甲斐:『Olive』に載っているお店とか人とかモデルさんとか、出てくるブランド、洋服に憧れて。『Olive』って結構文化的な知識の話とかもあったりして、どんどん本を読んでどんどん映画を観て音楽を聴いて、というふうに、文化的なことへの欲求がどんどん湧いてきたんですね。で、最初は全然自分に自信がなかったんですけど、やっぱりいろんなものを知って世界を広げていったときには、それまで自分が好きだったものを人に伝えることが恥ずかしくなくなってきた。知れば知るほど。だからたとえば、本当に映画が好きな者同士で会話をしていたら、メジャーなものだって恥ずかしくないんですよ。本当に自分がそのことを好きって思えたら、恥ずかしくないっていうことになっていく。

酒井:はい。

甲斐:どメジャーなもの、たとえば、映画が好きって言って、「私、いちばん好きな映画、『E.T.』なんですよ」っていうのって、恥ずかしいって思うか、恥ずかしくないと思うか。

前田:ああ、そうですね。

甲斐:私は、どメジャーとされている『E.T.』とか『ゴーストバスターズ』とか、すごくおもしろいなと思います。なんか、恥ずかしいと思ったり、自信がないっていうはじまりは、自分がすごくそうだったからわかるんですね。理解できるんですけど、今好きなものを恥ずかしいと思ってるってことは、好きなものがちゃんとあったってことですよね。自分の好きなものを恥ずかしい、自信がないって思うことは、その好きなものに対しても、ちょっと申し訳ないなと思って(笑)。自分の好きなもの、対象物を好きっていう気持ちを、どんどん広げて育てて。そうすると、恥ずかしくない、あるポイントがくると思うんですよね(笑)。

酒井:はい。

甲斐:私、告白しちゃいますけど(笑)! 中学生くらいの時は、もう、人生のすべてで大江千里さんが大好きで。

前田:告白なんですか(笑)

甲斐:大江千里さんの詞を書いて下敷きに挟んだり、書き写したりとか。もう新しいCDが欲しくって、早退して買いに行くとか。でも、ある時期まで、そんな自分の中学時代が恥ずかしいと思ってたんです。でもそれって、やっぱり、大江千里さんに申し訳ない、よくないなって思って(笑)。恥ずかしいって言ってしまったらいけないなって思って。今は堂々と言うように(笑)

酒井:先ほどインタビューで甲斐さんが“推し”っていう表現を、好きっていう気持ちを“推し”っていうふうに使われてたのがすごくしっくりくる。

甲斐:同じように好きな人、推しを持っている人って今、世の中にたくさんいて、あと、推しを持つことの幸福感みたいなものって、最近けっこう取り上げられたり、特集があったりして、そういうのをいっぱい見てみるのもいいんじゃないかなと思います。恥ずかしがってることが恥ずかしくなってくるから。メジャーでもマイナーでも関係ない、好きって思った気持ちを素直に楽しむことがいちばんっていうことに、気がつけるんじゃないかなって思います。

Q:楽しい気分になる、ためになるお話をありがとうございました。キラキラした話し方がステキでした。そうは言っても、落ち込んだりイライラすることはないでしょうか? ストレスとか、負の気持ちを解消するためにされていることがあれば、教えていただきたいです。

甲斐:あります!(笑)もちろんあるんですけど、昔ほど引きずらなくなりました。30代くらいの頃までは、嫌なこととか不機嫌になることもあれば、落ち込むこともあって。そうすると、1週間くらい引きずることもありました。でも、最近は、聞いてくれる数少ない友達が何人かいて。マイナスな感情を、聞いてくれる友達には申し訳ないんですけれど、その友達に1回話すと、いいやって思えるようになってきちゃった。「聞いてくれたー。もういいや」ってなってきた。あと、その友達とは、それを笑い合えるくらいになってきた。笑い飛ばせるような関係性を築ける友達が、今は何人かいるっていうことが、すごく自分にとっては大きい。それまではひとりで抱えていたのが、そういう友達が見つけられてよかったなって。

甲斐さんの好きなものちょこっとご紹介 その⑥ 地元パン

Q:好きを人に発信する際に、大切にしていることはありますか?

甲斐:『地元パン手帖』という本を出した時に、私、すごく自信がなくて、むしろ批判されるんじゃないかくらいに思っていたんです。出したのが5年くらい前で、食に対して健康志向もより高まっていて。地元パンを語る時に、マーガリンを使っているとか、添加物も入っているものもありますし、あとカロリーがすごく高いし、甘いとか。そういったものを1冊の本に取り上げて出すと、批判される。「こういうものを今取り上げていいのか」とか、そういう声が多く届いたりするんじゃないかなぐらいに思って、こわごわ出したんです。
でも、自分の好きを貫いたんですね。自分が魅力を見出しているのは、そこではなくて、マーガリンとか使ってきた歴史とか、より甘くしていたのには理由がある、カロリーが高かったのにも理由があって。何か言われても、私はそこを「このパンにはこういう歴史があって、意味があるんです」って熱く語れるよっていうふうな決意を持っていたけど、心配だったんです。でも、フタを開けてみたらみなさん、すごくそこに興味を持ってくださって「これは別物だよね」って。普段は体にいいパンを食べていますが、地元パンに関しては、青春時代に食べたパンはやっぱり違うなっていう人もいれば、思い出がこもっているって言ってくださる方もいて。「あ、だから、やっぱり自分の思いを貫くことが大事だったんだな」って、「あの時不安になってすみません」ってパンに謝りました(笑)

酒井:大事にされていることというのは、自分の好きを貫く、好きっていう感覚を貫く、信じる。

甲斐:だから、あんまりどう思われるかみたいなことを、思い過ぎないようにしようってことと、これは本の世界でもしょうがないんですけれども、仕事している以上、やっぱりある程度の売り上げを達成しなければ仕事ではないと思っていて。売り上げもちろん意識はするんですけども。でも民俗学とか、ステキな感じというか、名もなきものにも意味があって、それを伝えるっていうことを自分はやっていきたい。それが、パンだったりお菓子の包装紙だったり、街歩きとかもそういうことで。だから、そういう気持ちを持つことを大事にしているかもしれないです。

酒井:何かしらの想いがあって、そういうところを丁寧に伝えていくっていうところなんでしょうか。ちなみに「どんなパンが好きですか?」という質問もきてるんですけど。

甲斐:それは見た目がかわいいパン。キュンとときめくパンっていうのがあって。パンのパッケージは「パンのドレス」って私は呼んでいるんですけど(笑)。かわいいワンピースをまとっているパンが、デザインも含めて、好きって思っています。

酒井:パッと今思いついたパンは? もう全部好きなんでしょうけど。

甲斐:島根県の『バラパン』とか。なんぽうパンさんっていう会社が作っている。(パンの)形自体もバラの形をしていたりして。パンがバラの形って日本的な和菓子のように、食べたらなくなってってしまうものを美しい形にするっていう美意識、そういうところから大尊敬したりして。

酒井:(ネットで検索して)出ました。

前田:こんな感じなんですね。わ、すごいパッケージ。

甲斐:花びら見たいなロールも、職人さんが手で巻いてるんですよ。機械じゃないんですよ、これ作ってるのが。

前田:これはカワイイ。

甲斐:そう。カワイイし、中のクリームも素朴なクリームで美味しいし。
本当に、やっぱり好きなものや推しについて話していれば、みんな元気になれると思うんですよ。

前田:これ、ほんとにいいことですね。世の中にはおもしろいものもいっぱいありますもんね。

甲斐:「推し活」してください、みなさん!


甲斐みのり(かい・みのり)さん
1976年、静岡県生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒。旅、散歩、お菓子、地元パン、手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨や暮らしなどをテーマに、書籍、雑誌、webなどに広く執筆している。その土地ならではの魅力を再発見することが得意で、地方自治体の仕事も行なっている。
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